
データで見る今週のホルムズ:日本関連船に危機
データで見るホルムズ海峡最新情勢:日本タンカー「KIKU」攻撃と封鎖された航路の行方
6月中旬にアメリカとイランの間で合意が締結された後、ホルムズ海峡の情勢は一時的に落ち着きを取り戻すかに見えた。しかし、期待に反して再び攻撃の応酬が始まり、地域の緊張は深刻なレベルで再燃している。 世界の原油輸送の主要な要衝であるこの海峡で、実際に何が起きているのか。今回は、公開された船舶の航行データに基づき、日本経済にとっても喫緊の課題であるホルムズ海峡の最新情勢と、それにまつわるイランの思惑を詳細に解説する。

Q. ホルムズ海峡の最新状況はどのようになっているか?
アメリカとイランが暫定的な合意に至ったにもかかわらず、6月下旬には再び軍事的な攻撃の応酬が頻発し、ホルムズ海峡を取り巻く情勢は一段と不安定化している。かつての停戦交渉前の状況に戻りつつあるといえよう。 船舶のリアルタイムデータを見ると、現在ホルムズ海峡を通過している船舶の数は先週に比べると大幅に少なく、極めて静かな状態であることが明らかになった。 確認できる航行事例の中には、イラン船籍の船舶がペルシャ湾外へ出ていくケースもある。しかし、原油タンカーではなくバラ積み貨物船の通過に留まっており、タンカーの活発な航行は見られない。先週とは異なり、全体の船舶数が減少しているのが現状だ。

Q. 日本関連のタンカーが海峡通過を阻まれた経緯は?
6月25日の未明、複数の日本関連タンカーが列をなしてホルムズ海峡のオマーン側航路を通過しようとしていた。これら船舶の多くは「リンガプーマ」「アジアンプログレス」といった日本企業にゆかりの深い名称を冠しており、日本へのエネルギー輸送を担う重要な存在だ。当初、先頭を行く数隻は無事に海峡を通過することができた。 しかし、「オメガトレーダー」や「ヤクモサン」など後続のタンカーは、航行を継続することを断念し、ペルシャ湾へと引き返す事態となった。わずか数時間の差で、同じ日本関連の船でも通過できた船と、引き返さざるを得なかった船に分かれるという、「運命の分かれ道」が発生した。 この航行断念の裏には、同時期にイラン革命防衛隊(IRGC)が「オマーン側の航路は認めず、全ての船舶は北側のイラン領海側を航行すること」という通達を一方的に発表したことが大きく関係している。まさに日本タンカー船団がオマーン側航路を通過しようとした直前の発表であり、極めて意図的なタイミングであったと考えられる。 IRGCの通達が数時間でも遅れていれば、待機していた日本関連タンカーも全て通過できていた可能性が高く、この時間差が船舶の運命を決定付けたと言えるだろう。
Q. 日本に関連するタンカーが攻撃されたという情報は事実か?
今回注目すべきは、「KIKU」という名のタンカーだ。過去に飯野海運や出光タンカーが所有・運航し、日本の港と中東の間を幾度となく往復してきた、日本に極めてゆかりの深い船舶である。現在の船籍はパナマだが、日本船主責任相互保険組合(ジャパンP&Iクラブ)に加入し、日本海事協会の船級を取得するなど、実質的に日本の船と言っても過言ではない。 「KIKU」の航跡データを見ると、ホルムズ海峡の通過時に位置情報信号(AIS)が途切れる現象が確認された。これは、航路上の追跡を避けるため、意図的に信号を切断する「ステルス航行」を行ったことを意味する。 さらに衝撃的なのは、この「KIKU」が航行中に、複数の公式情報筋からIRGCに攻撃されたというアラートが発せられたことである。もしこれが事実であれば、日本と密接な関係を持つタンカーがイラン側から攻撃を受けた初の事例となり、日本にとって極めて重大な事件と言えるだろう。 「KIKU」は目的地であるフジャイラ沖には到達しており、現在のところ航行は継続しているようだが、攻撃の具体的な状況や船舶への損害、積載されている原油の安否などは不明であり、予断を許さない状況が続いている。 リスクを冒してステルス航行を試みてもなお、攻撃の対象となるという事実は、ホルムズ海峡の航行がどれほど深刻なリスクに直面しているかを示すものだ。

Q. 多くの船舶がイラン側のルートではなくオマーン側のルートを選好する理由は何か?
ホルムズ海峡を通過する多くの船舶、特に日本関連船がイラン側の航路ではなくオマーン側の航路を選好する主な理由は複数ある。第一に、物理的な要因として、オマーン側ルートの方が航行距離が短く、時間や燃料の節約に繋がる効率的な選択だからだ。 第二に、安全性の確保が挙げられる。イラン側ルートは過去に高速艇やミサイルによる攻撃事例があり、イラン革命防衛隊が近くに位置することから、多くの船舶は危険を避けてオマーン側に航路を求める。実際、かつて米国が主導した「プロジェクトフリーダム」と称される安全航行作戦も、このオマーン側ルートを利用していた経緯がある。そのため、オマーン側航路は西側諸国にとって「安全なルート」としての認識が強い。 データを見ると、イラン革命防衛隊が南側航路の封鎖を宣言する以前は、ほとんどの船舶がオマーン側航路を通過しており、イラン側の航路を利用する船は極めて少なかった。
Q. イランがオマーン側航路の封鎖に踏み切った政治的・戦略的な意図は何か?
イランがオマーン側航路の封鎖に踏み切った背景には、海峡における支配権の強化という政治的・戦略的な意図が強く存在する。多くの船舶がオマーン側航路を選択することで、それが既成事実化し、結果としてイランがホルムズ海峡に対する影響力を失うことをイラン側は危惧していたと考えられる。 イランとしては、自国の意思で航行をコントロールできる体制を維持し、海峡の支配力を示す機会を虎視眈々と狙っていた。船舶が一斉にオマーン側を通過し始めたことは、イランにとって自らの支配力が揺らぎかねない事態として受け止められた可能性が高い。 そのため、一方的な通達という形での航路制限を行い、さらに「KIKU」への攻撃のような実力行使を通じて、自らの意思の絶対性と強制力を行動で示そうとしたのである。これは単なる安全性の問題を超え、ホルムズ海峡という地政学的な要衝におけるイランと西側諸国のパワーバランスを巡る攻防の一環であると言えよう。
Q. 日本のタンカーの行動様式と、今後のホルムズ海峡の情勢についてどのような見方ができるか?
タンカー「KIKU」はリスクを冒して航行中に攻撃を受けた可能性がある一方、他の日本関連タンカーはイランからの威圧に対し、航行を断念し引き返した。これは脅威に直面した際に無理をせず安全を最優先するという、日本特有のリスク回避的な国民性が顕著に現れた行動といえるだろう。 この日本の「安全第一」という特性は、裏を返せば、イランからの威圧が非常に効果を発揮しやすい状況を生み出す可能性も指摘される。強制力を伴う通達に対し、日本の船舶が従順に対応することで、イランの戦略が成功しやすい構図となるかもしれない。 国際海事機関(IMO)が主導した「救出作戦」は、湾内に長期間足止めされた船員の人道的な救出が目的であり、「湾内から外へ」の一方通行で航行を許可する限定的な措置であった。これは決してホルムズ海峡の自由な通航や商業貿易の再開を保証するものではなかったのだ。 救出作戦はすでに中止が発表され、ホルムズ海峡の情勢は停戦の覚書締結前の危険な状態に完全に逆戻りした。現在では、AISを切ってのステルス航行など、公式ではないリスクの高いイレギュラーな通過方法しか残されていないのが実情である。依然として予見不可能な不安定な状態が続くことが予想される。
