PIVOT TALK LIFE
拡大するおひとり経済圏。最高のひとり時間の作り方
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2026年6月27日

単身者に限らず、子育て世代もあえて「1人時間」を求める需要が増加している。豊かな時間を過ごすカギは、他者との繋がりを保ちながら自ら「孤独」を選ぶバランス感覚。「孤独は選ぶが孤立はしない」という心身の健康に不可欠な考え方について、おひとりプロデューサーのまろ氏に話を聞きました。 <ゲスト> まろ|お...
「おひとり様」が経済を動かす!人生を豊かにする最高のひとり時間の作り方
近年、「おひとり様」という言葉を耳にする機会が増え、一人カラオケ、一人焼肉といったソロ活動を楽しむ文化が浸透した。このトレンドは消費行動全体に広がり、「ソロエコノミー(おひとり様経済)」として一大マーケットを形成している。今回は、この「おひとり様」ブームの立役者である、おひとりプロデューサーのまろ氏が語る、その背景と充実したひとり時間の作り方を掘り下げる。

Q. なぜ今、おひとり様マーケットはこれほどまでに盛り上がっているのか?
おひとり様市場の拡大は、単身世帯の増加だけが理由ではない。日本には禅のように個人と向き合う文化が古くからあるが、コロナ禍が大きな転換期となった。人との接触を避ける必要があったことで、多くの事業者がやむを得ず一人向けプランを開始。これにより、これまで潜在的であった一人時間の需要が顕在化し、同時に受け入れ側の体制が整った。コロナ禍後も一人向けプランの需要は衰えず、むしろ拡充する施設が多く、一人時間の魅力が体験され定着したことを示している。
Q. おひとりプロデューサーとはどのような仕事内容か?また、その原点はどこにあるのか?
おひとりプロデューサーは、一人時間の意義や具体的な過ごし方を提案し、その魅力を発信する専門家だ。まろ氏の活動の原点は、高校時代の修学旅行にある。女子校の修学旅行中、集団行動が続く極限状態の中で、ホテルのベランダで一人になった瞬間に「自分には一人の時間が必要だ」と強く感じたという。社会人になってからも、チームで働く中で昼休みなどの僅かな一人時間がリフレッシュに繋がることを再認識。一人時間に救われた経験から、その魅力を多くの人に伝えたいという思いで活動を開始した。
『おひとりホテルガイド』、『おひとり様ホテル』、『1人がいい旅』などの著作を執筆
星野リゾート初の「一人温泉宿プラン」の監修など、一人客向けヒット企画を多数手がける

Q. 単身者以外の「おひとり様」が増加しているのはなぜか?
「おひとり様」のニーズは単身世帯だけでなく、家族を持つ人々にも広がりを見せている。特に子育て世代は、子どもが生まれたことで一人時間を切望する声が多い。「解放ソロ層」と呼ばれる彼らは、健全な子育てや心身の健康維持のため、意識的に一人時間を確保しようとする。かつて「おひとり様」が独身を指し、ネガティブな印象を持たれがちだった時代とは異なり、現代では「一人時間」という、誰もが選択できるポジティブな概念へと変化した。
また、「アクティブシニア層」も重要な担い手だ。夫婦仲が良くても、旅行の趣味が合わない場合、それぞれが一人旅を楽しむことで、かえって夫婦円満に繋がるという新しい価値観が生まれている。さらに、スマートフォンの地図アプリやAIなどのテクノロジー普及も、一人での行動のハードルを劇的に下げ、趣味嗜好の多様化と相まって、他人との予定や金銭的な「すり合わせコスト」を避けるために一人を選ぶ人々を増やしている。
Q. 星野リゾート「界」と開発した一人温泉プランはなぜ成功したのか?
まろ氏が星野リゾート「界」と共同開発した「初めての1人温泉宿プラン」は、一人旅初心者の不安を徹底的に解消する設計で大成功を収めた。従来の温泉旅館では、一人での食事時に「周囲の目が気になる」という声が多く、特にファミリー層の中で肩身の狭さを感じることもあった。「界」の半個室ダイニングは人目を気にせず食事に集中できる環境を提供。また、豊富な地域の工芸品作りなどの体験コンテンツが用意され、「何をすれば良いか分からない」という不安を解消した。旅の計画が苦手な初心者でも、宿に行けば充実した時間を過ごせるように工夫されている。

このプランは「一人でも歓迎されている」というメッセージを明確に打ち出し、これまで一人温泉を諦めていた人々の背中を押す形となった。結果、予約は想像をはるかに超え、440件を超える大反響を呼んだ。この成功は、温泉宿にとって一人客が繁忙期を避け閑散期に利用するため稼働率の向上に繋がり、利用者側も静かな環境で手厚いサービスを受けられるという、双方にとってWin-Winの関係を築いたことを示している。
Q. 豊かな一人時間を過ごすための「哲学」とは何か?
最高のひとり時間を過ごすための核となる哲学は「孤独は選ぶが孤立はしない」である。人との繋がりを持つ選択肢がある中で、自分の意思で能動的に一人を選ぶ状態が重要だ。強制的に一人になったり、一人しか選択肢がない状況は、時に心を不安定にさせる。まろ氏自身もフリーランスになり一人でいる時間が多数派となった時、積極的に人と会うようバランスを取った経験があるという。自分にとって心地よい「一人時間」と「誰かとの時間」のバランスは、ライフステージや環境によって常に変化するものであり、その都度、最適なバランスを模索し続けることが大切だ。自分自身の心を大切にし、意図的に孤独を選ぶことで、より充実した豊かな時間を過ごすことができる。
Q. 多数のホテルを体験したプロが語る、「最高のひとりホテル」の選び方とは?
まろ氏はこれまで約300の宿泊施設に泊まってきたが、「最高の宿」は一つではなく「その時の自分の気分や目的」によって変わると断言する。自然の中で癒されたいのか、都会の夜景をゆっくり眺めたいのか、あるいは街歩きをメインに楽しみたいのか。まずは自分がその旅でどう過ごしたいかを自問自答することが、ホテル選びの第一歩である。一人旅は誰にも気を遣わず、自分の選択に100%責任を持つため、宿選びの成功が旅の満足度に直結する。このため、一度「ここだ」と思える宿に出会うと、安心して何度も利用するリピーターになりやすい傾向がある。

特に、歴史的建造物が魅力の「クラシックホテル」は一人旅に最適だ。建築の細部や装飾をじっくり観察したり、歴史資料が展示されたミュージアムを訪れたり、夜中に誰もいないロビーを散策したりと、誰にも気兼ねなく、自分のペースで深くその世界観を味わうことができる。例えば、富士屋ホテルで働くスタッフのマニュアルに記されていた「仕事を科学せよ」という言葉は、個々のスタッフがサービスを自ら追求する姿勢を奨励しており、これが卓越したサービス文化を築いていると、まろ氏は考察する。クラシックホテルは、泊まるたびに新たな発見がある「知的な沼」であり、一人旅の奥深さを体験できるだろう。
Q. 一人旅を始めてみたい人へのアドバイスと、今後の展望は?
一人旅に憧れつつも躊躇している人へ、まろ氏から実践的なアドバイスがある。最も確実な始め方は「過去に誰かと訪れて良かった場所に、今度は一人で行ってみる」ことだ。土地勘や雰囲気の予測がつきやすく、失敗のリスクを最小限に抑えつつ、一人での体験に集中できる。もし道中で不測の事態や失敗があっても、それは「友人との面白い話のネタ」として消化すると良い。「自分で不幸だと思わなければ不幸にならない」というポジティブな精神が、一人旅の醍醐味である。

また、最初から完璧な一人旅を目指す必要はない。「部分的ひとり」から始めることを推奨している。例えば、友人や家族との旅行中に、一時間だけ別行動して自分だけの時間を持つなど、小さな一歩から慣れていくと良い。自分が不安に思う点(例えば食事時の人目など)を一つずつ解消することから始め、期待値を上げすぎずに気軽に挑戦することが、新しい一人時間の世界を広げる鍵となる。この一人旅の需要は日本にとどまらず、世界的な潮流だ。台湾では「独旅(ドゥーリー)」が若者たちのステータスになるほどブームとなっており、治安が良く交通網が発達している日本は、海外のソロトラベラーにとって非常に魅力的な旅行先となるだろう。日本の観光事業者にとっても、インバウンドの「おひとり様」は新たなターゲットとして大きな可能性を秘めている。