
【失明の危険も】近視のリスク
【−6D以上は特に注意】近視のリスク
世界中で近視人口が爆発的に増加し、「パンデミック」とも称される現在、近視は単なる視力低下ではなく、最悪の場合失明にもつながる深刻な健康問題である。このペースが続けば、2050年には世界人口の約半分(約50億人)が近視に、さらに約1割(約10億人)は日常生活に著しい支障をきたす「強度近視」になると予測されている。
眼科医の世界的権威であり、「近視医療の女王」とも称される東京科学大学大学院教授・眼科医の大野京子氏に、近視がもたらす知られざるリスク、そして近視の進行を食い止め、改善さえ可能にする画期的な最新治療法について詳しく聞いた。これは、自分と家族の目を守る上で、全ての人が知っておくべき重要な知識である。

Q. 近視が世界的な「パンデミック」と呼ばれるのはなぜか?
近視の増加は遺伝だけでなく、生活環境の変化という環境要因に大きく起因する、全世界的な健康問題となっている。これまで近視が少なかった欧米やアフリカでも増加は顕著であり、この爆発的増加傾向からパンデミックと認識されている。
最大の原因は、スマートフォンや携帯ゲーム機など「近業」機会の増加と、屋外活動時間の減少だ。近くを長時間見続けることや太陽光に当たる時間の不足が、眼軸長の伸展(眼球が奥に伸びること)を誘発し近視を引き起こす。特に画面が小さいデバイスほど、近くで見るための強い刺激となりやすい。
国際的に見ると、台湾が学校カリキュラム改善で近視進行を抑制した成功例もあるが、多くの国で増加傾向は止まらず、世界中で老若男女問わず視力低下が加速している状況は、まさに人類が直面する新たな危機なのだ。
Q. 子供の近視が特に深刻な問題とされる理由は何か?
子供の眼球は発達途上であるため、大人の目よりも近視の影響を深刻に受ける。大人の目はある程度完成しているため、近視の進行もある程度限定的だが、子供は強い刺激に過敏に反応し、将来非常に強い強度近視に繋がりやすいのだ。
特に8歳から10歳頃は目の発達における「臨界期」とされ、この時期の生活習慣や治療が将来の近視の度合いを大きく左右する重要な期間だ。成長期の子供が受けたダメージは、眼軸長を過度に伸展させ、その後の人生で重篤な目の病気を招きやすくする。

文部科学省の統計では、日本の子供たちの裸眼視力1.0未満の割合は小学生で30%以上、高校生で60%以上に達し、全ての年代で増加傾向にある。このままでは、将来的な医療費増大やQOL(生活の質)低下は避けられないだろう。屋外活動を増やし、遠くを見る機会を作るなど、子供の生活環境を改善することが極めて重要だ。
Q. 近視が引き起こす目の重篤な病気とはどのようなものか?
近視は、単なる視力低下ではなく、眼球の伸展によって網膜や視神経などの重要な組織が引っ張られ、損傷を受けやすくなるため、失明に繋がりかねない重篤な目の病気のリスクを高める。例えば、軽度の近視(-1から-3D)であっても、白内障の発症リスクは2倍、網膜剥離は3倍、そして特に緑内障は4倍にまで上昇する。近視が強度であるほどこれらのリスクはさらに増大する。

「白内障」は水晶体が濁ることで視力低下を招く病気だが、現在は手術によってほぼ完全に視力回復が期待できる。近視が強いと50代、60代という若さで発症することがあるものの、症状が出れば早期に対応すれば視力回復が見込める比較的治療しやすい病気だ。
「網膜剥離」も近視が進行するとリスクが高まる。視野の中に墨をまいたような飛蚊症が急激に増えるといった自覚症状が現れることが多く、これも早期発見・早期治療を行えば、復位率はほぼ100%と良好な結果が見込める病気である。
しかし、数ある合併症の中で最も危険かつ警戒すべきは「緑内障」だ。緑内障は視神経が障害され視野が徐々に狭くなる病気で、一度失われた視野は二度と元には戻らない。治療によって進行を遅らせることはできるが、進行すれば最終的に光を全く感じない完全な失明に至る可能性もある。近視を持つ全ての人が、この緑内障のリスクについて深く認識すべきである。
Q. 緑内障の早期発見が特に難しいのはなぜで、どう対処すべきか?
緑内障が最も恐ろしいのは、その発見の困難さにある。初期の病状では視野の周辺部から欠損が始まるため、日常生活で自覚症状がほとんど現れない。私たちは物を見る際に主に中心視を使うため、視野の上半分などが欠けていても、無意識にそれを補ってしまうのだ。
また、両目で物を見ているため、片方の目に異常があっても、もう一方の健康な目が視野の欠損部分を自然に補完してしまう。これにより、病気がかなり進行するまで異常に気づかないケースが多い。視野の真ん中にまで影響が出始めるような末期になって、ようやく「見え方がおかしい」と気づくことが少なくない。
自覚症状が出た時点ではすでに視神経へのダメージが広範囲に及んでいる可能性が高い。失われた視神経を再生することは現代医学では不可能であるため、一度失われた視野を取り戻すことはできない。緑内障による失明を防ぐ唯一の方法は「早期発見と早期治療」に尽きる。特に近視を持つ人はリスクが高いことを認識し、症状の有無に関わらず40歳を過ぎたら年に一度は眼科で定期的な検診を受けることが不可欠だ。早期に発見し、適切な治療を継続することで、生涯にわたり視機能を維持することは十分に可能である。
Q. レーシックとICL、どちらの視力矯正手術が推奨され、近視の進行は止められるか?
視力矯正手術において、日本では角膜をレーザーで削るレーシックは下火となり、眼内に特殊なレンズを埋め込むICL(Implantable Collamer Lens)が主流となりつつある。レーシックは一度削った角膜は元に戻せない「不可逆性」が大きな欠点であり、強度近視への適応にも限界がある。また、術後に角膜形状が変わることで、将来の白内障手術時のレンズ度数計算が困難になったり、緑内障発症時の正確な眼圧測定が難しくなったりする長期的な問題も指摘されている。

一方、ICLの最大の利点はその「可逆性」である。万が一何らかの問題が発生した場合でも、埋め込んだレンズを取り出して元の状態に戻すことができる。また、将来的に白内障手術が必要になった際も、ICLを取り外すことで通常の白内障手術が可能だ。白内障手術の術式と似ており、術前の精密検査によって手術に伴うリスクはかなり低いと考えられている。これらの長期的な安全性と将来の選択肢の広さから、日本においてはICLがレーシックよりも推奨される傾向にある。
さらに、近視の進行そのものを食い止める画期的な治療法も登場している。例えば、「低濃度アトロピン点眼液」は日本で開発された点眼薬で、1日1回寝る前にさすだけで近視の進行を40~50%抑制する効果が期待されている。「レッドライト治療」は、1日2回、数分間赤い光を見るだけで近視の進行を約8割抑制すると報告されており、オルソケラトロジーとの併用で近視改善の可能性も示唆される。
これらの最新治療法を組み合わせることで、もはや近視の進行を完全に止め、さらには視力の改善まで期待できる時代になった。もはや近視は「治らない病気」ではない。一人ひとりが自身の目の健康に対し、より積極的なアプローチを取ることが可能な時代を迎えている。
Q. コンタクトレンズは安全か?適切な使用方法とは?
近年のコンタクトレンズは酸素透過性が高く品質も向上しており、用法・用量を守ればリスクは低いといえる。特に、感染症のリスクを低減するため使い捨てタイプの利用者が増えている。しかし、水道水での洗浄やワンデーレンズの複数日使用といった誤った使い方は、深刻な目の感染症を引き起こす危険があり厳禁である。
長時間の連続装用にも注意が必要である。コンタクトレンズを長時間つけたままにすると、角膜が慢性的な酸素不足に陥る可能性がある。角膜は本来、血管が存在しない透明な組織だが、酸素不足が続くと、白目側から酸素を供給しようと血管が侵入してくることがある。これにより角膜は脆弱化し、傷つきやすくなったり感染症にかかりやすくなったりするのだ。これを防ぐためには、一日中つけっぱなしにするのではなく、夜間やオフの日はメガネを使用するなど、適度な休養を与える「メガネとの併用」が推奨される。
もしコンタクトレンズ装用中に、目にゴロゴロとした異物感、痛みが続く、あるいは光が散乱して見えるなどの「違和感」があった場合は、決して自己判断で放置してはならない。特に傷がレンズで覆われることで痛みが感じにくくなり、病状の重篤化を見過ごしてしまう危険があるからだ。速やかにレンズの使用を中止し、専門の眼科を受診することが肝要である。コンタクトレンズは高度な医療機器であり、目の健康維持のためには定期的な眼科医のチェックも不可欠だ。
