
中東紛争で変わる株・変わらぬ株【小林千紗】
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2026年6月8日
「地政学リスク=株安」という通説は想像するほどネガティブではない?UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメントの小林千紗氏とともに不確実な時代の投資戦略を「銘柄選別」の視点から掘り下げる。 <ゲスト> 小林千紗|ストラテジスト BNPパリバ証券・メリルリンチ日本証券 現BofA証券)にて株式...
不確実な時代の投資戦略:地政学リスクを乗り越え、資産形成を加速させるヒント
激動する世界情勢の中、投資家は「不確実な時代」にどのように向き合うべきだろうか。地政学リスクの高まりや物価上昇など、懸念材料が尽きない現代において、感情に流されずに賢明な投資判断を下すことがますます重要となっている。
本稿では、過去の歴史データや市場のメカニズムを紐解き、「変わったこと」と「変わらないこと」を識別する新たな投資戦略を解説する。
これにより、投資家が市場の混乱に動揺することなく、長期的な視点で資産形成を継続するための実践的なヒントを得ることを目指す。

Q. 地政学リスクは株式市場に長期的な影響を与えるのだろうか?
地政学リスクは投資家の不安を煽り、市場に一時的な下落をもたらす。しかし、過去のデータを検証すると、そのネガティブな影響は投資家が想像するほど長くは続かない。実際、多くの紛争や危機的イベント発生後、S&P500やTOPIXといった主要株価指数は、半年後や12ヶ月後には平均でプラスのリターンを記録している。
米国S&P500や日本TOPIXの歴史的な分析では、地政学リスク発生後、12ヶ月後の株価は多くの場合でプラス成長であった。
市場は回復力が強く、パニック売りが過剰に進行すると、その後大きく反発する傾向にある。
つまり、地政学リスクによる株価下落は、長期的な視点を持つ投資家にとって絶好の「仕込み時」となりうる。
ただし、短期的な株価の動きは予測困難であり、一括投資ではなく、時間分散を意識した積立投資など、リスクを軽減する戦略が賢明であるとされている。
Q. 市場の変動に際して、個人投資家が心がけるべき重要なことは何だろうか?
市場がパニックに陥った時、最も避けるべき行動は感情的な「瞬間パニック売り」である。まずは一呼吸おき、自身の投資ポートフォリオが特定の資産に偏りすぎていないか、十分に分散が効いているかを確認することが先決だ。

投資判断の軸は「投資当初のシナリオやストーリーが、現在の状況で変わったかどうか」にある。もし投資先の長期的な成長ストーリーが揺らいでいないのであれば、株価下落はむしろ割安で買い増し(ナンピン買い)をするチャンスとして捉えよ。
市場の恐怖心理を示すVIX指数が「30」を超えるような局面は、歴史的に見て非常に稀な「極端な悲観状態」であり、その後の大きなリターンを期待できる絶好の買い場となることが多い。
個人投資家は、自己資金で投資する性質上、短期的なリターンを求められる機関投資家とは異なり、時間的な制約なく長期保有を続けられる点が最大の強みである。この優位性を活かし、市場の動揺に左右されない投資姿勢を貫くべきだ。
実際、地政学リスクによって市場が大きく調整された際には、機関投資家がリスク管理の観点から売り越す一方で、日本の個人投資家は買い越しに回ったデータもあり、これは個人投資家が自らの強みを活かした行動だと言える。
Q. 市場の強さと回復力の背景にある主要な要因は何だろうか?
不確実な時代においても市場が底堅いのは、大きく分けて二つの要因がある。一つは堅調な企業業績、もう一つは市場に存在する潤沢な待機資金である。
日本および米国の企業業績は堅調に推移しており、最新の業績予想においても上方修正が見られる。これにより、仮に今後経済が減速する事態になっても、企業は「良い発射台」からスタートできるため、市場全体が大きく崩れるリスクは低いと分析されている。また、企業がコスト上昇を適切に価格転嫁できる体質になっていることも、業績の安定に寄与している。

さらに、世界の金融市場には巨額の待機資金が滞留している。特に米国のMMF(マネー・マーケット・ファンド)には約7.8兆ドルもの資金があり、これはS&P500の時価総額の10%以上に相当する規模である。
この「下がったら買おう」と虎視眈々と機会を窺う資金が豊富なため、株式市場が大きく下落しても強力な買い支えが期待でき、相場の底堅さに繋がるのだ。コロナ禍後の大規模な金融緩和によってもたらされた「金余り」の状態が、投資意欲の根底にある。
Q. 紛争を機に「変わること」と「変わらないこと」を踏まえた投資の着眼点とは?
不確実な時代を乗り切るためには、世界が「紛争を境に変わったこと」と「変わらないこと」を冷静に見極める視点が不可欠である。この識別こそが、今後成長する産業や企業を選定する上での鍵となるだろう。

エネルギー・食料安全保障:日本をはじめとする多くの国で、エネルギーと食料の自給率向上が喫緊の課題となった。これは関連産業への長期的な国家投資と、企業ニーズの高まりを意味する。
防衛力の重要性:世界的に防衛の必要性が再認識され、各国で防衛費増強の動きが加速している。防衛産業や関連技術を持つ企業には新たなビジネス機会が生まれる。
コスト高騰への対応力:原油などの一次産品価格の上昇は、最終製品価格に転嫁される。サプライチェーン全体でコスト増を適切に価格に反映できる「価格決定力」を持つ企業と、それができない企業との間で業績の二極化が進む。投資家は、値上げが許容される競争力のある企業を見極める必要がある。
一方、地政学リスクの影響を受けにくい、普遍的な成長トレンドも存在する。
AI・データセンター需要:ビッグテックによるAI設備投資やデータセンター需要は、今回の紛争によっても大きく変わることはないメガトレンドである。この強固な需要は今後も持続的に拡大する見込みだ。
日本のサプライチェーン企業:日本企業の中には、このAI・データセンター分野のサプライチェーンにおいて、半導体、機械、電子部品、素材といった高度な技術と製品を提供する企業が数多く存在する。これらの企業は、「変わらない」成長の恩恵を受け続け、高い需要が期待できる。
これらの「変わること」「変わらないこと」という二つの視点から市場を整理することで、不確実な状況下でも冷静かつ戦略的な投資判断が可能となる。
Q. 長期的な資産形成において、個人投資家が遵守すべき鉄則は何だろうか?
日本株に投資する場合でも、米国の金融政策、特にFOMCの利上げ・利下げ動向は常に意識しておくべきである。日本企業の売上の多くは米国市場に依存しており、米国経済の動向が日本株のパフォーマンスに直結するからだ。
市場が大きく変動する時代でも、個人投資家が着実に資産を形成するための王道は、依然として「長期・分散・積立」の原則に尽きる。特に、NISAなどの非課税制度を活用した積立投資は、市場が下落した局面でこそその真価を発揮する。
市場の下落は一見不安材料に見えるが、積立投資家にとっては、割安な価格で多くの口数を購入できる絶好の機会となる。感情に左右されず、淡々と買い続けることで、将来の市場回復時に大きなリターンを得られる可能性が高まるだろう。目先の株価変動に一喜一憂せず、この鉄則を遵守することが、個人投資家が成功するための最も確実な道と言える。
