
過去20年で半減。書店消滅のリアル
書店再興戦略の裏側:作家・今村翔吾が挑む苦境と突破口
2003年の2万店舗から現在では1万店舗を下回り、毎月30店舗もの書店が姿を消している。その上、減少する店舗数の正確な統計すら把握できないのが、日本の書店業界の現状である。作家・今村翔吾氏は、この厳しい現実を前に「書店再興戦略」を掲げ、自ら3店舗の書店を経営する傍ら、新たなビジネスモデルを模索している。本稿では、今村氏が直面する書店のリアルと、その再興に向けた革新的な挑戦について深掘りする。

Q. 書店減少の深刻な現状と、その背景にある「誰も知らない」実態とは?
書店の減少はデータ以上に深刻な状況にある。2003年度に約2万店舗あった書店数は現在1万店舗を下回り、このペースでいくと毎月約30店舗が失われている計算になる。しかし、この数字すら正確な統計ではなく「っぽい」情報であることに注意が必要だ。小規模な新設店舗の数を含めると、店舗数自体が増えたように見えても、実際の売り場面積である「坪面積」では激減が続いている。

この減少の波はコンビニの雑誌コーナーにも及んでいる。雑誌の売上不振だけでなく、2028年の物流問題が大きな影を落としており、雑誌がコンビニから完全に姿を消す可能性すら示唆されている。書店が「生活のインフラ」としての機能を失いつつある危機的な状況だ。
Q. 作家として多忙を極める中、今村翔吾氏が書店経営に挑戦する真意とは?
作家と経営者の二足のわらじを履くことは、今村氏にとって相乗効果をもたらしている。本人は「経営をやっていなかったら作家を辞めていたかもしれない」と語るほど、経営の現場で得られる生きた情報や学びが創作の源泉になっているのだ。机に向かうだけでは得られない社会との接点やビジネス上の気づきが、作品にリアリティと深みを与えている。
このスタンスは、作家でありながら事業家として文藝春秋を創設した菊池寛を意識したものだ。単なる作家に留まらず、自らビジネスを手がけることで、業界全体のエコシステムに貢献し、新たな価値を創造しようとしていると言える。今村氏の日常は、朝礼での社長業から始まり、タレント活動、そして書店会議と多岐にわたり、まさに現代の菊池寛とでも言うべき多才な活動を展開している。
Q. シェア型書店「ほんまる」は、いかに都市と地方で異なる戦略を描くのか?
今村氏が手掛けるシェア型書店「ほんまる」(東京・神保町)は、都市部では順調にビジネスとして成立している。棚のレンタル収入は安定的な収益源となり、棚主は個人による自己表現の場として、また企業は広告宣伝の機会として活用している。これは、高い人口密度と文化活動が活発な都市部ならではの成功モデルだ。

しかし、地方展開には異なるアプローチが必要となる。今村氏が描くのは「ハイブリッド型書店」の構想だ。地方では全ての棚を貸し出すのではなく、一部(例えば50棚程度)をシェア棚として地元企業や個人に貸し出し、残りのスペースでは通常の書店として幅広いジャンルの本を扱う。これにより、家賃をカバーしつつ、地域に必要な書籍の供給も可能にする。地域の有力企業は利益追求よりも「街に本屋を残したい」という貢献意欲が高く、こうしたニーズと合致する形で地域書店を維持・発展させていく計画である。
Q. 大阪の「木下ブックセンター」は「儲からない」をどう克服したか?
今村氏が初めてM&Aで事業承継した「きのしたブックセンター」(大阪・箕面市)は、「本屋は儲からない」という厳しい現実をまざまざと見せつけた。低い粗利率に直面し、従来の書店単体では黒字化が困難であると痛感した。その打開策として、文具やカフェ併設など多角化に乗り出す書店の理由を肌で理解することとなる。

特に画期的だったのは、隣のテナントを借りてカフェを併設したことだ。さらにコーヒー会社をM&Aし、焙煎まで内製化することで利益率を最大化。結果として、駅前再開発で売り上げが7割減となった厳しい状況を乗り越え、赤字転落寸前の店舗を黒字に転換させた。書店とカフェは驚くほど相性が良く、カフェ客が本を買い、本目当ての客がカフェを利用することで、集客力と収益性の両面で大きな相乗効果が生まれたという。
Q. 書店業界を長年苦しめる「粗利率22%」の慣習は、なぜ未だに続くのか?
書店ビジネスが抱える最大のネックの一つが、約22%という書籍の低い粗利率だ。これは法律で定められたものではなく、戦後間もない時期に「誰かが決めた」慣習がそのまま引き継がれてきたものとされている。しかし、現代の経済状況においてこの低すぎる粗利率は書店の経営を極めて困難にしている。今村氏は「犯人は誰だ」とまで問いかけるほど、この不透明な慣習への問題意識は強い。
このような不安定な収益構造の事業で生き残るには、売上の変動が大きい書籍販売だけに頼るのではなく、安定的な収入源を持つことが必須である。その解決策として浮上するのが、ジムやシェアオフィス、あるいはシェア型書店の棚貸しなど、「書店+サブスク」の組み合わせモデルだ。毎月決まった収入が確保できれば、経営基盤は大幅に強化される。これにより、書籍販売の利益率の低さを補い、書店本来の魅力を最大限に発揮できる環境が整うと今村氏は考えている。
Q. 地域貢献を重視する新しい書店フランチャイズモデル、その担い手は?
今村氏が計画する書店フランチャイズ(FC)は、「本屋で儲けたい」という一般的な動機ではなく、「地域に文化拠点を残したい」と考える層をターゲットにしている。具体的には、本業で堅調な収益を持つ地方の有力企業がその担い手だ。地方銀行、私鉄、エネルギー企業などが「地域貢献」という視点からFC加盟に関心を示している。
FCモデルの目標は、大規模な利益追求ではなく「微黒でも黒字」の持続可能なシステムを構築すること。地域への貢献意欲と、決して赤字にならないという安心感の両方を提供することで、加盟企業は文化投資と社会貢献を両立できる。今村氏らはこのFCモデルのシステム構築に2年間を費やし、CCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)からのコンサルティングも受けるなど、その実現に向けた準備を怠らない。この新しいFC展開は、地方の書店インフラを支え、活性化させるための重要な一歩となるだろう。
Q. 作家兼経営者が見据える書店業界の未来と壮大な目標とは?
今村氏の事業戦略には、書籍の粗利率交渉における力学を変えるという長期的な視点も含まれている。出版社に対し、より有利な条件を引き出すには、年間売上20億円という規模が交渉のテーブルに着くための目安とされている。FC展開による多店舗化と事業規模の拡大は、この目標達成に向けた重要な戦略である。個人の作家活動で得られる収益は、書店事業への先行投資やリスクテイクの基盤となっている。個人保証額も増え続けており、金融機関も今村氏自身の存在が事業の要であると見なしている。
最終的な夢として掲げるのは「47都道府県に1店舗」。ただし、むやみな急拡大は避け、人材育成のペースとバランスを取りながら着実に進める方針だ。過去の歴史が示すように、人の成長が追いつかない拡大は破綻を招くリスクが高いことを認識しているためだ。作家と経営者の比重は「50:50」としながらも、それぞれの活動が相乗効果を生み出し、実質的には150%のリソースを駆使しているという感覚を持つ。この全てを支えるのが「体力」であり、旺盛な好奇心と挑戦し続ける起業家精神が、書店の未来を切り拓く原動力となっている。
