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【ニュース解説】キューバはトランプの次の標的?
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2026年5月26日

米国の目と鼻の先にありながら、半世紀以上も反米体制を維持するキューバ。なぜ今、トランプ政権はイランの次にキューバを標的とするのか。極限の原油禁輸措置がもたらす影響と、水面下で進む中国・ロシアの思惑とは。アジア経済研究所主任研究員の山岡加奈子氏に徹底解説してもらった。 <ゲスト> 山岡加奈子|アジア...
トランプ政権が圧力を強めるキューバ情勢の真実:喉元の棘と化す国家の未来
アメリカのフロリダ半島からわずか160kmの距離に位置するカリブ海の社会主義国キューバ。かつてはアメリカからの独立を求め、冷戦期にはソ連と同盟して大国に対抗した。そのキューバに今、アメリカ、特にトランプ政権からの圧力が再び強まっている。
なぜキューバはイランの次にアメリカの標的となっているのか、そしてその圧力の背後にある狙いは何だろうか。長年の対立と近年の地政学的な変化、そして国内政治の思惑が絡み合う複雑なキューバ情勢について、深掘りして考察する。

Q. なぜキューバは今、アメリカの標的となっているのか?
キューバは資源が乏しく、アメリカにとって経済的な旨味が少ない。かつては本気で狙う標的ではないと見られていたが、近年状況が変化した。歴史的にキューバは、1959年の革命以来アメリカと対立し続けてきた国である。アメリカは、目の前にある社会主義国家を「喉元に刺さった棘」として厄介な存在だと認識していた。冷戦中はソ連の庇護を受けていたため手出しができなかったが、ソ連崩壊後も意外にも体制は倒れず、その存在を維持し続けた。

キューバ革命の真の動機は、社会主義化ではなくアメリカからの完全な独立であった。19世紀の独立戦争の際にアメリカの介入を受け、事実上の従属状態に置かれてきた歴史を持つ。経済的にはアメリカの投資で繁栄していたものの、政治的には傀儡政権を強いられてきた不満が革命へと繋がり、その後のアメリカ企業農地接収が関係悪化の決定打となった。これを受けてソ連との同盟を選び、社会主義の道に進んだのは、キューバにとって自己防衛のためのやむを得ない選択であったのだ。そして近年、アメリカに対抗すべくキューバとの関係を強化する中国やロシアの存在が、トランプ政権にキューバを再び標的にさせる決定打となった。トランプ政権がこの時期にキューバに圧力をかける背景には、中間選挙を前に有権者に強硬な姿勢をアピールしたいという国内政治的な計算も影響している。
Q. トランプ政権はキューバに対し具体的にどのような圧力をかけているのか?
トランプ政権はキューバに対し、経済的・法的な側面から多角的な圧力をかけている。中でも国民生活に最も深刻な影響を与えているのが「原油の禁輸措置」である。アメリカは自国の禁輸に加え、第三国がキューバに石油を送る場合も関税引き上げなどの制裁を課す方針を示した。このため、キューバへのタンカーの供給が停止し、大規模な停電が発生するなど、キューバは深刻なエネルギー危機に陥っている。友好国であるメキシコやアルジェリアからの石油供給は事実上途絶えた。伝統的な友好国であるロシアからの供給も、ウクライナ戦争による情勢不安定化やカリブ海域での米軍艦によるタンカー妨害を受け、滞っている状況にある。

さらに経済制裁だけでなく、法的措置も行われている。キューバ革命の指導者の一人であるラウル・カストロ元国家評議会議長を、過去の事件を理由に訴追した。これは、キューバの現指導部を「犯罪者」と見なし、国際社会から孤立させることを狙う政治的な一手であり、今後のさらなる強硬策への口実作りの可能性が高い。この二重の圧力により、キューバは内外から孤立を深め、厳しい状況に追い込まれていると言えるだろう。
Q. ラウル・カストロ氏とはどのような人物か、なぜ今訴追されたのか?
ラウル・カストロは、フィデル・カストロの弟であり、キューバ革命の初期から兄と共に戦った唯一の同志である。彼は兄のようなカリスマ性はないものの、長年にわたり国防大臣を務め、軍部を掌握してきた実力者として知られていた。表舞台にはあまり姿を見せない地味な存在であったが、兄の引退後は最高指導者の座に就き、革命体制の安定化に尽力した。しかし、市場経済化など抜本的な経済改革は行わず、現状維持に留まった点が評価の分かれるところである。現在のミゲル・ディアス=カネル大統領もラウルが指名した人物であり、「操り人形」とも言われている。これにより、実質的な院政が敷かれているとの見方も存在する。
アメリカが今この時期にラウル・カストロを訴追した理由は、1996年にキューバ空軍が反カストロ派の亡命キューバ人団体のセスナ機を撃墜し、4名のパイロットが死亡した事件にある。これは民間機を標的とした国際法違反であり、人権侵害だとアメリカは主張する。しかし、この事件は30年近くも前の出来事であるため、今回突然蒸し返されたのは、アメリカ政府の政治的意図があると考えられている。トランプ政権は、ラウルを国際的な「犯罪人」と規定することで、キューバに対する今後の圧力や軍事行動を正当化する口実を探していると分析できる。
Q. 1996年のセスナ機撃墜事件の背景に何があったのか?
アメリカがラウル・カストロ訴追の根拠とする1996年のセスナ機撃墜事件は、民間機を攻撃した国際法違反として批判されるが、その背景にはより複雑な事情が存在した。撃墜されたセスナ機は、亡命キューバ人団体「ブラザーズ・トゥ・ザ・レスキュー」が所有するもので、事件の半年前からハバナ上空などで反カストロ政権のビラを撒くなど、繰り返し挑発行為を行っていたとキューバ政府は主張している。この団体は複数回にわたりキューバ領空を侵犯しており、キューバ側はアメリカ政府や国際民間航空機関(ICAO)に対し、これら飛行の停止を求めていたが、適切な対応は得られなかったという。

民間機の撃墜は国際法上許される行為ではないものの、キューバ側は度重なる領空侵犯に対する自衛措置だったと反論している。識者の見方では、キューバ空軍は強制着陸などのより穏健な対応も可能だったとされる。しかし、最終的には領空を侵犯し続けるセスナ機を撃墜するに至った。このように米・キューバ双方ともに自国の主張に都合の良い部分のみを強調しており、真実の全容は単純ではない。今回の訴追は、ラウル・カストロを「犯罪者」と見なすことで、キューバに対する政治的圧力を強め、今後の対キューバ政策を正当化するための手段として30年前の事件が利用されたものと考えられる。
Q. 今後の米キューバ関係はどのような展開が予想されるか?
キューバ国内における現政権への国民の不満は高く、ある世論調査では90%以上が不満を持っていると回答した。しかし、これは即座にアメリカの軍事介入を歓迎することを意味するわけではない。キューバ革命の根底には「アメリカからの独立」という強いナショナリズムがあり、主権侵害にあたる武力行使は国民から強い反発を受ける可能性が高い。さらに、キューバ軍は規律が非常に厳しく、ベネズエラのような形で米中央情報局(CIA)が内通者を育成して体制転覆を図ることは極めて困難である。もしアメリカが軍事侵攻に踏み切れば、双方に多大な犠牲を伴う泥沼の流血戦となることは避けられない。選挙対策を主な動機とするトランプ政権にとって、そのようなリスクの大きな選択は、政治的な利点を相殺してしまう可能性が高い。
最も現実的なシナリオとして考えられるのは、軍事介入ではなく「交渉による穏健な政権交代」である。キューバには天然資源のようなアメリカにとって魅力的な取引材料がないものの、両政府間で交渉が行われていることはキューバ政府自身が公式に認めている。この交渉の目的は、現指導部、特にラウル・カストロの影響下にあるミゲル・ディアス=カネル大統領を退任させ、より親米的で穏健な人物をトップに据えることかもしれない。もしアメリカが最小限のリスクでこのような目標を達成し、かつキューバ国内で経済改革が進めば、国民の不満も緩和される可能性が生まれる。厳しい経済制裁や司法的な圧力は、決して政権転覆だけを目的とするものではなく、キューバ政府を交渉のテーブルに着かせ、アメリカにとって有利な穏健な体制変革を実現させるための強力な交渉材料として機能していると見られる。