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キオクシア買い殺到のワケ
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2026年5月7日

東京市場で買いが集中したキオクシア。背景には、米AI投資の継続、メモリ大手の好決算、そしてHBMやDRAMだけでなくNANDや高速SSDにも注目が広がる構図がある。NAND需要の実態は?そこにも関わるDRAM不足はいつまで続くのか?業界歴40年の半導体アナリスト・大山聡氏に聞く。 <収録日> 5月...
キオクシアに買い殺到はなぜ?半導体サイクルと「アキレス腱」の全貌
現在の東京市場では日経平均株価が歴史的高値圏に入り、株式市場は活況を呈している。そのような中で、特に投資家の買いが集中し、注目を集めた企業が半導体メモリメーカーのキオクシアである。
朝からストップ高水準まで買われ、午後もその勢いが持続する状況に対し、市場関係者の間ではNANDフラッシュメモリへの期待感が急速に高まっている。AI投資の継続に伴うメモリ不足が広く指摘される中、なぜ今、キオクシアが脚光を浴びているのか、その背景と今後の見通しを深掘りする。

Q. なぜキオクシア株はこれほどまでに買われているのか?
現在の株式市場でキオクシアへの買いが殺到している最大の要因は、AIブームがDRAM不足を深刻化させ、その結果NANDフラッシュメモリへの需要を強く喚起しているからである。3月の半導体出荷実績を見ると、これまでAI向けで最も注目されていたDRAMよりも、NANDフラッシュの値上がり幅が顕著であった。
これは、AIを巡る状況が新たなフェーズに入り、DRAMだけではAIシステム全体を支えきれないことが明らかになったことを示唆する。
キオクシアはNANDフラッシュメモリの専業メーカーであり、この市場の変化が同社にとって強力な追い風となっている。AI分野におけるデータ量の爆発的増加が、大容量かつ高速なストレージソリューションへのニーズを高め、結果的にNANDフラッシュを主要製品とするキオクシアの株価を押し上げているのである。

Q. AI需要の高まりがDRAMではなくNANDフラッシュの追い風となっているのはなぜか?
AIシステムにおいては、「学習」と「推論」という二つの主要なプロセスが存在する。
AIの「学習」機能:大量のデータをAIに覚え込ませ、知識を持たせるフェーズ。膨大な計算処理が必要なため、GPUに直結する高速なDRAM(特にHBM)が多用される。
AIの「推論」機能:学習によって得られたモデルを用いて、現実世界のデータから結論を導き出すフェーズ。ここでは学習結果を使うため、DRAMほどの超高速性は必須ではないものの、膨大なデータを扱うための大容量メモリが求められる。
しかし、現在のDRAM、特にHBMは極めて深刻な不足状態にある。DRAMだけでAIの全てのプロセス、特に推論フェーズに必要な膨大なデータを賄うのは容量的、コスト的に困難だ。そのため、システム構成を見直し、大容量を低コストで提供できるNAND SSDを積極的に組み込む動きが加速している。
さらに、Samsung、SK Hynix、Micronといった大手DRAMメーカーは、利益率の高いDRAMの増産を優先しているため、NANDフラッシュの増産は後回しになりがちだ。この状況がNAND専業メーカーであるキオクシアにとって、AI関連需要を取り込む大きな機会をもたらしていると言える。
Q. キオクシアが発表した最新SSD「GPシリーズ」は何が画期的なのか?
キオクシアが3月に発表した「GPシリーズ」は、従来のSSDと比較して読み書きの速度が約100倍にもなる画期的な製品である。一般的なフラッシュメモリはDRAMと比較して、読み書き速度が100倍から1000倍程度遅いことが課題とされてきたため、DRAMの代替は不可能だと考えられてきた。
しかし、「GPシリーズ」が実現した大幅な高速化は、この常識を覆し、AIの「推論」機能においてDRAMが足りない部分を補完する役割を果たす可能性を秘めている。DRAMに劣る速度ではあるが、圧倒的な大容量とを兼ね備えることで、AIシステムの全体最適化に貢献する。
この高速性と大容量は、AIチップの最大手NVIDIAから高い評価を得ており、NVIDIAが推進するAIシステムの構想に合致していると見られる。GPUから直接アクセス可能なAI向けSSDという位置付けで、Microsoftのような大口顧客も採用に強い興味を示しているとされており、今後の普及が期待される製品だ。

Q. メモリ市場におけるDRAMの需給逼迫は今後どのように推移する見込みか?
DRAMの需給逼迫と価格高騰について、専門家は現在の状況を「異常事態」と見なし、この状態が長くは続かないと分析する。特に、今年の秋から冬にかけて需給は緩和に向かうだろうという少数派の見立てを維持している。この見立ての根拠として、3月の価格データではDRAMの価格上昇が鈍化する一方で、NANDフラッシュの価格上昇幅が拡大しており、需要がNANDへシフトし始めている兆候が見られるからである。
一方、SamsungなどのDRAMメーカー幹部が需要の長期的な強さをアピールする発言を続けるのは、顧客に対して有利な価格交渉を行うための「ポジショントーク」である可能性が高いと指摘する。彼らの発言を鵜呑みにせず、常に話半分に聞いておくべきだと忠告する。
また、半導体業界には約4年で好況と不況を繰り返す「シリコンサイクル」が存在する。2023年の不況を経ての現在の好況も、この周期から大きく逸脱する可能性は低いと考える。したがって、2024年の後半には市場の潮目が変わり、2025年の前半にはDRAMが余剰になる可能性も十分にありうると見る。

Q. キオクシアが高速SSD分野で先行する一方で、その競争環境と課題は何か?
キオクシアの高速SSD分野における技術的先行は現在の強みである。高速SSDへの需要は今後も伸長すると予想されるが、この優位性が永続的であるとは考えにくい。Samsung、SK Hynix、Micronといった競合他社も、いずれキオクシアに対抗する製品を市場に投入してくるのは必至と見る。
実際に、これら大手DRAMメーカーも高速SSDの開発を進めている可能性は高く、遠からず追いついてくるだろう。
さらに、中国のNANDメーカーYMTCの存在も無視できない。YMTCは急速に技術力を向上させており、5年以内には世界のトッププレイヤーの一角に食い込む可能性を秘めている。現状、キオクシアが優位にあるとしても、常に技術開発と市場シェア獲得のための厳しい競争に直面すると認識しておく必要があるだろう。
Q. キオクシアの今後の成長において最も注目すべきリスクと潜在的打開策は何か?
キオクシアにとって、最大の「アキレス腱」ともいえる課題は、SSD製品の製造に不可欠なDRAMを自社で生産していない点にある。NANDフラッシュメモリ製品であるSSDには、制御用として少量のDRAMを搭載する必要があるが、キオクシアはDRAMメーカーではない。
競合するDRAMメーカー(Samsung、SK Hynix、Micron)がキオクシアにDRAMを供給する可能性は極めて低い。彼らにとって、競合であるキオクシアに部品を供給することは「敵に塩を送る」行為に他ならないからである。そのため、キオクシアはDRAMを台湾の南亜テクノロジーのような直接競合しないメーカーからの調達に大きく依存している状況だ。この供給網が何らかの理由で途絶えれば、SSDの生産に大きな影響が出かねず、事業の脆弱性となりうる。
こうしたリスクに対し、大口顧客であるMicrosoftがキオクシアのDRAM調達を支援するという噂がある。MicrosoftがDRAMメーカーからDRAMを調達し、キオクシアに供給するという奇策だ。この背景には、Microsoftがキオクシアの高速SSD技術を高く評価していることがあると推測される。しかし、Microsoftが無償でDRAMを提供するわけではなく、調達代行の見返りにSSDの大幅な値引きを要求する可能性も指摘されており、興味深い交渉が繰り広げられているかもしれない。