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2026年5月1日

為替介入によって急激な円高が進行。なぜこの効果は続かないのか?介入がもたらす中長期的な問題とは何か?為替ストラテジストの佐々木融氏に聞いた。 <ゲスト> 佐々木融|ふくおかフィナンシャルグループ チーフ・ストラテジスト 1992年上智大卒、日銀入行。国際局為替課で介入実務を担い、NY駐在時は米連銀...
ゴールデンウィーク期間中、為替市場で劇的な円買い介入が実行されたとみられる。これによってドル円相場は一時的に急落し、連日の円安進行に歯止めがかかったかのように見えた。しかし、この政府・日銀による介入は、単なる市場の秩序回復だけではない、より深い政治的、経済的な思惑を抱えている。そしてその場当たり的な対応は、日本経済に長期的なリスクをもたらす可能性を秘める。
今回の介入が真に解決しようとしている問題は何か。そして、その背後にある日本円の根本的な脆弱性、そして政府・日銀が抱えるジレンマを専門家が鋭く分析する。

ゴールデンウィーク中の2024年5月初頭、ドル円相場が一時160円台をつけた直後に大規模な円買い介入が行われたと見られている。このタイミングでの介入は、ファンダメンタルズに基づかない過度な変動を是正するという名目よりも、「1ドル=160円」という特定の水準を政府が強く意識し、その突破を許容しない政治的な意思が強く働いたと専門家は分析する。

日本経済の基礎的条件、すなわちファンダメンタルズから円相場がすでに大きく乖離している現状よりも、これ以上の円安が国民生活に与える不満や、それによって政権支持率が低下することへの懸念が、今回の介入の主因と指摘する。経済合理性よりも政治的な理由が優先された、典型的な「政治介入」の様相を呈していると言えよう。
過去の為替介入の事例を紐解くと、介入単独の効果は一時的であり、長続きしないことが明らかである。2022年と2024年に行われた介入はいずれも、短期的にはドル円を3%から5%程度押し下げた。しかし、その後に中長期的な円高トレンドへ移行したのは、介入自体によるものというよりも、米国の消費者物価指数(CPI)が予想を下回り、それに伴う米国金利の低下という「ドル安要因」が重なった結果であった。
特に、介入が複数回実施された2022年の事例では、2回目以降の介入時に中長期的なドル安傾向に転じたことが確認できる。だがこれは、介入タイミングに幸いして米国の金利低下が偶然起こったからに過ぎない。今回、米国は再び利上げ期待が高まる局面にあり、過去のような「ドル安」という外部要因を期待するのは難しい。したがって、今回も介入効果は短期的なものに終わり、再び円安トレンドに戻る可能性が高いと予測される。
為替介入は、政府の裁量で無制限に行えるものではない。国際通貨基金(IMF)のガイドラインにより、変動相場制を採用する国においては為替介入が「限定的」でなければならないと定められている。具体的には、介入は6ヶ月間で最大3回まで、かつ1回の介入は3営業日以内という制約がある。
さらに、円買い介入には外貨準備高という物理的な制約がつきまとう。日本が保有する外貨準備は約180兆円(1.16兆ドル)だが、全てを為替介入に投じるわけにはいかない。短期間に大規模な介入を繰り返せば、外貨準備が急速に枯渇し、市場の信認を失うリスクがあるため、介入には常に「弾切れ」の懸念が伴う。これらの制約は、介入による持続的な円高への誘導がいかに困難であるかを物語っている。
為替介入に意味があるとすれば、一時的に市場の混乱を収め、安くなったドルを輸入企業が調達できるようにすることで、政府が外貨準備に積み上げてきた含み益を彼らに還元できる点である。輸入コストが一時的に低下すれば、物価高に苦しむ国民にも多少の恩恵は届く。

しかし、その副作用は甚大だ。介入はあくまで対症療法であり、円安の根本的な原因に対処しているわけではない。むしろ、為替介入によって円安トレンドが一時的に押し止められることで、日本銀行による利上げの必要性を隠蔽する結果につながる可能性がある。利上げは円安を是正する強力な手段であるが、その機会を介入によって阻害してしまう。つまり、介入は熱を出した患者に解熱剤を与えるようなものであり、病気の原因そのものは放置され、かえって病状を悪化させる恐れがあるのだ。
政府・日銀はしばしば円安の主因を「投機筋」の動きに帰するが、これは問題の本質から目を背けるすり替えに過ぎない。IMM(国際通貨先物市場)のデータを見ても、円ショートポジションが過去に比べて特別に積み上がっているわけではない。むしろ投機筋は、市場に流動性を提供し、値動きを滑らかにする重要な役割を担っている。
円安の根本的な要因は、むしろ日本経済の実体経済に根ざした「実需」にあると専門家は強調する。すなわち、国内のインフレ率に対して金利が著しく低い「マイナス実質金利」の状態が継続していること。そして、原油などの輸入物価高騰による貿易赤字の拡大、さらには日本企業による巨額の対外直接投資が恒常的な円売り・ドル買い圧力となっている。金利の付かない、価値が目減りする通貨が売られるのは、経済の基本的な原理だ。投機筋を犯人に仕立てるのは、ファンダメンタルズの歪みに目を向けようとしない為政者の常套手段に他ならない。
為替介入によって円安の進行を一時的に食い止めることは、日本の抱える構造的な問題を覆い隠し、事態を悪化させる危険な道だ。実質金利のマイナス幅は広がり続け、他国との名目金利差も拡大する一方である。これは「国際金融のトリレンマ」の原則に反し、独立した金融政策を放棄して事実上の固定相場制を目指すような愚策に等しい。

このまま外貨準備を介入によって浪費し続ければ、やがてその有限性が市場に意識され、外貨準備が底をつき始める時が来るだろう。その際、円の価値が持続的に下落していることに気づいた国内の個人が、預金(約1100兆円)を円から外貨へ一斉に移動させる「キャピタルフライト」が発生するリスクがある。こうなれば、政府・日銀がいくら介入しても食い止めることはできず、「マグマの爆発」と形容されるような壊滅的な通貨暴落、ひいては金融危機を引き起こす可能性があると専門家は警鐘を鳴らす。
日銀が本格的な利上げに踏み切れない背景には、利上げによって政府の巨額な債務の利払い費が増大し、財政を圧迫することへの政治的な懸念があるとされている。また、利上げは住宅ローン金利の上昇に繋がり、家計を苦しめるというネガティブな側面が過度に強調される傾向にある。
しかし、日本の家計の預金残高は住宅ローン残高の約4倍に及び、住宅ローンを借りていない世帯が借りている世帯の約2倍存在するという統計がある。これは、利上げによって多くの家計、特に預金を持つ世帯は資産の目減りが緩和され、実質的な所得が増えることを意味する。実際には、金利上昇によって恩恵を受ける国民の方が多数派なのである。一部の意見や政治的都合のために、インフレによる資産の目減りという形で実質的なマイナスを被っている大多数の国民が犠牲になる現状こそが問題であると指摘する。本質的な解決策は痛みを伴う利上げであり、それができるかどうかが問われている。