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2026年4月28日

ホルムズ海峡の事実上の封鎖から2ヶ月が経過し、コスモ石油による米国産原油の代替調達が実現。日本エネルギー経済研究所の小山堅専務理事が、調達の現状と、史上初となる国家備蓄放出の課題を詳説する。さらに、中東依存脱却の過程で浮上する「中国依存」のリスクや、アジアで石炭が再注目される背景について分析する。 ...
2020年以降、世界はカーボンニュートラルへと舵を切った。しかし、予期せぬホルムズ海峡危機により、日本のエネルギー安全保障は喫緊の課題として再認識された。石油の代替調達の現状はどうなっているのか。長らく続いた中東依存の構造から脱却しようとする中で、新たな中国依存のリスクは生まれないか。これらの問いを通して、日本のエネルギー政策が直面する複雑な現実と、未来への戦略を深掘りする。

ホルムズ海峡が事実上封鎖されてから約2ヶ月が経過した。この間、日本は石油の代替調達を急速に進めている。最も顕著な動きは米国産原油の確保であり、商談成立からタンカーでの輸送を経て、ようやく第一便が日本に到着し始めたところである。
代替調達の動きは危機発生直後から開始されていたが、商談の成立から実際の到着までには2ヶ月程度の時間が必要であった。この時間差が、初期段階での危機対応の難しさを示している。
代替調達先は米国が中心であるが、日本の企業が参画するプロジェクトを活用し、オーストラリアやアゼルバイジャンといった非中東国からの調達も進められている。また、問題は原油だけでなく、プラスチックの原料となるナフサも供給が逼迫しているため、こちらも主に米国から代替調達を積極的に行っている状況である。

日本はこれまで中東産原油に90%以上依存しており、これを完全に他の供給源で代替することは現実的に困難だ。したがって、政府は代替調達だけでなく、複合的なアプローチでエネルギー供給の安定を図ろうとしている。具体的には、非中東からの石油・ナフサの代替調達、国家石油備蓄の放出、そして将来的なエネルギーの節約を組み合わせて対応を進める方針である。
これは短期的な緊急措置であると同時に、長期的なエネルギー政策の見直しを迫るものでもある。特定地域への過度な依存がもたらす地政学的リスクを軽減し、より強靭なエネルギー供給体制を構築するための模索が続いている。
政府は「5月には前年度比6割程度の石油が確保できた」「年を越しての安定供給の目処が立っている」と説明している。しかし、これらの見通しは史上初となる国家石油備蓄の放出を含んだものであり、その実効性には不透明な部分も残る。これまで国家備蓄が放出された前例はなく、民間備蓄のみで危機に対応してきた経緯があるため、運用はまさに手探り状態にあると言える。
備蓄の放出ペースや効果的な実施方法は、実態を見ながら慎重に判断していく必要があり、今後どのような課題に直面するかは未知数だ。当初は比較的実行しやすいものから着手している可能性も指摘され、長期化した場合の放出難易度の上昇も懸念される。日本は東南アジア諸国に比べて備蓄が潤沢なため、ある程度の期間は持ちこたえることが可能であるものの、ホルムズ海峡危機が長期化すれば、より抜本的な対策が求められるであろう。この状況は決して楽観視できるものではない。
中東危機によるエネルギー不足が深刻化する中で、アジアでは代替エネルギー源として石炭が再注目されている。これは「脱炭素」という長期目標よりも、差し迫った「エネルギー確保」という安全保障上の要請が優先されているためだ。
石炭が選好される主な理由は、その価格競争力と供給の安定性にある。中国やインドのように自国で豊富な石炭を産出する国々が多く、またインドネシアのような巨大な石炭輸出国も存在するため、中東情勢の影響を受けにくい点が強みである。
特に、世界の石炭消費量の半分以上を中国が、そして2割強をインドが占めている。この両国だけで世界の石炭消費の7割以上を担っており、アジア、とりわけ中国とインドの動向が、世界のエネルギー市場全体に甚大な影響を及ぼしていると言える。

日本においても石炭活用の可能性が検討されている。今回の危機により、ホルムズ海峡を通過するカタール産LNGの供給が滞る事態が生じている。LNGを購入している電力会社としては、この供給途絶分を補う必要があり、二つの選択肢がある。一つは中東以外の地域からLNGを代替調達すること、もう一つは既存の発電設備でLNG以外の燃料に切り替えることだ。
後者のオプションとして、石炭火力発電が有効な手段と見なされている。電力会社はLNGの代替調達に加えて石炭火力を柔軟に活用することで、電力の安定供給を維持し、消費者の生活と産業を支えようとしている。LNG争奪戦による価格高騰リスクを鑑みれば、石炭火力の活用は経済的にも合理的な選択肢と言えるだろう。
中東の石油依存から脱却し、再生可能エネルギー(再エネ)や電気自動車(EV)へのシフトを進めることは、一見するとリスク分散に見える。しかし、この移行過程で「中国への新たな依存」という地政学リスクを生み出す可能性は高い。エネルギー転換の名の下に、特定の供給元への依存構造をただ乗り換えているに過ぎないかもしれないのだ。
EVや太陽光パネルなどのクリーンエネルギー分野において、中国は素材から部品、最終製品に至るまで、そのサプライチェーンの多くを支配している。国際社会もその圧倒的な「ドミナンス」(支配力)を認識するようになった。もしこのような支配力が有事の際に「外交カード」として、あるいは「武器」として用いられれば、甚大な影響を被る可能性がある。
過去の経験がこれを裏付ける。石油危機では中東の石油に過度に依存したこと、ウクライナ危機では欧州がロシアのエネルギーに依存しすぎたことが大きな問題となった。こうした歴史の教訓を踏まえるならば、「脱中東」が安易に「中国依存」へと移行することは、賢明な戦略とは言えない。経済的な合理性からくる特定の供給者への集中は避けられない面もあるが、常に供給源の多様化と分散化を念頭に置いた国家戦略が必要である。
クリーンエネルギーへの移行において、最大のリスクはEVや太陽光パネルといった最終製品そのものよりも、それらの製造に不可欠な「重要鉱物(クリティカルミネラル)」、特にレアアースのサプライチェーンが中国に強く依存している点にある。
中国はレアアースの生産から精製に至るまでのプロセスで圧倒的な支配力を持っている。レアアースは「産業のビタミン」とも称され、もしその供給が万が一コントロールされたり停止されたりすれば、EVや各種ハイテク製品の生産は即座に困難となる。これは日本の産業と経済安全保障にとって、極めて致命的な脆弱性である。
したがって、単にEVや再エネの普及目標を掲げるだけでなく、その根幹を支える重要鉱物の地政学リスク、特に中国の圧倒的な支配力にいかに対応し、サプライチェーンを多角化・強靭化していくかという視点が不可欠である。経済合理性だけではなく、安全保障の観点から戦略的に対応していくことが、持続可能なエネルギー安全保障を確立する上で極めて重要となる。
