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イラン戦争は長期化する。膨らむ戦争コスト
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2026年4月11日

イラン戦争の停戦交渉が始まったが、成功する可能性はあるのか?戦争のコストはどこまで膨らむのか?トランプの後継者争いも含めて、共同通信元テヘラン支局長の杉田弘毅氏に聞いた。 <ゲスト> 杉田弘毅|明治大学特任教授 一橋大学卒業後、 共同通信社に入社。テヘラン支局長、ニューヨーク特派員を歴任。ワシント...
イラン戦争の「見えないコスト」 米国経済と次期政権に迫る深い影
米国とイランの緊迫した情勢は、単なる地政学的リスクにとどまらない。その背後には、双方の国内政治、経済、未来のリーダーシップにまで及ぶ複雑な影響が潜んでいる。
一見停滞する戦況の裏で、停戦交渉の困難さ、国民負担となる巨額の戦費、そして中間選挙後のトランプ政権の動向は、米国の未来を占う上で不可欠な要素である。
本稿では、イラン戦争がもたらす「見えないコスト」に焦点を当て、その深層を分析する。

Q. 米国とイランの停戦交渉はなぜこれほど難しいのか?
米国とイランの停戦交渉は、共通の価値観や目標を持たない「火星人と土星人」の対話に例えられるほど難航している。短期間での合意形成は極めて困難である。
2015年のイラン核合意ですら、ウラン濃縮率という限定的な争点に2年半を要した経緯がある。現在の交渉には、核開発、ホルムズ海峡の安全保障、米軍の中東撤退、制裁解除といった複数の複雑な問題が絡み合う。
さらに、停戦を望まない独自の国益を持つイスラエルの存在も交渉を一層混迷させている。こうした背景から、交渉の長期化と泥沼化は避けられない情勢にあると専門家は分析する。
Q. イランが戦争の長期化を容認する真の目的とは何か?
イラン、特に革命防衛隊を含む支配層にとって、戦争の継続は国内体制維持の不可欠な手段であると見られる。外部に「敵」を設定することは、国民の不満の矛先を外部へ向けさせ、国内の統制を強化する効果を持つからだ。
過去のデモ弾圧では、戦争の存在が反政府的な動きを「非愛国的」とみなす口実を提供した。これにより、政府は体制を揺るがすことなく権力を維持できる。
平和が訪れれば、抑えられていた経済格差や政治腐敗への国民の不満が噴出し、体制が不安定化するリスクがあるため、イラン側は早期終戦を望んでいないのが実情である。

Q. ホルムズ海峡の今後の行方と「通行料」徴収は現実的か?
ホルムズ海峡は、国際石油輸送の重要拠点である一方、イランが戦略的に支配可能な要衝である。イランは海峡の完全封鎖ではなく、自国の管理下での船舶航行をコントロールする戦略を採る可能性が高い。
具体的には、自国が定める安全航路を通行させたり、海軍によるエスコートを提供したりして、海峡の実効支配を既成事実化するだろう。
この際、戦争による損害の復興資金として、石油1バレルあたり1ドル程度の「通行料」を徴収することも現実的な選択肢となる。
米国はペルシャ湾からの石油輸入に依存しないため、仮にそのような通行料が課されても、海峡の全面閉鎖や大幅な原油価格高騰のリスクを回避できるなら黙認する可能性が高い。
国際的なビジネス界も、わずかなコスト増で安全な航行が保障されるならば、これを受け入れる傾向にあるという。
Q. イラン戦争の巨額戦費は米国経済にどのような影響を及ぼすか?
イラン戦争の戦費は、初期見積もりで2000億ドル(約32兆円)規模に達するとされている。これは米国の防衛予算の前年度当初予算の約4分の1に相当する金額である。
国民レベルでは、米国民1家族あたり2300ドル(約35万円)の負担となると見られている。この巨額な支出は、米国経済に大きな圧迫をもたらすだろう。
特に、イラン製の安価な無人航空機「シャヘド」が、数百万ドルする迎撃ミサイルによって撃墜されるような「非対称戦」の構図は、コスト効率の悪さとして米軍の財政を蝕んでいる。
政権は追加予算を年次国防予算の中に紛れ込ませ、国民の目に触れにくくする形で処理しようとしているものの、いずれこの経済的重圧が米国内で大きな反発を生むことは避けられないだろう。

Q. トランプ政権が国防費拡大を正当化する論理とは何か?
トランプ政権は、イラン戦争で膨張する国防費を単なる戦費としてではなく、弱体化した米国の防衛産業と米軍の立て直し、そして「未来への投資」と位置付けて正当化している。
彼らはこれを、増大する中国の脅威に対抗するための必要不可欠な措置だと主張する。具体例として、イスラエルの「アイアンドーム」をモデルとした、米国全土をミサイルやドローン攻撃から守る「ゴールデンドーム」構想が挙げられる。
また、NATO加盟国や日本にGDP比5%の防衛費支出を要求しつつ、米国自身の国防費がまだGDP比4%に留まっていることを指摘し、自国の比率を5%まで引き上げる必要性を強調する。
これは、単なる戦争コストではなく、次世代を見据えた軍事力近代化の喫緊の課題として国民に認識させようとする狙いだ。
Q. 米国議会と世論は、この戦争にどのような影響を与えるのか?
米国の政治において、戦争権限法は大統領の軍事行動を一定期間制限するものの、地上軍を本格的に投入しない限りその実効性は低い。そのため、トランプ政権にとって最大の制約は、議会よりも「世論」である。
当初から低い支持率で始まったこの戦争は、時間が経つにつれて国民の懐疑的な見方を強めている。
巨額の戦費負担や、目的が頻繁に変わる戦況への不信感は、国民の家計に直結する問題となり、反戦世論を高めている。
この影響は共和党内部にも広がり、一部議員は政権に対する白紙の小切手ともいえる巨額予算の承認に反対姿勢を見せ始めた。トランプ大統領が停戦に舵を切ったのも、このような世論や株価、原油価格の動向が大きな要因であるという。
しかし、世論がさらなる影響力を行使する前に、トランプ政権が次の一手を打つ可能性も否めない。
Q. 中間選挙後、トランプ政権のイラン戦争へのアプローチはどう変化し得るか?また後継者争いへの影響は?
中間選挙で共和党が上下両院の主導権を失うような事態になれば、トランプ大統領は再選を意識する必要が薄れ、「無敵の人」としてさらに暴走する危険性を秘めている。
彼は歴史に名を残したいという願望が強く、外交や安全保障に関する大統領の専権事項を最大限に行使し、再びイランとの対決姿勢を強める可能性もある。
停戦合意をトランプ大統領の「敗北」と捉える世論がある限り、彼はこの屈辱を拭うため、より過激な行動に出るかもしれない。
このイラン戦争は、次期大統領候補と目される共和党内のバンス副大統領(懐疑派)とルビオ国務長官(推進派)の権力闘争にも直接的な影響を与えている。戦争の展開によって両者の評価が変動し、トランプ大統領がどちらを支持するかが共和党の今後を左右するだろう。

バンスがイラン戦争の泥沼化を食い止める役割を果たせば、彼の株は上昇する可能性がある。しかし、一方で、大統領を止められなかった責任を問われる「副大統領のジレンマ」に陥るリスクも抱える。
米国大統領には政策能力だけでなく、大衆を惹きつける「面白さ」や「スター性」が不可欠であり、現状の候補者はその資質が不足しているのが現状だ。
トランプ氏の影響力が非常に大きい共和党内では、彼の指名こそが次期大統領候補にとって最も決定的な要因となるだろうと見られる。