PIVOT TALK CAREER
(1155)
2.1万回視聴
2026年4月8日

組織内でできる対話対策とは?相手への知識を事前に知る必要性。本音の出し方のコツとは?パーソル総合研究所の小林祐児・主席研究員に聞いた。 <ゲスト> 小林祐児|パーソル総合研究所 主席研究員 上智大学大学院修了後、NHK放送文化研究所、マーケティング会社を経て15年パーソル総合研究所入社。労働や組織...
現代社会において、職場のコミュニケーション不全は組織のパフォーマンスを著しく低下させる要因だ。多くの企業が「対話不足」を課題として掲げ、様々な施策を講じるが、期待通りの効果を得られないことも少なくない。一体なぜ、職場の対話はこれほど難しいのだろうか。
本記事は、この根源的な問いに対し、コミュニケーションの本質を「共通認識(コモンセンス)」の形成という視点から深掘りし、組織全体および個人が実践できる対話術を解説する。対話のすれ違いを減らし、組織の潜在能力を最大限に引き出すヒントを得てほしい。

コミュニケーションの語源は「伝達」にある。しかし、その本質は、単に情報を伝えるだけでなく「伝わったことにして」次へと進めることにある。異なる価値観を持つ人々が共に働く組織において、たとえ個々の考え方が違っても、「みんながそう考えているだろう」という共通の前提があれば、無駄な確認や説明のコストは大幅に削減できるのだ。
この「みんなが知っている」「みんなが理解している」という状態、すなわちコモンセンス(共通認識)こそが、組織が円滑に機能し、スピード感を持って意思決定を進める上で不可欠となる。コモンセンスが欠けていれば、些細な会話にも足かせがかかり、プロジェクトの進行を阻害しかねない。そのため、組織は意識的にコモンセンスを作り上げる必要があると言えよう。
従来のトップダウン型、つまり上位の人間から順に情報を伝えていく方式は、多くの企業で実施されてきた。しかし、この方法は、管理職の伝え方や理解度に依存しすぎ、末端の社員にとっては「上司個人の意見」や「偉い人が言っていること」としてしか認識されない危険性がある。本来会社が伝えたい重要なメッセージが、部署のフィルターを通ることで歪められ、結果的に組織全体の共通認識として定着しにくいのである。
このような状況では、「知っていることを知っている」という状態が作り出せないため、組織のコモンセンス形成が阻害される。これを解消するためには、役職の上下に関わらず、本当に重要なメッセージは「同時に」全員へ発信することが求められる。誰もが同じタイミングで情報を受け取ることで、「あの人もこの事実を知っているはずだ」という強い共通認識が生まれ、スムーズなコミュニケーションの土台となるのだ。
多くの組織はコミュニケーションを活性化しようと、交流会やランチ会、レクリエーションなどを企画する。しかし、これらの「対話のための対話」を目的とした施策は、往々にして失敗に終わる。それは、コミュニケーションが得意な社員や、元々親しい間柄の社員ばかりが参加し、本当に横断的なつながりが必要な社員や、コミュニケーションを苦手とする社員が疎外されてしまうからだ。

知らない人とゼロから関係を築くのは心理的コストが高く、対話が目的とされた場では参加のハードルが高い。この問題を解決するには、対話を直接的な目的とするのではなく、何かの「副産物」として捉える「対話の副菜化」という発想が有効である。
例えば、「最新技術の勉強会」や「新人事制度の意見交換会」など、社員が関心を持つ別の明確な目的(主菜)を設定する。その主要活動の中に議論や懇親の時間を自然に組み込むことで、テーマへの興味を通じて多くの社員が参加し、結果として対話が生まれる。組織の不祥事などの「ピンチ」も、全員が共通の危機意識を持つため、対話のためのテーマを見つけやすく、かえって深いコミュニケーションが促される機会となり得るのだ。
職場のコミュニケーション不全を「自分はコミュ障だから」と個人の能力に還元するのは誤りだ。問題の多くは、対話する両者の「間」に存在する共通認識(コモンセンス)の不足にある。まずは、相手を「苦手な人」と決めつける前に、その人の過去のキャリアや関心事について積極的に情報を収集し、どれだけ知っているか自問することから始めるべきだ。
次に「アンカリング」の技術を活用しよう。これは、自分が相手の話を覚えていること、理解していることを明確に示す行為だ。例えば「〇〇さん、以前お話しされていた△△の件ですが」と切り出すことで、相手は「この人は自分の話に耳を傾けている」と感じ、安心してより深い話をしやすくなる。
さらに「心を開かない人には、心を開いてくれない」という自己開示の返報性の原理も重要である。自身の感情や弱みを適度に開示することで、相手もそれに呼応して本音を話しやすくなる。しかし、自分の話ばかりにならないよう、「あなたはどう思いますか?」と相手への関心を示す「あなたをひとさじ加える」姿勢が、建設的な関係構築に不可欠となるだろう。また、深い会話には、相手が考え、言葉を選ぶ「沈黙の間」が生じるものだ。この沈黙を恐れず、相手の発言を辛抱強く待つ忍耐力も、コミュニケーション能力の一部である。
イノベーションを生む新たなアイデアは、往々にして既存のプロセスや組織構造に変革を要求するため、「面倒」なものとして敬遠されがちだ。このような抵抗を乗り越え、アイデアを具現化し成功させるには、それを推進してくれる「仲間」の存在が不可欠となる。

普段から部門や役職を超えた活発な対話を通じて信頼関係や共通認識が築かれていなければ、画期的なアイデアも「誰の協力も得られず潰れる」という事態に陥りやすい。組織の創造性、すなわちイノベーションの成否は、アイデアそのものの質だけでなく、それを支える組織内のコミュニケーションの質に大きく左右されると言えよう。
かつて本田宗一郎が奨励した「ワイガヤ」のように、自由に意見を交わす文化は重要だ。しかし、多様化が進んだ現代においては、ただ集まって話すだけでは足りない。事前に情報共有を図り、共通認識の土台を整えた上で議論を行う「進化したワイガヤ」が、健全なイノベーションを育む環境となるだろう。
組織における対立には二種類ある。仕事の内容や進め方に関する「タスクコンフリクト」と、個人の好き嫌いなどの「関係性のコンフリクト」だ。健全な組織では、タスクに関しては本音で激しい議論をぶつけ合うことが奨励されるが、その議論が人間関係の悪化には繋がらない文化が存在する。会議室でどれほど意見を戦わせても、会議室を一歩出ればわだかまりなくコミュニケーションが取れるような切り替えの姿勢が必要とされるのだ。
日本人にはこの切り替えが苦手な傾向があると言われるが、タスクの議論を避けず、それが関係性に引きずられないよう意識的な文化形成が求められる。例えば、ハラスメント研修などを上司と部下が同時に受講し、「問題は個人ではなく、両者の関係性の中にある」という共通認識を持つことは、こうした健全な分離を促す有効な手段である。対立を恐れるあまり本音が出せなければ、組織は停滞し、イノベーションも生まれない。
企業やリーダーから発せられる公式なメッセージは、しばしば社員から「建前」や「表向きの言葉」だと疑われがちである。この不信感の壁を打ち破り、社員との間で真の信頼関係を築くには、発言に「本音感」をいかに宿らせるかが鍵となる。単なる綺麗事を並べるだけでは、社員の心には響かないのだ。

例えば、社長が社員からの「100の質問」に、台本なしでその場で答えるといったアプローチが有効だろう。大量の質問には用意された答えでは対応しきれないため、必然的に率直な「本音」が出やすい状況が生まれる。このような工夫を通じて、経営層が「飾らない言葉で、自分の言葉で語る」姿勢を見せることは、「トップも本音を出す人だ」という共通認識を醸成し、社員全体の対話における自己開示を促す効果を持つ。
これは、リーダー個人の「人間力」や「コミュ力」の問題と片付けるべきではない。企業は、多様な社員が安心して本音を出し合い、建設的な対話ができるような仕組みや文化を組織全体で意識的にデザインし、実践することが求められる。これが、停滞する日本企業を再び活性化させる重要な鍵となるだろう。