
日本の株式市場に起きた"革命”【米村吉隆】
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2026年4月6日
元・大和証券 投資銀行部門法人部長で、18年間にわたり上場企業の企業価値向上を支援してきた米村吉隆氏が、ビジネスパーソンこそ知っておくべき「株の本質」を徹底解説。 <ゲスト> 米村吉隆|元・大和証券 投資銀行部門法人部長 大学卒業後 ハーバード・ビジネススクールを修了(PLD) 2000年 大和証...
日本株式市場「革命」の真実:ビジネスパーソンこそ知るべき株の本質
日本の株式市場で静かな、しかし確実な「革命」が進行中だ。日経平均株価の記録的な上昇は一時的なブームと見る向きもあるが、その裏には日本企業のあり方を根本から変える構造的変化がある。
本稿では、全てのビジネスパーソンが知るべき「株の本質」と、日本市場を動かすこの「革命」の全貌を明らかにする。
株への認識を刷新し、自社や日本経済の未来を「自分事」として捉える視点を得られるだろう。

Q. 日本の株式市場で今、どのような「革命」が起きているのか?
現在、日本の株式市場では全上場企業が「株価を意識し、株価を上げる」ことを強く求められるという、かつてない革命が起きている。
これは2023年に本格的に始まり、市場の構造そのものが劇的に変化したことを意味する。近年の日経平均株価の目覚ましい上昇も、この構造的な革命が根底にあると見てよい。
かつて日本の企業社会では、「株価よりも大切なものがある」という風潮が強く、企業が株価を二の次にする経営が当たり前であった。
しかし、東京証券取引所(東証)が明確な方針転換を促したことで、その認識は覆された。
これは一時的な景気の波ではなく、日本経済の基盤を強化するための不可逆的な変化と捉えられている。
全上場企業が企業価値向上のために株価を意識するこの新しい時代において、そこに働くビジネスパーソン一人ひとりが株の本質を理解し、当事者意識を持つことが求められる。
企業の成長、そして自身のキャリアにも直結する極めて重要な変化と言える。
Q. 2014年以前の日本企業はなぜ株価を重視しなかったのか?
2014年より前の日本企業は、株価を積極的に意識しない経営が一般的であった。この背景には、「株式持ち合い」という日本独自の慣行が深く関与している。
「株式持ち合い」とは、企業同士がお互いの株を持ち合う制度である。これにより、多くの企業は安定した大株主を確保できた。
しかし、この安定株主は「物言わぬ株主」と化し、たとえ業績が悪化し、株価が低迷しても経営陣に強いプレッシャーをかけることが少なかった。
その結果、経営者は株価向上へのインセンティブを持たず、健全な企業の新陳代謝が阻害される状態が長く続いた。
企業が中長期的な株価向上を目指さないため、投資家も短期的な売買で利益を狙うことが合理的となった。これにより、さらに企業側は「市場が短期的だから」という理由で株価を軽視し、日本市場は長期的な停滞の悪循環に陥っていったのである。
Q. 株式市場の変化を促した具体的なきっかけは何か?
日本市場の長期停滞を問題視した政府や金融庁は、2014年頃から本格的な改革に着手し、「革命」への土台を約10年かけて醸成した。

伊藤レポート: 一橋大学の伊藤邦雄教授が中心となり、上場企業に対し、株主資本利益率(ROE)8%を最低限の目標とするよう提言。企業に株主から預かったお金でどれだけ効率的に稼ぐかを意識させた。
スチュワードシップ・コード: 機関投資家に対し、国民から預かった資金を増やすため、投資先企業への建設的な提言など、より厳しい姿勢での対話を促し、受託者責任を求めた。
コーポレートガバナンス・コード: 企業に対し、社外取締役の導入などで経営陣への健全な牽制を働かせ、中長期的な企業価値向上を目指す体制構築を要求した。
これらのコードやレポートは、長年続いていた「株式持ち合い」という旧態依然とした慣行の解消を強く促した。持ち合いは、元々は協力関係の証だったが、次第に企業の新陳代謝を妨げる温床となっていたからである。
Q. なぜ「PBR1倍割れ」が問題となり、株価が重要視されるようになったのか?
改革の決定打となったのは、2023年に東証が全上場企業に発出した「資本コストや株価を意識した経営」を求める要請であった。
これは実質的な最後通牒であり、PBR(株価純資産倍率)が1倍を割れる企業が多数存在することが、市場からの企業評価が低いことを示すと厳しく指摘された。

PBR1倍割れ問題は、株価が単なる数字ではなく、企業の価値、ひいては存在意義そのものを問うものであるとの認識が広がるきっかけとなった。
これまでの「売上や利益が大切であり、株価は二の次」という価値観は明確に否定され、株価を上げることが企業の社会的責任であるという新たなスタンダードが生まれたのだ。
近年の日経平均株価の歴史的な高騰は、この構造的な革命が強力な推進力となっている。
これは短期的なバブルではなく、日本企業の体質改善に伴う持続的な成長トレンドの始まりと捉えることができるだろう。
Q. 多くの日本人が株について抱く誤解とは何か?
多くの日本人が株に対して、以下のような3つの根強い誤解や偏見を抱いている。しかし、これらは全て株の本質を見誤っている見方だ。
株はギャンブルである
株価は企業の価値を測る正しい物差しではない
自社の株価が上がらなくても自分は困らない
これらの誤解は、株の歴史や株式会社の本来の目的、そして企業と社会との関わりを十分に理解していないことから生じている。
特に「株はギャンブル」という認識は、マネーゲームや投機といった側面のみを捉え、企業の営みの根源を見落としていると言える。
次項でこの誤解について詳しく見ていこう。
Q. 「株はギャンブル」という見方はなぜ間違いなのか?
「株はギャンブル」という見方は、株式会社の成り立ちと企業の存在意義を理解すれば間違いだとわかる。会社は本来、解決すべき「社会課題」に対し、それを解決したい「経営者」の「志」に共感した「株主」が「資本」を提供し、一体となって事業を始めることで成り立つ。

株主は単なる投機家ではなく、経営者と共同で社会課題解決を目指すパートナーである。株主が投じた資本を元手に、経営者は事業に必要な資産を調達するのだ。
企業は、「顧客」「取引先」「従業員」「銀行(債権者)」「地域社会」そして「株主」という6つの主要なステークホルダー(利害関係者)の期待に応えるために存在すると言える。
企業の財務諸表、特に損益計算書(PL)は、売上(顧客)から始まり、原価(取引先)、賃金(従業員)、金利(銀行)、税金(地域社会)など、これらのステークホルダーへの価値分配が示される。
株主は、他の5つのステークホルダーへの支払い全てを終えた後、最後に残った利益を受け取る存在である。
つまり、株を持つことは、企業が社会全体に価値を提供し、エコシステムを創造する営みに参加し、その最終的な成果を享受する行為である。それは、イーロン・マスクと共に地球環境という社会課題の解決に参加するテスラ株主のように、企業の志に共感し、共に社会を良くしていくパートナーとしての意識がその本質を形づくるものだ。
