
【メディアの未来】東野幸治vsヒルズ族の兄貴
宇野康秀が見据えるメディアとAIの新時代
U-NEXT HOLDINGS代表取締役社長CEOの宇野康秀は、日本のビジネスシーンにおいて数々のドラマを経験してきた。70億円の個人借入で会社を救った大胆な決断、孫正義や藤田晋といった時代の寵児たちとの交流、そしてリーマンショックからの見事なV字回復など、彼の経営者としての軌跡は常に注目を集めている。この類まれなビジョンと行動力が、今日のU-NEXTを築き上げたことは想像に難くない。
本記事では、宇野氏が自身の歩みを振り返りつつ、U-NEXTの未来戦略やAI時代における新たな展望について語った言葉をQ&A形式で深掘りする。彼の哲学と未来への洞察は、混迷する現代社会を生き抜くための重要な示唆を与えるだろう。

Q. 70億円もの個人借入によって会社を救った経緯とその背景には何があったのか?
過去に70億円もの資金不足に直面し、会社が倒産の危機に瀕したことがある。その際、融資元である銀行の支店長に対し、宇野氏個人で70億円を借り入れ、その資金を会社に出資するという、常識外れの提案を行った。この奇策によって債務超過を解消し、会社を救ったのである。
当時、宇野氏には「もはや自分を社会が必要としていないのではないか」という思いさえ過ったと振り返る。しかし、諦めることなく常識を打ち破る発想力と実行力でこの絶体絶命のピンチを乗り越えた経験は、後の経営者としての土台を築き上げた。
Q. 孫正義氏や藤田晋氏など、時代を牽引する経営者たちとの出会いを通じて、特に印象深かった人物と彼らから学んだことは何か?
孫正義氏とは一度ビジネスが頓挫したが、その際、「損してでも正義を守る」と自身の名前に絡めた孫氏の圧倒的な決断力とプレゼン能力は宇野氏に大きな衝撃を与えたという。彼の説得力と周囲を巻き込む力は極めて高かった。ビジネスにおける人間関係は常に変化し、時には敵対しても将来的に協力関係を築ける柔軟な姿勢が重要だと語った。
サイバーエージェントの藤田晋氏とは、社長自らが面接を担当した時に出会った。「起業したいからベンチャーで学びたい」という彼の明確な目的意識と並々ならぬ熱意、入社後の人並み外れた努力と成果から、その本気度を見抜いたという。藤田氏が1年で独立する際、自身も1年で起業した経験を突かれ反対できず、最終的に資金援助という形で独立を後押ししたエピソードがある。
楽天の三木谷浩史氏とは、楽天創業から2〜3年目の頃、CCC増田氏の紹介で出会った。「日本を代表する企業を作る」という共通の本気の志を持つ数少ない「本物の経営者」として、互いに深く共鳴し合ったと宇野氏は述べている。また、村上ファンドの村上世彰氏とも、サイバーエージェントの株式大量取得問題で仲介役を務めるなど、当時のITベンチャー界隈を彩る重要人物たちと密接に関わってきた。

Q. かつてプロ野球球団の保有を検討した動機は何だったのか?
当時のベンチャー企業は社会的な信用を得るのが難しかった。そのため、企業の信用性を一気に高める手段として、プロ野球球団の保有を真剣に検討していたのである。これは、ITベンチャーという見られ方から、「エスタブリッシュ(既存勢力)」に近い立場への移行を意図した戦略的な一手だった。実際、読売グループの渡邉恒雄氏(ナベツネ)に会い、球団保有に関する規定の助言を受けるほど本気だった。
結果として、既存球団を譲り受けるタイミングが合わず、実現には至らなかったが、もし時期が合っていればUSENが球団を保有する未来もあり得たという。

Q. 大学生時代のアイデアがU-NEXTの原点とのことだが、動画配信ビジネスの展開、リーマンショック後の社長退任と事業買取りによる再起について教えてほしい?
U-NEXTのアイデアの原点は、大学生時代に映画好きが高じてレンタルビデオ店の不便さ(貸し出し中、延滞料金)に辟易とした経験にある。「借りに行かず、返さなくていい」動画配信サービスがあれば良いと考えるようになったのがきっかけである。アメリカで電子送信による映画配信実験が行われていることを知り、将来この分野で仕事をしたいと強く願った。
その後、2000年にUSENで動画配信サービス「GyaO」を開始。しかし、黎明期であった当時、YouTubeのような違法コンテンツが横行するプラットフォームに脅威を感じたという。GyaOも投稿型サービスへの転換を検討したが、過去の著作権問題を経験したトラウマから、「合法的な会社」としての信用を優先し、正規コンテンツにこだわり続けた結果、コンテンツ量で劣勢に立たされたのは正直な悩みだった。
2010年にはリーマンショックの影響で業績が悪化。子会社の評価損で500億円もの減損を計上し、銀行団からの貸し剥がしに遭った。その結果、赤字だった動画配信事業の停止と自身の社長退任を求められ、一度は「引退も覚悟する」ほどの窮地に陥った。その際、銀行から「インターネットで映画を観るやつなどいるのか」と揶揄されたという。
しかし、大学生からの夢であったこの事業を諦めきれず、社長退任と同時に自ら事業を買い取り、U-NEXTとして再起することを決断。これが3度目のベンチャー創業であり、今日のU-NEXTの原動力となっている。当時Netflixはまだ宅配レンタルが主で、動画配信が本格化する以前の、まさに黎明期であった。

Q. U-NEXTの強みである「百貨店戦略」とは具体的にどのようなものか、また、Netflixのようなオリジナル作品に注力するサービスとの違いやテレビ業界との共存への展望は?
Netflixがオリジナル作品に注力する「専門店」であるのに対し、U-NEXTは「百貨店戦略」を強みとする。これは、元々のレンタルビデオ代替という発想から来ており、「他にはないがU-NEXTならある」という圧倒的な品揃えと網羅性が最大の魅力だ。オリジナル作品も一部制作はするが、主軸は各メーカーが作った良質なコンテンツを幅広く取り揃えるプラットフォームであることに徹している。
現在の配信ビジネスにおいて、海外の独占的なプラットフォームが自社作品をテレビや映画館から締め出すことでメディアの主導権を握ろうとしている。この動きが日本のコンテンツ産業を海外資本に支配させる危険性を孕んでいると、宇野氏はメディア界が「重要な局面にある」と指摘した。
こうした状況に対し、U-NEXTはTBSやテレビ東京といった国内のテレビ局と連携し、海外勢に対抗する「対抗軸」を形成することを使命としている。テレビの強みである「一斉に届ける発信力」と「高いコンテンツ制作能力」は今後も変わらず重要であり、U-NEXTという百貨店を通じて、テレビ局が作った良質な番組を国内外に展開することが、日本のコンテンツ産業全体の活性化と共存共栄に繋がると考えている。

Q. 宇野氏がこれまで影響を受けた作品や、今後のビジネスにおいて、AIなどの最先端技術とどう向き合っていくのか?
宇野氏が最も影響を受け、今も深く愛する作品は、映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」だ。ワクワク感や感動、練りこまれた伏線など、エンターテイメントとして極めて良くできており、「これを超える作品はなかなか無い」と絶賛する。こ
の作品のように未来を予測し、現実に変えることが彼のモチベーション源の一つとなっているのだろう。

そして、次に宇野氏が見据えるのは、AI、特に「フィジカルAI」の時代である。これまでデジタル領域で発展してきたAIが、ロボットなどを通じて現実世界(フィジカル)に影響を与える技術が本格化するというのだ。日本の強みである「ものづくり」技術とAIを融合させることで、世界的な競争力を持ち、新たな産業を生み出す可能性があると考えている。
U-NEXT GROUPは、飲食店や病院といった多岐にわたる事業で築き上げてきた顧客ネットワークを、このフィジカルAI展開の強固な基盤と見なしている。例えば、現在普及し始めた猫型配膳ロボットがAIの知能を持ち、顧客の好みを学習して最適なレコメンドをするような、リアルな空間をAIで変革する未来を描いている。これは、少子高齢化が進む日本社会において、労働力不足の解消や生活支援など、単なるビジネスに留まらない社会課題解決の可能性を秘めていると宇野氏は強調した。
