
イラン情勢: 米イスラエルの温度差
イラン情勢、米国とイスラエルの思惑が交錯する中東の「カンフル剤」外交の実態
Q. 米国とイスラエルはイラン情勢において一枚岩と言えるか?
両者はイラン情勢において一枚岩ではない。両国間には明確な温度差があり、それは現在進行形で広がっており、より顕在化しつつある。
一例として、イラン南部の天然ガス田に対するイスラエルの攻撃が挙げられる。この攻撃に対し、当時のトランプ大統領は「何も聞いていなかった」とソーシャルメディアで不快感を示し、その翌日にはネタニヤフ首相にガス田攻撃の中止を伝えたと報じられている。
このイスラエルによる攻撃はイランの反発を招き、カタールへの攻撃や核施設への攻撃を示唆するなど、状況のエスカレーションを誘発した可能性が高い。
すなわち、イスラエルが戦線の拡大を試みている一方、米国は必ずしもその拡大を望んでいない状況にあると見て良いだろう。

Q. 両国間に生じる温度差の背景には何があるのか?
米国とイスラエルのギャップは、それぞれの指導者が抱える政治的な思惑の違いに起因する。トランプ大統領は長期戦や泥沼化を避け、早期の決着と成果を求めている。
中間選挙などを控える中で、長期的な紛争は自身の政治生命を危うくするとの計算が背景にあると言われている。
対照的に、ネタニヤフ首相は「体制転換」という高い目標を掲げることで、意図的にバーを高く設定し、戦線の拡大を図っている。彼の狙いは長期戦に持ち込み、支持率の低下を食い止め、維持あるいは向上させる政治的算術にあるようだ。
このように、トランプ氏が長期化を不利と見ているのに対し、ネタニヤフ氏が長期化を志向している点が、両国間の決定的な温度差を生んでいるのである。
Q. イスラエル国民は現状のイラン攻撃をどのように捉えているのか?
イスラエル国民のイラン攻撃に対する支持率は、世論調査によると現状では約8割弱と高い水準を維持している。しかし、その内訳を見ると、異なる実態が浮かび上がってくる。
テルアビブ大学のシンクタンクINSSの調査によると、今回の攻撃でイランに「大きなダメージを与えられる」と回答した人は47%と半数を切っている。
また、「体制崩壊に繋がる」と予測する人は、開戦当初の22%から半減し、現在は11%に留まる状況である。
イスラエル国民は、イランという国を熟知しているため、決して「容易に倒せる」とは考えていないと言えるだろう。
国民の54%が「政権崩壊まで戦うべき」と考えている一方、「軍事施設を破壊した上で停戦すべき」が22%、「今すぐにでも停戦すべき」が17%を占めており、これらを合わせると約4割の国民が停戦を支持していることが明らかになっている。

つまり、「最後までやるべき」という声は減少傾向にある一方で、「現状で終結すべき」という声が増加傾向にあり、国民の間に転換点が見え始めている可能性を示唆している。
Q. 米イラン間の停戦協議が報じられる中で、イスラエルはどのように動くのか?
米イラン間の停戦協議が報じられている状況で、イスラエルは米国にとって「足かせ」となる可能性が高い。
ネタニヤフ首相は自らを「ミスターセキュリティ」と自認し、イラン攻撃を躊躇しない「タフな男」であることをアピールしてきた。
しかし、彼の最大の問題は、イランの崩壊よりも自身の政治生命を左右する国内総選挙である。
今年の10月までに総選挙が実施される必要があり、そのタイミングに合わせて戦況を有利に進めたいという思惑が存在する。
一方で、トランプ大統領は早期の決着を望んでおり、ネタニヤフ首相にとって自身の政治的な死が、イランの崩壊よりも喫緊の課題であることは明白だ。
したがって、トランプ氏が「打ち方やめ」と明確に命じた場合、ネタニヤフ首相は最終的にそれに従う可能性が高い。
Q. 「片目を瞑る」出口戦略とは具体的にどのようなものになるか?
イスラエルの出口戦略として、「片目を瞑る」方式が採用される可能性は高い。これはかつてのガザでのハマス停戦時に見られたパターンだ。
イスラエルは対外的に「イランに核兵器や弾道ミサイルを持たせない」という看板を下げることはしないだろう。
しかし、米国の圧力がある限り、大規模な軍事行動は自重することになる。米国はイスラエルに一定の制約を課し、それに従う限り、時折行われる小規模な攻撃や報復行動には「見て見ぬふり」をするのである。

これにより、ネタニヤフ首相は国内向けに「成果」をアピールしつつ、トランプ大統領の面子も保たれる。
まさにガザで現在も起きている状況であり、停戦と称しながら散発的な戦闘が継続されるといった形で決着が図られるだろう。
Q. ネタニヤフ政権の今後の「カンフル剤」はどこに向けられるだろうか?
戦争は、ネタニヤフ政権にとって支持率を維持するための「カンフル剤」のような存在である。
戦争を停止すると、往々にして支持率は低下する傾向にあるからだ。
もしイラン情勢が「片目を瞑る」形で収束した場合、ネタニヤフ政権は支持率維持のための新たな「カンフル剤」を求めるだろう。
その矛先は、既に一部で地上戦が始まっているレバノンに向けられる可能性がある。イランへの注意を曖昧にし、代わりにヒズボラへの軍事作戦に焦点を移すことで、新たな戦線を開き、国民の関心をそちらに引きつけ、選挙前の支持率低下を防ごうと目論む可能性が高い。
イスラエル国内では既に、イラン攻撃に関する報道と並行して、レバノンやヒズボラに関する報道が増加しており、政権の焦点が徐々にシフトしていることを示している。
結局、関係国それぞれが「勝利」を宣言できるWin-Winのシナリオとして、イランは米軍の撤退を勝ち取り、米国は外交的な成果をアピールし、イスラエルは米国の制約を受けつつも限定的な軍事行動を続け、必要に応じて新たなターゲットを見つけることで、各指導者が自身の政治的生命を繋ぐ形での着地が見込まれる。