
【不動産高騰】東京マンションはなぜ高い?/外国人投資家の実態/タワマンのステルス値上げ/中国・香港富裕層の「資産逃避」に迫る【PIVOT BUSINESS】
東京マンション価格は止まらない高騰 海外富裕層を惹きつける「逃資」の実態
東京のマンション価格高騰は、いまや誰にとっても看過できない問題だ。特に都心部の物件は手の届かない水準にまで上昇し、諦めムードが漂う。だが、この高騰の背景には、国内事情だけではないグローバルな経済動向と、一部の海外富裕層によるしたたかな戦略が潜んでいる。供給不足や日本の富裕層による購入、さらには「ステルス値上げ」といった複合的な要因に加え、中国・香港の富裕層の「資産逃亡」が、日本の不動産市場にどのような影響を与えているのか、専門家の視点からその実態を解説する。

Q. なぜ東京のマンション価格は高騰が続くのか?
東京のマンション価格の高騰は、短期間では止まらないというのが専門家の見解だ。株、金、エネルギー、食料品といったあらゆる資産価格が上昇する中で、不動産だけが下落するとは考えにくい。この背景には、主に三つの理由がある。
東京の不動産は世界の主要都市と比較してまだ割安である。
新築マンションの供給数が激減している。2000年頃は約9万戸供給されていたが、現在は年間2万戸程度で、需要に供給が全く追いついていない。
国内の富裕層や法人が資産運用や節税目的で複数の物件を購入している。
特に、コロナ禍で提供された実質無利子・無担保の「ゼロゼロ融資」を利用し、優良な地方企業が都心のマンションを複数購入した事例も散見された。本業の将来が見通せない中で、値崩れしにくい都心のタワマンを収益の柱として保有する動きが顕著だったのだ。加えて、海外の投資家が「東京には夢と希望しかない」と評価するように、グローバルな視点で見ても東京の魅力は群を抜いている。このような国内外の多様な需要が、価格を押し上げる主要因となっている。
Q. 外国人による不動産購入規制は期待できないのか?
政府内で外国人による土地取得規制の議論が進むものの、実現は極めて困難だというのが現状である。国土交通省の発表では、昨年1年間の海外からの不動産取得は全体の約1.5%とされているが、この数字は実態を正確に反映しているとは言い難い。法人名義での購入や、日本に居住する外国人が購入した場合は、統計上「日本からの購入」として計上され、外国人投資の実態が見えにくいためである。
規制導入を阻む最大の要因は、WTO(世界貿易機関)が定めるGATS(サービスの貿易に関する一般協定)の存在にある。この協定には、加盟国間で自国民と外国人を同等に扱う「内外人待遇の原則」があり、外国人にだけ取引規制を設けることは原則としてできない。この国際的なルールを覆すには莫大な時間と労力を要し、1年や2年で可能な話ではない。さらに、不動産登記に国籍の記載義務がなく、政府でさえ実態を正確に把握できていないのが現実だ。これらの理由から、短期間での規制導入による価格変動は期待薄である。
Q. マンション価格が「下がらない」一方で「買いやすく」するために何が行われているのか?
価格高騰が止まらない中、消費者に手が届く価格帯に見せるために、デベロッパーは「ステルス値上げ」という手法を採用している。これは坪単価を高く維持しつつ、一戸あたりの販売価格を抑える戦略である。具体的な方法としては以下の二点が挙げられる。
部屋の面積を縮小する: かつて4人家族向けの3LDKが80平米程度だったものが、60平米にまで縮小されている。リビングが狭くなったり、収納が減ったりする傾向だ。
内装や設備のグレードを下げる: キッチン、バスルームなどの水回り設備や、エントランスなどの共用部の素材・グレードを落とすことでコストを削減している。20年前にタワーマンションを購入した人の中には、「昔の物件の方がグレードがはるかに良い」と話す者もいるほど、質的な変化が生じている。
デベロッパーは向こう10年程度の再開発計画を既に確定しており、建設資材やゼネコンの手配も織り込み済みである。そのため、計画された新築価格が大きく下がることは考えにくい。新築価格が下がらなければ、中古マンションの価格もそれに引っ張られ、結果的に東京のマンション価格は下落することなく推移すると予測される。購入者が気付かぬうちに「質が落ちた高価な物件」を手にするリスクがあると言えよう。
Q. 中国の富裕層はなぜ日本の不動産に注目するのか?
日本のマンションを高値で買い漁る主な海外勢は、香港や台湾の富裕層である。彼らは「本業で儲けた資金」や「自国で高騰した不動産の売却益」を元手に、巨額の現金を動かし日本の不動産を買い進めている。この動きの背景にあるのは、資産を守るための「逃資(とうし)」という目的だ。中国の政治経済的な不透明さ、そして政府による急な資産没収への危機感が、彼らを海外へと向かわせている。

日本が彼らに選ばれる理由は複数存在する。
土地の「所有権」: 中国では土地は国からの借地であり、所有権が存在しない。建物が自身の資産でも、土地は最大70年の借地契約だ。対照的に、完全な所有権を得られる日本の不動産は「所有する喜び」をもたらす魅力的な対象だ。
割安感: 上海のマンションは、同等のスペックであれば東京の約3倍の価格であるケースも珍しくない。そのため、「上海で1部屋買うなら、東京で3部屋買える」という感覚で、割安な投資先として日本の不動産が評価されている。
地理・文化的な近さ: 日本は中国から距離的に近く、文化や顔立ちにも親近感があるため、移住や生活環境への順応が比較的容易である。
教育環境への配慮: 中国本土の競争社会は厳しく、特に「996(朝9時から夜9時まで週6日働く)」という言葉に象徴される過酷な労働環境や学歴社会を避けるため、子どもを日本で育てたいと考える層もいる。

さらに、中国本土には相続税が存在しない。そこで築かれた膨大な資産を、相続税がある日本に移転することになっても、それ以上の「安心」を買うという動機が強く働いているのだ。
Q. 香港で今、富裕層の「資産逃亡」が起きているとは本当か?それが日本の不動産にどう影響しているのか?
香港では、富裕層が保有資産を国外へ「逃亡」させる動きが加速している。過去20年間、市場に出ることがなかった数百億円規模の「大豪邸」が次々と売りに出されており、地元不動産業者でさえ「こんなことは初めて」と驚きを隠さない。これは、中国政府による締め付け強化や急な資産没収への恐怖が現実的な脅威となり、「ある日突然、財産を奪われるかもしれない」という危機感から、富裕層が資産を現金化し、より安全な国へ分散させようとしているためだ。

これらの富裕層が、200億円を超える豪邸を売却すれば、手元には莫大な現金が残る。その資金の一部を、世界の主要都市と比較してまだ割安とされる日本の不動産に振り向けているのだ。例えば、1億円の東京のマンションを10戸購入しても、資金の一部にしかならない。この大量の「逃亡資金」が日本の不動産市場に流入し、都心部のマンション価格を押し上げる強力な要因の一つとなっているのは明らかだ。
Q. 外国人による購入が減れば、日本のマンション価格は落ち着くのか?
たとえ外国人による不動産購入が減少したとしても、日本のマンション価格が劇的に下がるとは考えにくい。香港の富裕層は日本だけでなく、ロンドン、ニューヨーク、ドバイなど、世界中の多様な地域に資産を分散している。日本の魅力が相対的に薄まれば、彼らの資金は他の国へ移動するだけだ。
しかし、日本の不動産市場には依然として強固な国内需要が存在する。歴史的な円安により、現金で資産を持つことへの不安が増している。多くの日本の富裕層や法人は、現金の価値が目減りするのを避けるため、不動産を「資産防衛」の手段として積極的に購入しているのだ。この強い国内の買い支えが続く限り、外国人による購入が減ったとしても、価格が大きく下落する可能性は低いとみられる。様々な要因が複雑に絡み合い、東京のマンション価格高騰は当面継続するだろう。
