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日米首脳会談:経済の論点
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2026年3月19日

19日に行われる日米首脳会談。経済面では何が論点となるのか。5500億円規模の対米投資の第2弾は、蓄電池や原発など日本企業のチャンス拡大に寄与するのか。中東依存脱却の原油輸入やレアアース戦略など経済安保は。 <ゲスト> 今村卓|丸紅経済研究所 代表 丸紅米国ワシントン事務所長を経て2017年より丸...
日米首脳会談の経済編:戦略的投融資と変化する外交局面
先日行われた日米首脳会談は、単なる友好関係の確認に留まらない。特に経済面においては、多角的な側面から日本の国益を追求する戦略的な動きが垣間見えた。総額5500億円規模に上る対米投融資、経済安全保障を巡る課題、そして激動する国際情勢の中での外交的立ち位置の確立が、会談の主要な焦点であった。
本稿では、この日米首脳会談の経済的な側面を深く掘り下げ、日本がどのように国益を最大化し、世界の不安定な状況にどのように対処していくべきか、丸紅経済研究所の今村卓社長の洞察を基に解説する。

Q. 今回の5500億円対米投融資は日本にどのような恩恵をもたらすのか?
今回の5500億円規模の対米投融資は、単なる米国支援ではなく、日本企業にとって明確なビジネスチャンスを生み出すだろう。この投資は、国際協力銀行(JBIC)や貿易保険(NEXI)などの政府系金融機関のスキームを活用することで、単なる資金提供以上の効果が期待できる。投資リターンはもちろん、関連事業の運営、米国への設備・機器輸出、最終的な生産物の引き取り(オフテイク)まで、日本企業が包括的に関与する機会を提供する。
例えば、中国が圧倒的な生産シェアを握る人造ダイヤモンドのような戦略物資の供給網の多様化もその一つである。これにより、日本の経済安全保障にも直結する案件が含まれており、表面的な対米協力を超えた国益に資する投資であるとの見方がある。日本政府が企業を後押しすることで、通常ではリスクが高く参入しにくい分野へも進出の道を開く狙いがあるのだ。
Q. 米国の電力インフラが抱える課題と、日本企業に開かれるビジネスチャンスは何か?
現在の米国では、AI需要の急増によるデータセンターの消費電力増大と、老朽化が進む脆弱な電力インフラとのミスマッチが深刻な問題となっている。個々の電力会社の規模が小さいことに加え、送電網の老朽化も進んでおり、電力供給は逼迫した状態にある。この需給ギャップが、蓄電池や原子力発電といった分野において、高い技術力を持つ日本企業に大きな商機をもたらす。
Microsoftのような巨大IT企業ですら、自社で電力を賄うことを模索する現状は、電力インフラ整備が喫緊の課題であることを物語っている。このような状況で、日本政府からの投融資という後ろ盾があれば、資金規模の大きいインフラ事業にも日本企業は参入しやすくなる。単独での投資が困難な分野においても、日米の枠組みの中でリスクを抑えつつ、安定した収益を期待できるとの見解が示されている。
Q. ホルムズ海峡の地政学的リスクが高まる中、日本のエネルギー安全保障はどう確保されるのか?
ホルムズ海峡を巡る情勢が緊迫化する中で、日本のエネルギー安全保障上、中東への過度な原油・ガス依存から脱却することは喫緊の課題である。米国は今や世界最大の原油輸出国であり、ここからの輸入を拡大することは、供給源の多様化を図る上で極めて現実的な選択肢となる。

しかし、課題も存在する。米国産原油は中東産と油質が異なるため、日本の製油所の設備改修に追加投資が必要となるのだ。それでも、供給が途絶えるリスクに直面した場合の被害を考慮すれば、この初期投資は十分に見合うものと考えられている。供給の安定化という「保険」としての投資は、経済的な合理性を持ち合わせているとの分析がなされた。
Q. レアアースの供給における中国依存脱却は現実的に可能か?
レアアース供給における中国依存からの脱却は、容易な道のりではない。現在のコスト構造では、中国に太刀打ちできる調達先を見つけることは困難であり、短期的な脱却は現実的ではないと指摘されている。これは単なるコスト競争の問題ではなく、国家レベルでの経済安全保障の観点から長期的に取り組むべき課題である。
この問題に対処するためには、日米両国が協力し、長期的な視点から他地域からの調達先を開拓していくという「約束」を確固たるものにすることが重要となる。さらに、非中国産の高コストなレアアースを受け入れ、必要であれば製品価格に転嫁するなど、ユーザー企業が高いコストを負担する仕組みや社会的な合意形成が不可欠である。つまり、脱中国依存は「時間をかけた段階的なプロセス」であるとの認識が求められる。
Q. トランプ大統領による関税政策は今後どう推移するのか?
トランプ大統領が以前多用した、AIPA(大統領貿易調整措置法)に基づく関税は、違憲判決により発動が困難となった。現在発動されている一時的な関税も、延長は難しく、あくまで時間稼ぎに過ぎないと考えられている。今後は「301条」という別の法律を根拠に関税を課す可能性が指摘されるが、これは発動までに詳細な調査が必要であり、日本側には反論の余地が十分に存在する。
さらに重要なのは、関税政策に対する米国内の情勢が大きく変化している点だ。1年間のデータ分析では、関税による負担の約9割が米国企業や個人に転嫁され、物価上昇、すなわちインフレを助長している実態が明らかになっている。このため、米国内では関税率の引き下げや適用除外を求める声が高まっている。
もはや「日本から絞り取る」ために新たな関税を課すという選択肢は、米国にとって政治的にも経済的にも取りにくくなっているのだ。日本はこの国内情勢の変化を正確に把握し、冷静かつ戦略的に交渉を進めることが求められる局面にある。
Q. ホルムズ海峡問題で揺れるトランプ政権に対し、日本はどのような外交戦略を取るべきか?
ホルムズ海峡を巡るトランプ大統領の発言のブレは、彼が軍や官僚組織から孤立し、その場で思いつきの発言を繰り返している証拠であると分析される。このトランプ大統領の「弱み」とも言える状況に対し、日本は対立するのではなく、むしろ彼を「支える」という姿勢を見せることで、新たな外交的チャンスを生み出すことができるだろう。

具体的なアプローチとしては、英国のスターマー首相のように「何が問題で、何にお困りですか?」と真摯に耳を傾ける「カウンセラー的」な外交姿勢が有効だ。相手の抱える課題を深く理解しようと努めることで、より強固な信頼関係を築き、将来の経済交渉を含めた幅広い分野での協力関係を深化させることができる。
即座の軍事協力は避けつつも、「現在の状況説明が不十分で、何ができるか判断できない」と率直に伝えることが賢明である。同時に、「戦闘が終結した後の機雷除去などであれば協力できる」といった将来的な貢献の可能性を示唆することで、米国に恩を売りながらも、日本自身の過度なリスクを回避するというしたたかな外交戦略が今、求められている。
Q. 米中首脳会談延期は、日本にとってどのような意味を持つのか?
当初予定されていた米中首脳会談の延期は、日本にとって「時間的猶予」という名の戦略的機会を意味する。これにより、米中が電撃的に和解し、日本が国際政治の蚊帳の外に置かれる「ジャパン・パッシング」のリスクは一時的に遠のいたと言えるだろう。延期の背景には、トランプ政権の最優先課題が中国との通商問題からイラン問題へとシフトしたことが大きい。
この優先順位の変更は、米国が台湾政策を大きく変更するような「ビッグディール」がなされる可能性を低下させ、アジア地域の安定にとってはプラスに作用すると考えられる。そもそも米中関係は、本格的な大規模合意(ディール)ができるほど成熟した段階にはなく、今回の会談は小さな成果を模索するものであったとの見方が一般的である。
現在の米中合意は「これ以上の対立は避けよう」という消極的なものであり、緊密な協調関係には程遠い。日本はこの「時間的猶予」を最大限に活用し、米中関係の動向を冷静に分析しながら、日本の国益を最大化するための独自の外交戦略を練り直し、積極的に発信していくべき局面を迎えている。