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半導体業界 再編への道筋
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2026年3月17日

国産半導体、2040年に売上高目標40兆円を掲げる政府。中東情勢によるサプライチェーンは?デンソーによるロームTOB案の行方は?日本半導体の命運を問う。 <ゲスト> 大山聡|グロスバーグ代表 慶應大院修了後、1985年東京エレクトロン入社。外資系証券のアナリストを経て富士通に転職。半導体部門の経営...
日本パワー半導体再編への道筋:過去の教訓と未来戦略
日本を代表する半導体メーカー、ロームと東芝の事業統合に向けた動きが活発化している。
その背景には、デンソーによるローム買収提案という驚きの手があった。
一連の再編の動きは、単なる企業の合併・買収の話にとどまらない。
日本のお家芸とも言われるパワー半導体産業が、今まさに岐路に立たされている状況を浮き彫りにしている。
本稿では、パワー半導体の基礎からその重要性、日本の置かれている現状、そして過去の教訓を踏まえた再編の理想像までを深掘りする。

Q. パワー半導体とは何か、なぜ今注目を集めているのか?
パワー半導体とは、人間の体に例えると「筋肉」の役割を果たすものだ。
電流や電圧を制御・変換する機能を持ち、モーター駆動など電力の効率的な利用に不可欠なデバイスである。
デジタル半導体が「脳」のように情報の処理を担うのに対し、パワー半導体は物理的な動作を司る点が異なる。
その需要を急激に押し上げているのは、電気自動車(EV)の普及である。

EVには大量のパワー半導体が搭載されており、車の電動化はまさにこのデバイスの市場を大きく拡大させた要因だ。
日本の自動車産業、そして重電や産業機械産業が長年培ってきた技術力は、パワー半導体分野において他国に対する大きな強みとなっている。
Q. 注目される「次世代パワー半導体」、SiCとGaNとはどのようなものか?そしてその市場構造はどうなっているのか?
次世代パワー半導体として特に注目されるのが、炭化ケイ素(SiC)と窒化ガリウム(GaN)である。
これらは従来のシリコン製半導体に比べ、電力損失を大幅に削減できるという高性能を持つ。
SiCは特にEV分野で進化が顕著だ。
コストは高いものの、大幅な電力ロス削減により、車の電費改善や航続距離の延伸に寄与する。
テスラやBYDといった主要EVメーカーがSiCの採用を進めることは、その優位性を示す明確な証左と言えるだろう。
GaNはSiC同様に期待されるが、SiCに比べて技術的な安定性や量産体制が未だ発展途上だ。
しかし、将来的にはデータセンターやEVなどSiCと同じ用途での活躍が期待されている。
このSiC市場においては、現在STマイクロ、インフィニオン、ローム、オンセミ、ウルフスピードの欧米日5社が90%以上のシェアを握る寡占状態にある。
日本企業ではロームが、SiCとGaNの両方に多大な投資を行い、世界をリードするポジションを確立しているのは特筆すべき点だ。
Q. SiC市場における中国の動きは日本にとってどのような脅威となるのか?
SiC市場において、中国の存在感が増している点は無視できない脅威である。
過去、リチウムイオン電池の分野では、中国政府の強力な支援により、中国勢が台頭し、わずか10年で市場価格が10分の1になるという激変が起こった。
SiCに対しても、中国政府は全く同様の戦略で自国メーカーを支援しており、数年後には市場シェア構造が大きく変わる可能性があると懸念されている。
このような過去の成功体験を持つ中国の攻勢に対し、日本は備える必要がある。
Q. 日本の半導体産業が世界における競争力を失った根本原因は何か?
日本半導体産業の衰退には、いくつかの致命的な経営判断ミスがあった。
まず、DRAM市場での敗北である。
かつて日本のDRAMは「20年使える」と言われるほどの高品質が売りだったが、市場の主戦場がPC向けに移行すると、ユーザーが求めるのは「価格」であり、過剰な品質はもはや評価されなくなった。

日本企業がこの潮流を見誤り、韓国勢に価格競争で敗れたことは大きな失策だったと言える。
DRAM事業撤退後、各社が新たな成長分野として掲げたのが「システムLSI」だった。
しかし、「いつでもどこでもネットに接続できる電子機器(ユビキタス)」向けという具体的なビジョンを伴わない曖昧なコンセプトが先行し、結果的に後のスマートフォンという巨大な市場を捉えきれなかった。
これもまた、明確な戦略と販売先を持たないまま投資を続けた典型的な失敗事例である。
Q. 過去の半導体産業における事業統合・再編の事例から学ぶべき教訓とは?
日本が経験した大型再編の多くは、必ずしも成功とは言えない。
エルピーダメモリの場合、日立とNECが不採算DRAM事業を切り離すための「厄介払い」という側面が強かった。
結果的にシェアは急減し、「1+1が2どころか、1未満になる」という悲劇を生んだ。
ルネサスにおいても、日立、三菱、NECの半導体部門が合流したが、各社の得意分野や強みがむしろ失われ、効率的なシナジー効果は限定的だったと評価されている。
これらの経験から得られる最大の教訓は、再編の目的が不採算事業の切り離しや社内の政治的な力学に基づくものではなく、明確な成長戦略と市場競争力の強化にあるべきだという点だ。
Q. 日本がパワー半導体で世界を再びリードするために、理想的な再編の道筋はどこにあるのか?
足元ではデンソーによるロームへのTOB提案があったが、これは長期的には賢明な選択ではない。
半導体メーカーが一顧客に買収されると、他社への製品供給が限定され、事業の自由度と市場全体の競争力が損なわれる。
この観点から、ロームが東芝との事業統合案を推進する方向はポジティブに捉えられる。
しかし、真に世界をリードするにはロームと東芝の統合だけでは不十分だ。
東芝はシリコン系パワー半導体に強みを持つが、特にEVで重要なIGBTは三菱電機と富士電機が優れている。
したがって、ローム(SiC/GaN)、東芝(シリコン)、三菱電機、富士電機(IGBT)が一体となった、「日の丸パワー半導体連合」のような形が理想的だ。
これにより、欧州のインフィニオンのような強大な競合とも対等に戦えるフルラインナップが整うだろう。
デンソーのような大口顧客は、買収者ではなく、日本の半導体産業を「応援」する側に回るべきである。
「単体では実現できないソリューションを統合した日本企業が提供すべき」と期待を寄せる顧客の視点が、再編成功の鍵となる。
Q. 日本半導体産業の復活に向け、国と企業は具体的にどのような施策を講じるべきか?
国の半導体産業戦略は、「2040年までに製造額40兆円」という数値目標を掲げる一方で、過去の失敗と産業構造の変化を十分に反映しているとは言い難い。
真に目標を達成するためには、AIが牽引する最先端メモリ・ロジック分野への再挑戦も視野に入れるべきだろう。

具体的には、以下の提言が考えられる。
一つは、日本の企業組織に見られるシステム部門と半導体部門の「縦割り構造」を解消すること。
システム全体の知見を持つ技術者が半導体設計に積極的に関与し、新しいアイデアを生み出せるようなインセンティブ設計や環境整備を国が主導すべきだ。
シリコンバレーのように、技術者が「一山当てよう」と挑戦できる文化の醸成が不可欠である。
二つ目は、日本の強力な電子部品メーカーの活用だ。
日本電産ニデックや村田製作所のような企業は、最先端ITベンダーやスマホメーカーの顧客情報を深く把握している。
これらの企業に半導体事業への参入を促し、補助金などの形で国が積極的に支援すれば、新たな競争力が生まれる可能性がある。
過去の多くの失敗が示すように、どんな施策も「誰が、何を、何のためにやるのか」という明確な目的と戦略なしには成功しない。
この本質を理解し、政府と企業が一丸となって取り組むことが、日本半導体産業の真の復活への道となるだろう。