PIVOT TALK WORLD
【秩序崩壊の深層①】変容するアメリカと同盟国の戦略(鶴岡路人)
(1039)
8,025回視聴
2026年3月16日

世界秩序が大きく変わる中、日本はどんな戦略を取るべきなのか?多国間主義の行方と同盟国の戦略、中国のパワーポリティクス、日米関係の視点から、全3回で議論する。 <ゲスト> 加茂具樹|慶應義塾大学総合政策学部長 教授 専門は現代中国政治外交研究。JFIR上席研究員。これまで香港総専門調査員、國立政治大...
秩序崩壊の真相: 世界を覆う予測不能な米国の変容と同盟国の道
ウクライナ危機以降、世界の国際秩序は激しく流動している。かつての「国際協調があれば平和が訪れる」という認識はもはや過去の遺物となった。本稿では、慶應義塾大学総合政策学部の鶴岡路人教授と加茂具樹教授が深く考察した秩序崩壊の真相をQ&A形式で読み解く。
アメリカの同盟国としての日本の立場と、来るべき不確実な時代を生き抜くための戦略について解説する。


Q. 戦後の国際秩序はなぜ崩壊しつつあるのか?
第二次世界大戦以降、アメリカが多大なコストをかけて維持してきた国際秩序が現在、急速にその姿を変えつつある。その背景には、アメリカの相対的な国力低下という構造的な問題が横たわる。
秩序を維持するコストがアメリカにとって大きな負担と感じられるようになり、利益を上回ると認識されているのだ。これにより、これまで世界の安全保障を担ってきたアメリカのコミットメントそのものが大きく揺らいでいると言える。
Q. トランプ大統領の出現は国際秩序崩壊にどのような影響を与えたのか?
トランプ大統領は、戦後の国際秩序崩壊の「原因」そのものではない。むしろ、彼が大統領として見せた行動や発言は、水面下で進んでいた構造的な変化を露骨に、そして加速的に顕在化させた「加速装置」である。
同盟国が旧来の外交常識に基づき「時間稼ぎ」でトランプ政権を乗り切ろうとしても、彼の行動は予測不能で、じっくりとした交渉は通じない。グリーンランド買収の突然の提案のように、彼の「時間軸」は通常の政治プロセスとは大きく異なるため、同盟国は対応に窮している状況が伺える。

Q. 米国が目指す「新モンロー主義」とは具体的にどのようなものか?
トランプ政権が国家安全保障戦略で打ち出した「西半球重視」は、自らの裏庭と見なす西半球から他国を排し、排他的優位を確保する一方で、ヨーロッパなどの他地域には自国の都合に合わせて積極的に介入する姿勢を示すものだ。これは「都合の良いつまみ食い」的な関与であり、従来のモンロー主義とは一線を画す。
例えば、デンマーク領であるグリーンランドの買収提案は、安全保障や資源といった客観的な合理性が見当たらず、トランプ氏個人の「大きな土地が欲しい」という不動産的な発想や、19世紀のアラスカ購入に見られるような領土拡張への連想から来ている可能性すら指摘されている。これは同盟国との協調を無視した、まさに予測不能な行動の一例である。
Q. 国際法や多国間主義は、これからの国際社会において役割を失うのか?
かつてアメリカはルールに基づく国際秩序の守護者と見られていたが、その歴史を紐解くと、国際法や国連といった国際機関を「自らの行動を縛る都合の悪いもの」と捉え、国益のためなら無視することも辞さない姿勢を一貫して示してきた。
実際、アメリカ、ロシア、中国のような大国にとって、国際法は本来やりたいことを制約する「面倒なもの」でしかない。しかし、日本のような「普通の国」や小国にとっては、国際法は自国の利益と安全保障を守るための極めて重要なツールであり、その根本的な認識には大きな隔たりがあると言える。
中国は、アメリカやロシアの不安定な行動を見て、自らが「予測可能でまともな大国」としてのイメージを世界にアピールしている。既存の秩序のプレーヤーとしてではなく、来るべき新秩序において「ルールメーカー」の立場を目指しており、これを実現すれば「自分の取り分をより多くする」狙いがある。

Q. 米国からの「プランB(自立)」は欧州には可能でも日本には困難なのか?
ヨーロッパがロシアの脅威から脱するために「プランB」、すなわちアメリカに頼らない自立を目指す可能性は物理的に十分ある。ヨーロッパ全体は、人口でロシアの約4倍、GDPでは約10倍の経済力を持ち、本気で国防予算を増額すれば、自力でロシアに対処できる潜在能力を持つ。
しかし、日本の「プランB」は、相対する中国が巨大すぎるため、非常に困難だ。人口比で10倍近い中国に対し、単独で軍事・安全保障面で対抗することは非現実的と言わざるを得ない。この構造的な違いが、日本と欧州の選択肢を大きく隔てる要因となっている。
アメリカの不可解な行動や同盟国への圧力が続く中、ヨーロッパでは「有事の際にアメリカは本当に守ってくれるのか」という疑念が募っている。このようなアメリカへの信頼低下は、欧州の自立を促す一因となるだろう。

Q. 激動する国際社会の中で、日本が取るべき道筋は何か?
残念ながら、日本には欧州のような「プランB」や、中国側に付くという「プランC」は現実的ではない。取るべき道は「日米同盟を維持しながら、自らの防衛力を強化する」こと、つまり「自立」することだ。これはアメリカから離れるためではなく、アメリカを巻き込むための戦略である。
アメリカの同盟戦略の基本は「自ら助くる者を助く」である。アフガン政府が見捨てられ、徹底抗戦したウクライナが支援を引き寄せた事例はこれを雄弁に物語る。日本が「戦う意思と能力」を示し、勝てる見込みがあるという姿勢を見せて初めて、アメリカの支援を呼び込むことができる。
近年の日本の防衛費増額は、軍拡競争を煽るものではなく、長年遅れていた中国の軍拡への対応を急ぐ、必要不可欠な措置である。ただし、「負担なき増額」はありえず、この負担を国民がどう引き受けるのか、政治が正直に議論しコンセンサスを形成することが今後の大きな課題だ。