PIVOT TALK WORLD
TSMC、熊本で3ナノ半導体生産へ
(670)
5,617回視聴
2026年3月24日

2026年2月5日、TSMCは建設中の熊本新工場で回路線幅3ナノの先端半導体を生産する方針を明らかにした。AI需要を背景とした日本の半導体産業の好機、台湾との連携を含む今後の戦略を、日本と台湾の専門家に聞いた。 <ゲスト> ジェレミー・チャン(張智程)|科学技術・民主と社会研究センター(DSET)...
TSMC熊本3ナノ製造の真相と日本の半導体戦略: 「自前主義」からの脱却は必須か
TSMCが熊本第2工場で最先端の3ナノ製品を製造するとの報道があった。当初の計画が変更された背景には世界的なAIブームの影響があると考えられている。
これは日本の半導体産業にとって好機と捉えられているが、TSMCのグローバル戦略の中で日本がどのような位置付けにあるのか、その実態を深く掘り下げる必要がある。
本記事では、世界経済と安全保障の潮流が交錯する半導体業界において、日本の半導体産業が進むべき道、そして台湾との連携の重要性についてQ&A形式で考察する。
Q. TSMCの熊本工場での3ナノ生産は日本にとってどんな意味があるのか?
TSMC熊本第2工場の生産計画が、従来の汎用製品から最先端の3ナノ製品へ変更されたことは、世界的なAI半導体の需要逼迫を反映したものである。
これは、AIブームにより、AI向けチップの需給が極めて逼迫し、当初計画していた6〜12ナノ製品の需要が相対的に緩んだためである。日本の市場ポテンシャルを特別に評価した結果ではないとの見方が強い。
日本にとって朗報ではあるが、TSMCのグローバル戦略における純粋な事業判断と認識する必要がある。

Q. TSMCが日本よりもアメリカを重視する背景には何があるのか?
TSMCにとって米国市場は極めて重要である。売上の約74%を米国市場向けが占め、特にAI向けやスマホ向けの主要顧客は米国企業が大半を占める。
さらに、トランプ政権時代から続く政治的圧力も加わり、米国への大規模投資がTSMCの最優先事項となっている。これはアリゾナ工場増強や、相互関税交渉を巡る多額の対米投資計画からも明らかである。
熊本は電気、土地、水、人材といった「五つの不足」を緩和する可能性を持つ拠点ではあるが、米国が持つ顧客基盤と政治的影響力は絶大であるため、日本への投資ペースに影響を及ぼす可能性は否定できない。

Q. AIブームの中で日本の素材・装置メーカーに新たなチャンスは到来しているか?
AIブームは日本の製造業に新たなビジネスチャンスをもたらしている。特に、半導体素材や先進パッケージング技術、AIサーバー関連部品の分野では、日本の企業が独占的、あるいは寡占的な地位を築いている。
これらの企業はこれまで目立たない存在だったかもしれないが、地政学が重要視される時代において、主要な投資対象として大きな注目を集めており、大きな成長が期待されている。
一方で、AIバブルの破裂というリスクも常に存在するため、日本の政策立案者には、企業がリスクを恐れずAIブームに積極参画できるよう、適切な政策的支援を行うことが大きな課題として突き付けられている。
Q. ラピダスのような国策プロジェクトは、経済安全保障上「自前主義」で進めるべきなのか?
日の丸半導体「ラピダス」の成功は、最先端の2ナノ技術開発だけでなく、TSMCが長年にわたり築き上げてきた強力なエコシステムを構築できるかにかかっている。
TSMCの真の強さは、NVIDIAなどのファブレス企業との数十年にも及ぶ協業、顧客に寄り添う技術サポート体制、そしてサプライチェーン全体が台湾に集積している「場の力」にある。
半導体産業は歴史上最も相互依存的な産業であり、TSMCのような巨大企業ですら一社だけでは成り立たない。この特性を鑑みると、「自前主義」は高コストであり非効率である可能性が高い。

経済安全保障を達成するためには、日本も「自前主義」を捨て、友好国や同盟国と技術や生産能力を「シェア」する戦略が不可欠である。日本から台湾のエコシステムに深く関与する双方向の連携が、成功への鍵を握っている。
Q. 日台連携の深化は、台湾有事のリスクがある中で日本の脆弱性とならないか?
台湾有事などの地政学リスクがある中で日台連携を深化させることに対する懸念も存在する。しかし、極端な「自前主義」に陥れば、市場競争力を失い、かえってサプライチェーンの強靭化を妨げる可能性がある。
サプライチェーンのリスクは軍事衝突に限定されず、自然災害など多岐にわたる。コロナ禍やウクライナ戦争を契機に高まった自国での半導体製造熱は、今や安全保障と市場の論理のバランスを見直す時期にある。
日台連携は日本の脆弱性を高めるものではなく、むしろAIブームという巨大な潮流の中で、日本の素材・装置産業が生き残り、存在感を高めるための「得策」と見るべきである。
日本の強みである技術をTSMC主導のエコシステムに組み込むことで、AIサプライチェーンにおける日本の地位を強化し、さらなる成長機会を掴むことが期待される。

Q. 中国の非市場的競争に対抗し、日本が経済レジリエンスを確保する道はあるか?
日本の製造業が直面する中国との価格競争は、中国政府による巨額の補助金や非市場的な行為が大きな要因である。この現実において、単なるコスト競争で中国に打ち勝つことは極めて困難である。
日本が経済的レジリエンス(強靭性)を確保するためには、中国への過度な依存から脱却し、「非中国サプライチェーン」を友好国と共に構築することが必須となる。
採算が取れる新たなサプライチェーンを構築・維持し、次のAIや人型ロボットなどのイノベーションの波で日本企業が競争力を保てる環境を整えること。
これは国家安全保障と経済的繁栄を両立させる、最も持続可能かつ戦略的なアプローチであると言える。