
賃上げにも原油高影響か
春闘目前!「賃金安」日本がデフレを脱し好循環を生むための提言とは?
日本の賃金と物価は、今まさに大きな転換点を迎えている。
長年のデフレから脱却し、物価と賃金が共に上昇する「好循環」が期待される中、この機会を掴み持続的な経済成長へと繋げられるのか、その鍵は春闘が握る。
本稿では、今後の日本の経済動向を左右する要因と、持続的な賃上げ実現に必要な対策について、専門家の提言に基づいて考察する。

Q. 賃金と物価の「好循環」とはどのような状態を指すか? そして日本経済の現在地はどうなっているか?
企業の価格上昇と労働者の賃金上昇が相互に作用する「賃金と物価の好循環」は経済の理想形である。
物価が例えば2%上がれば、労働者は生活コスト増に加え生産性向上分を合わせて約3%の賃上げを要求する。
これを受けて企業は上がった人件費を価格に転嫁し、再び物価が上昇する。

このサイクルが持続することで、国民は物価上昇を感じつつも自身の豊かさを実感できる経済状況となる。
日本は長期デフレからの脱却を経て、現在この理想形に7~8割まで到達しているが、賃金上昇が物価高に追いつかず、多くの国民が生活の豊かさを実感できないのが現状である。
根本的な問題は「物価高」ではなく「賃金安」にあるとの指摘もある。
Q. 日本の賃金が20年以上も上がらなかった主な原因は何なのか?
賃金が長らく停滞した最大の原因は、労働組合が雇用維持を優先し、賃上げ要求を「自粛」してきた点にある。
2002年頃、労働組合の中央組織である連合がベースアップ(ベア)要求を取りやめるなど、自発的に賃上げ要求を抑制した。
当時、金融機関の不良債権問題が深刻化し、企業は生き残りのため賃下げか雇用の維持かを迫られた。
さらに、中国など人件費の安い国々とのグローバル競争も激化し、企業は賃上げが競争力低下に繋がると考えたためである。
経団連が「戦う春闘は終焉した」と発言したことも、この賃上げ停滞ムードを助長したと言える。
Q. 長らく停滞していた日本の賃金は、なぜ近年、高水準の賃上げが実現するようになったか?
20年以上賃金停滞が続いた後、日本経済は新たな局面を迎えている。

特に2023年以降の春闘では、30年ぶりとなる5%超の賃上げが3年連続で実現する見込みである。
これは、デフレマインドの転換、企業業績の好調、人手不足の深刻化などが背景にある。
2024年初頭には、安定的な実質賃金プラス転換も確実視されていた。
この背景には、名目賃金の持続的な上昇に加え、食料品価格の落ち着きや政府の物価高対策によるインフレ率の鈍化(2%割れ)の兆候があった。
ようやく賃金が本格的に動き始め、デフレ脱却への道筋が見えてきたと言えるだろう。
Q. 2024年の春闘で実質賃金プラスが期待される中、イラン情勢の緊迫化はどのように影響するか? また、政府の物価高対策は適切か?
2024年の春闘では実質賃金プラスが期待される中、集中回答日を直前にしてイラン情勢が緊迫化した。
これにより、これまで賃上げに前向きだった経営者側も、将来的な原油高などのコスト増を懸念し、賃上げ抑制を交渉の場で持ち出す動きが見られる。
政府はガソリン補助金などで物価上昇を抑えようとしているが、これは欧州諸国が半年ほどで手を引いたにもかかわらず、日本が長く続ける「伝統芸」のような対症療法に過ぎないとの指摘がある。
価格メカニズムを歪める補助金よりも、財源は直接的な賃上げ支援や手取りを増やす政策に振り向けるべきだ。
特に大企業は、過去最低水準に労働分配率が低下しており、潤沢な内部留保がある。
そのため、地政学リスクを理由に賃上げを渋る正当性は低いと言える。
労働者も、賃上げしない企業から積極的に転職することを視野に入れるべき時期に来ている。
Q. 「満額回答」が労働者にとって必ずしも良いとは言えないのはなぜか? また、日本の労働組合が抱える課題とは何か?
近年ニュースで聞かれる「満額回答」は、企業が立派だからではない。
実際は労働組合の賃上げ要求が低すぎたため、企業が楽に達成できた証拠に過ぎないという厳しい指摘がある。
これは、労働組合に根深く残る「あしき横並び意識」が背景にある。
全ての加盟企業が賃上げ可能な水準に目標を合わせるため、高い賃上げが可能な企業のポテンシャルを抑制し、全体的な賃上げの足かせとなっているのだ。
集団で一律の賃上げを目指す日本の「春闘」方式は、先進国では時代遅れになりつつある。
将来的には個々の企業や労働者の交渉力に応じた賃金格差が拡大し、労働市場の流動化が進むと予想される。
また、地政学リスクなどで「さらに物価が高くなる」というインフレ期待が国民の間に広がり、それが自己実現的にインフレを加速させてしまう危険性もある。
適切な賃上げがなければ、インフレは人々の生活をさらに苦しめる可能性があるのだ。
Q. 将来的な賃上げを確実にするために、どのような科学的提言がなされているのか?
経済学者は、日本の賃金構造を強化し、持続的な実質賃金上昇を実現するため、以下の4つの画期的な提言をまとめた。
第一に、賃上げ要求の基準を、過去のインフレ実績ではなく、将来のインフレ見通し(例:日銀の物価目標2%)に転換すべきである。
これにより、インフレ加速局面で賃上げが物価に追いつかない事態を防ぐ。
第二に、予想外のインフレで実質賃金が目減りした場合、その損失分を翌年の春闘で上乗せ要求できる「キャッチアップ条項」を労使間で事前に合意することだ。
これは、労働者の生活設計を安定させ、企業の採用競争力向上にも繋がる。
実際に一部企業では既にこの仕組みを導入し、効果を上げている事例もある。
第三に、人手不足の度合いを情緒的にではなく、「自然実質賃金」とのギャップとして科学的に定量化し、それを根拠に具体的な賃上げを要求すべきである。
マクロ全体では最低でも約3%のギャップが存在すると推計されており、これを根拠に賃上げ要求を行うことで、交渉の説得力は格段に増す。
第四に、政府は最低賃金だけでなく、より広い労働者層に対して「10年後に賃金がどうなるか」という中長期的な見通しを積極的に情報発信すべきである。

これにより、人々は将来を見据えた消費やライフプランを立てやすくなり、経済活動全体が活性化する効果が期待される。
これらの提言は、情緒的な交渉からデータに基づく科学的な春闘への転換を促すもので、日本経済のデフレ脱却と持続的成長には不可欠である。
Q. 賃上げによる格差拡大が懸念される中で、政府が果たすべき役割とは何か? また、消費税減税は有効な対策と言えるか?
賃金と物価の好循環が実現すると、賃上げが進む層とそうでない層との間で「賃金格差」が拡大する。
「等しく貧しかった」デフレ時代とは異なる、新たな社会問題として、政府はこの格差を認識し、適切な対策を講じる必要がある。
政府の役割は、物価抑制ではなく、賃上げから取り残された人々に対し、給付付き税額控除のような政策で事後的に手厚くケアするセーフティネットを構築することだ。
一方、消費税減税は有効な対策とは言い難い。
問題の本質が「物価高」ではなく「賃金安」である以上、物価を抑制する消費税減税は根本的な解決にはならない。
過去の事例から、増税分はほぼ価格に転嫁されるが、減税分は完全に価格に反映されず、企業の利益に吸収される可能性が高い。
例えば、消費税が2%下がっても、私たちの実質的な価格は1%程度しか下がらない可能性がある。
政府の政策は、目先の物価高抑制よりも、国民の実質的な手取りと生活の安定を直接高める賃上げ促進に重点を置くべきである。
国、企業、組合のそれぞれが役割を果たし、私たち一人ひとりが賃金問題に関心を持つことが、日本の持続的成長の実現には不可欠だ。