
米軍の兵器枯渇と離脱の可能性
イランにおける米国の軍事作戦の評価と展望:"終わらない戦争"の先に何があるのか?
イランを巡る情勢は刻一刻と変化し、アメリカとイスラエルによる軍事作戦が中東の緊張をさらに高めている。その展開は、単なる軍事衝突に留まらず、国際政治、経済、そして米国の国内情勢にも深く影響を及ぼすと考えられる。
本稿では、タクシード大学教授の佐藤丙午氏の見解を基に、この軍事作戦の現状評価から、今後の見通し、そしてその背景にある多層的な政治的意図をQ&A形式で深掘りするものである。何が成功し、何が課題となり、アメリカの次の手はどこに向かうのか。この「終わらない戦争」の行方を紐解いていく。

Q. イランにおけるアメリカの軍事作戦は、現状どう評価されるか?
イランにおけるアメリカの軍事作戦は、現状では「大成功」であったと評価される。これは、過去の経験から地上軍を派遣しイランを占領するという非現実的な戦略を回避し、長距離からの打撃や航空優勢の確保に焦点を当てたためである。米国は当初の軍事目標を着実に達成していると見られる。
イラン国民が蜂起しなかったことについても、アメリカ側は想定内としていた。トランプ大統領自身が、それまでの米国の中東政策や民主化に対する過度な期待を批判していた経緯から、住民の蜂起には大きな期待を持っていなかった。
Q. なぜアメリカ軍の弾薬枯渇が懸念される事態になっているのか?
アメリカ軍の弾薬枯渇が懸念されるのは、イランによる「非対称戦」にある。イランは安価なドローンや弾道ミサイルを大量に用い、米国はこれを撃墜するために高価な迎撃ミサイルを使わざるを得ない。

このコストの不均衡は、数百万のドローンに対して数億円のミサイルを使うという状況を生み出し、長期的に米国の兵器システムを消耗させる。米国防省は既に軍事メーカーに対して武器弾薬の増産を要請しており、この問題の深刻さが浮き彫りになっている。また、ホルムズ海峡の封鎖については、イランは実際の機雷敷設や艦艇派遣ではなく、主に口頭での牽制を行っている現状がある。しかし、米国はイラン海軍の海上部隊に対する攻撃で対抗しており、イランが海峡を完全に封鎖する能力は限定的だと見ている。
Q. トランプ大統領が第二次世界大戦のメタファーを用いる意図は何を意味するのか?
トランプ大統領や米政府が、軍事作戦の説明において第二次世界大戦期の言葉を用いる背景には、高度な政治的メッセージが隠されている可能性がある。例えば、これまで「神風ドローン」と称されていた自爆ドローンを「ワンウェイドローン」(一方通行のドローン)と呼び換える動きは、戦争の持つ残酷なイメージを払拭し、国際的な印象をコントロールする意図があると考えられる。これは、日本への配慮というよりも、語彙選択が国際政治に与える影響を意識したものであろう。
また、「無条件降伏(unconditional surrender)」という言葉をトランプ大統領が使用することも、単なる威嚇に留まらない。第二次世界大戦後、日本は無条件降伏を受け入れながらも天皇制が維持されたという歴史がある。この例を踏まえれば、イランに対して、「政治体制を維持したまま、アメリカに対する敵対的・軍事的に強硬な政策を修正すれば、和平への道は開かれる」という、ある種の柔軟な出口戦略を示唆している可能性がある。これは、イランの指導部に対して、間接的に交渉の余地を残す高度な政治的駆け引きの一部であるとの見方もできる。
Q. この戦争はどのように終結すると考えられるのか? 戦争権限法は終結のタイムラインになり得るのか?
この戦争が明確に「終結」すると断言することは難しい。むしろ、アメリカはイランの占領や体制転換を目的としておらず、軍事的脅威を無力化することを目指しているため、明確な戦争終結宣言がないまま低レベルの戦闘が継続する「終わらない戦争」に移行する可能性が高い。戦闘の激しさは段階的に低下するが、完全に軍事活動が停止するわけではないだろう。

戦争権限法は、大統領の軍事行動を議会の承認なしに60日以内に制限する法律だが、これが終結のタイムラインになる可能性は低い。歴代大統領はこれを「憲法違反」として無視する傾向にあり、トランプ大統領も同様の姿勢を取ることが予測される。現在のイランとの衝突が議会の開戦宣言を要する「戦争」に当たるかという法的論点も存在し、米国はこれを大統領の軍最高司令官としての権限下にある行動と捉えているため、法律による直接的な制約は受けにくい状況である。アメリカの「ウォークアウェイ(立ち去り)」シナリオも考えられ、所期の目的達成を宣言し、これ以上の攻撃は行わずイスラエルに後を任せることで、事実上の戦闘終了となる可能性もある。
Q. アメリカはイランの軍事的脅威をどのように無力化しようとしているのか?
イランは国内に堅牢な地下軍事施設や核関連施設を有しており、これらを完全に破壊することは極めて困難であると認識されている。そのため、アメリカとイスラエルは、これらの施設を完全に破壊するのではなく、「軍事的に活用できない状態にする」ことを目標とする可能性が高い。
具体的には、イランが破壊された施設を再建し、再び軍事的な脅威となるまでの時間を稼ぐ「スナップバック」戦略が用いられるだろう。これは、オバマ政権下での核合意(JCPOA)において設定された「核兵器計画を再開する兆候が出てから制裁を再開するまでの期間(約1年)」を参考にするものであり、この猶予期間を利用して、アメリカは交渉や次の軍事行動への準備を進める時間的余裕を確保する狙いがある。
Q. アメリカは中間選挙を前に、次にどの地域へ目を向ける可能性があるのか?
イランでの激しい戦闘は1〜2週間で終息する可能性が高いが、その作戦の成果だけでは、トランプ政権が中間選挙まで国内の支持を維持することは困難である。そのため、新たな外交上の成果を追求する可能性が指摘されている。

イランとの紛争で武器弾薬を消耗した結果、東アジアにおける米軍の展開能力には大きな制約が生じる。これにより、アメリカは中国との敵対的な関係を維持することが難しくなるため、歴史的な和解や対話路線への転換を模索する可能性もある。
あるいは、中間選挙に向けた新たな政治的成果として、キューバへの軍事圧力が選択肢に浮上している。長年の経済制裁によって疲弊しているキューバであれば、最小限の軍事圧力で大きな「成果」を国内外にアピールできる可能性があるからである。ただし、キューバ国内には民主化を推進するようなパートナーが存在せず、軍事的な圧力をもってしても政権転覆まで至る明確な成功への道筋は不透明な状況である。