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中国はイラン情勢をどう見るか
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2026年3月6日

緊迫するイラン情勢に対する中国の反応を分析。中国のエネルギーリスク分散戦略やイラン産原油を「安く買い叩いてきた」微妙な両国関係を解説。さらに「トランプ政権」の予測外な動きに、中国・ロシア・北朝鮮が抱く警戒心と動揺を、興梠一郎氏が浮き彫りにする。 <ゲスト> 興梠一郎|神田外語大学 教授 九州大学経...
中東情勢の激化と中国の動向:隠された思惑と台湾有事への影響を読み解く
イラン情勢が国際社会に緊張をもたらす中、世界経済や安全保障の鍵を握る中国はどのような動向を見せているのだろうか。一見するとイランと親密な関係に見える中国の裏に潜む経済的合理性、巧妙なリスクヘッジ戦略、そしてこの中東の混乱が台湾有事に与える意外な影響について、専門家の見解を深掘りする。中国の複雑な思惑と、それが国際情勢に与える多角的な影響を考察していく。

Q. 中国はなぜイラン情勢から距離を置く姿勢を見せるのか?
中国がイラン情勢に深く介入したがらない背景には、ロシア・ウクライナ戦争に対する姿勢と同様に、特定の陣営に肩入れして国際的な摩擦を生むことを避ける基本戦略が存在する。中国はかねてより、中東における紛争の対話を通じた解決を促しており、これはイランだけでなく、サウジアラビアなどの対立国とも良好な関係を維持しているためだ。一方に深入りすれば、他方の関係が損なわれる可能性がある。中国は中東全域を重要なエネルギー供給源および投資先と捉えており、特定の国に偏らず全方位的な外交を展開することで、自国の利益を最大化しようと努めている。この中立的な立場は、自らを地域の安定化勢力と位置づける戦略の一環でもある。

Q. 中国とイランの「親密」な関係の真の姿とはどのようなものか?
中国とイランの関係は表面上親密に見えるものの、その実態はビジネスライクな経済的結びつきが中心である。イランに対する中国の最大の関心事は、制裁により他国への輸出が制限された原油を安値で大量に買い付けることにある。イラン産原油の約9割を中国が輸入しているとされ、これは中国にとってコストメリットの大きい調達先となっている。しかし、この関係は軍事同盟のような強固なものではない。実際、中国は2005年頃にはイランへの武器売却を停止しており、NPT(核不拡散条約)違反の制裁措置に一定の配慮を示していた経緯がある。さらに、中国はイランだけでなく、そのライバル国であるサウジアラビアに対しても巨額の投資を行っており、2023年にはサウジとイランの国交正常化を仲介するなど、バランスの取れた関係構築に注力している。習近平国家主席がサウジ訪問時にイランに立ち寄らなかったことからも、中国の真の優先順位は経済的合理性と全方位外交にあることが窺えるだろう。イラン側はこれを不満に感じているとの見方もあるが、中国は一貫して自国の国益を最優先しているのである。
Q. 中国はエネルギー資源の安定供給をどのようにリスクヘッジしているのか?
米国との対立が深まる国際情勢を背景に、中国はエネルギー安全保障の観点から非常に強力なリスクヘッジ戦略を採っている。これは原油だけでなく、大豆などの食料資源についても同様で、特定国への依存を避けるために調達先の多様化を進めている。原油輸入に関しては、ロシアが最大で、サウジがそれに続くが、イラン産の原油もマレーシアなどを経由する迂回ルートを通じて相当量輸入しているとされる。これらの数字は公式統計には表れないことが多いが、事実として中国は制裁下にある国から安価な資源を得る機会を逃さない。加えて、ホルムズ海峡のような海上輸送のチョークポイントが閉鎖されるリスクに対し、中国は陸路での調達網を強化している。特にロシアやカザフスタンからの陸上パイプラインによる原油供給は、有事の際に中国にとって生命線となり得る。また、サウジからの原油も紅海ルートを通じて輸送できる体制を一部整えるなど、複数の輸送経路を確保することで、特定のリスク源に対する脆弱性を軽減しようとしている。こうした多角的な調達・輸送戦略は、米国の経済的圧力に対抗し、いかなる地政学的変動にも耐えうる経済基盤を築くための、中国の綿密な計画の一部である。

Q. ホルムズ海峡の封鎖は中国経済に無傷でいられる影響しかないのか?
中国がエネルギー調達でリスクヘッジを進めているとはいえ、ホルムズ海峡の封鎖が無傷で済むわけではない。実際、中国の海上石油輸送量の約半分はホルムズ海峡を経由しており、中東からの原油供給が滞れば、その影響は避けられない。仮に封鎖されれば、海運保険料の高騰や輸送コストの増大、さらには国際的な原油価格の全面的な高騰は避けられず、現在のデフレ状況下にある中国経済にとっては「二重の打撃」となる可能性が高い。国内景気が良くない現状で、エネルギー価格の高騰は産業活動を冷え込ませ、インフレ圧力を高めかねないからだ。中国政府はこのような事態を最も避けたいと認識しており、ホルムズ海峡が封鎖される動きを見せた際には、国営企業のルートを通じてイランに自制を促す圧力をかけたという報道もある。米中首脳会談を控える中、中国は米国を刺激する言動を避け、イラン関連の国内報道を控えめにしている傾向も見られる。この動きは、中国がいかに米中関係を優先し、経済的安定を重視しているかの表れであると言えよう。
Q. 中国は中東地域の紛争において「調停役」として機能するのだろうか?
中国が中東の紛争で効果的な調停役を果たすには、いくつか決定的な課題がある。第一に、イランから見た中国への信頼度が低い点だ。中国はイランに対し明確な軍事支援を行わず、経済的にも安値で原油を買い叩くだけの関係にとどまっているため、イランが中国の言うことを聞く義理はない。特使を派遣したとしても、その影響力は限定的であると言わざるを得ない。第二に、中国が外交的に最も優先するのは対米関係であり、貿易総額で1%程度しか占めないイランの情勢に深くコミットするメリットは少ないと判断していることだ。イランもこの力関係を認識しており、中国の仲介に過度な期待を抱いていないと考えられる。むしろ、中国は中東全域にわたる影響力を強化する「ピースメーカー」のイメージを演出しつつも、実際には特定の陣営に深く踏み込まず、自国の経済的利益を最優先する立ち位置を堅持するだろう。この複雑な思惑が、中国の中東政策の本質である。

Q. 中東情勢の激化は台湾有事のリスクを増大させるのか、あるいは抑制するのか?
意外なことに、中東情勢の激化は現状において台湾有事のリスクを抑制する方向に作用していると専門家は分析する。第一に、米中首脳会談を控え、中国が米国を刺激しないよう配慮している点が挙げられる。台湾周辺への中国軍用機の活動が減少しているのはその表れだ。第二に、習近平指導部による大規模な軍内部の粛清がある。近年、多くの実戦経験を持つ軍高官が排除され、中央軍事委員会の指導部は戦争経験の少ない人物ばかりとなっている。この指揮系統の混乱は、台湾侵攻のような大規模な軍事作戦を遂行する上で、重大な障壁となる。第三に、そして最も重要な要因は、米国がベネズエラやイランの指導者を排除した「前例」が、習近平国家主席を含む独裁体制のトップに強烈な恐怖を植え付けたことだ。従来の「経済合理性(ディール)を優先する米国」という認識を覆し、軍事行動をも辞さない米国の姿勢は、中国やロシアといった類似の体制を持つ国々の指導者に「次は我が身」という強い警戒感を与えている。仲間が次々に失われ孤立する可能性への危機感は、台湾への軍事オプションという選択肢のハードルを大幅に引き上げただろう。経済的損失覚悟の行動に、かつてない心理的抑止力が働いているのだ。