
【危機こそチャンス】未来の漁業が「儲かる」理由
これからの漁業は「儲かる」?岐路に立つ「水産大国・日本」の展望
かつて多様な魚食文化を誇った水産大国・日本が、今、岐路に立たされている。海外では日本産の水産物が高い評価を得る一方、国内では食の画一化が進み、漁業者の担い手不足は深刻化している。養殖業もまた、希望と課題を抱える現実にある。日本の水産業はこれからどこへ向かうのか。本稿では、その現状と未来を探る。

Q. 日本の水産物は世界でどう評価されているか?
日本の水産物は国際競争力が高く、輸出は右肩上がりで推移している。コロナ禍や処理水問題による中国の禁輸措置といった逆風があったにも関わらず輸出額が伸びている事実は、日本産水産物の品質が世界的に高く評価されている証左と言える。特にホタテガイと養殖ブリは米国市場で人気を博し、水産物輸出の内訳の大部分を占めている現状だ。

その評価の最大の理由は、圧倒的な鮮度の高さにある。水揚げから流通、加工、輸出に至るまで、高いスキルとモラルを持った流通業者によって一貫した鮮度管理が行われていることが、生食を好む世界中の消費者から絶大な信頼を得る所以だ。
Q. サーモン「ばかり」の食文化が日本の漁業に与える影響とは何か?
近年、若い世代を中心にサーモンのみを食べるような「食の画一化」が進んでいる。四季折々、地域ごとに多様な魚を食してきた日本の食文化は、この画一的な消費によって破壊されつつある。
一年中どこでも同じ魚ばかり食べる硬直的な食生活は、個人の生活の質を低下させるだけでなく、多様な魚種を漁獲する国内漁業の衰退を招き、日本の食料安全保障を脅かす重大な問題となっている。グローバルな単一品目に消費が集中することは、国産魚種の消費を減らし、結果として国内漁業の崩壊につながる危険性を孕む。
Q. 養殖業は日本の食料危機を救う希望の星になり得るか?
日本の養殖業は餌のコスト高騰という厳しい現実に直面している。従来の「魚を魚で育てる」方式では、食料となる魚自体を人間が消費するようになったため、餌の確保が難しく価格が高騰した。これは経済的に持続可能なモデルではないと専門家は指摘する。

養殖業が真の希望となるためには、鯉や鮒のように植物性のプランクトンや草を食べる「無給餌養殖」の普及、あるいは昆虫食・植物由来の代替飼料の開発が不可欠だ。将来的には、遺伝子技術で植物性の餌で育つ「植物を食べるブリ」や、ブリの味を持つ「鯉」のような品種の開発が食料生産のブレイクスルーとなる可能性がある。
しかし、技術進化だけでは十分ではなく、台風被害の少ない養殖場所の限界も大きな課題だ。沖合での養殖を可能にする沈下式生簀などの新技術も必要不可欠と言えよう。
Q. 新規参入を希望する人が漁師になるためには何が必要か?
漁師の担い手不足は深刻だが、新規参入には三つの高い壁が存在する。第一に「資金の壁」であり、漁船購入には新造船で約5000万円と莫大な費用が必要だ。第二に「制度の壁」、漁業権や漁業許可は数が限定され、新規取得は難しい現実がある。第三に「技術の壁」で、見えない海中での網の操り方など、高度な操業技術習得には約10年を要すると言われる。これら複合的な要因により、世襲以外での就業は極めて困難だ。
国や都道府県は手厚い研修や生活支援で門戸を開いているものの、船上での過酷な作業による「体力的な厳しさ」が最大のハードルとなり、志願者の定着を妨げているのが現状だ。ただし、漁業者の減少によって一人当たりの漁獲資源量は増えており、将来的には「儲かる漁業」となる可能性も秘めている。
Q. 水産物において「ブランド」とは何か、どのように形成されるのか?
水産物において工業製品のような一定の品質を保証する「ブランド」を築くのは本質的に難しい。天然の魚は個体差が大きく、季節や流通経路によって品質が変動するため、常に顧客満足を保証するブランドの条件を満たせない。
そのため、「この産地のこの魚」といった表層的なネーミングは真のブランドにはなり得ず、単なる一時的な名称に過ぎない。養殖魚で「全てがブランド魚」を謳う状況は、消費者に何ら差別化された価値を提示できていないことに等しい。

水産業における真のブランドとは、特定の魚種ではなく、「信頼できる魚屋」そのものにある。その時々の最も良い魚を見極め、消費者に責任を持って提供するスキルとモラルを持った店主や店こそが、永続的な顧客の信頼を得る「ブランド」であると言えるだろう。
Q. 日本の漁業を持続させるために、国と私たちは何ができるか?
日本の漁業を持続可能にするためには、もはや市場原理に任せるだけでは不十分だ。食料安全保障は国の根幹をなす問題であり、防衛と同レベルで国家的な覚悟と予算を投入し、漁業従事者を守り育てる国策が必要不可欠である。国民全体もこれを支持する合意を形成すべきだ。
個人レベルでは、「食べて漁業を守る」意識が重要となる。普段の食卓に意識的に「国産の魚」を取り入れることだ。例えば、これまで月に3回焼肉に行っていたのを2回にして、1回をお寿司に変える。輸入サーモンの代わりに国産の「ご当地サーモン」を選ぶといった小さな選択が、積もり積もって日本の漁業を支える大きな力となる。
国産魚は鮮度も良く、味も優れているため、結果として消費者の食生活も豊かになる。これにより、国と消費者双方にとって好循環を生むwin-winの関係を築けるだろう。美味しいものを選んで食べることが、未来の子供たちの食を守ることにもつながるのだ。
