PIVOT TALK WORLD
これからの米国とロシア:第三次世界大戦を防ぐために
(1029)
6,490回視聴
2026年2月25日

2022年2月24日の開戦から4年が経過したウクライナ戦争。プーチンの歴史認識とは何か?今後、ロシアと米国はどう動くのか?第3次世界大戦を防ぐための教訓とは何か?前駐ロシア大使の上月豊久氏と、慶應義塾大学の細谷雄一教授に対談してもらった。 <ゲスト> 細谷雄一|慶應義塾大学法学部 教授 立教大・英...
激動する国際情勢:米露関係の未来と第三次世界大戦を防ぐ道
世界の均衡が大きく揺らぐ現代において、米国とロシアの関係は国際秩序の行方を占う上で極めて重要な要素である。歴史的な対立と協力、それぞれの思惑が複雑に絡み合い、一筋縄ではいかない現状がそこには存在する。
本稿では、米国とロシアの外交政策の根本にある哲学、両国の関係性を決定づける歴史的・心理的背景、そしてウクライナ戦争が引き起こす転換点に焦点を当てる。各国の「正義」が衝突する中、人類が破滅を避けるための道筋を深く探究するものである。


Q. アメリカは孤立主義に移行するのか?その外交戦略をどのように読み解くべきか?
アメリカの外交政策は近年、19世紀のモンロー・ドクトリンへの回帰を示唆する。これは南北アメリカ大陸を自国の勢力圏とみなし、ベネズエラやグリーンランドへの中国・ロシアの影響力を排除する強固な姿勢に現れる。
モンロー・ドクトリンの相互原則に基づき、アメリカは欧州への軍事的な介入を減少させる傾向にある。NATO司令官ポストの欧州への移譲検討などは、この欧州からの「戦略的撤退」の明確な兆候であると考えられる。
一方で、インド太平洋地域はアメリカにとって「フロンティア」という特殊な歴史認識を持つ。この地域は力で制圧・支配すべき対象と見なされてきたため、中国の台頭を許さず、孤立主義とは異なる積極的な関与を継続する可能性が高い。
しかしアメリカは多様なアクターで構成され一枚岩ではない。大統領の意向と議会や国務省の意見が異なることはしばしばあり、政策は時にジグザグに進む。欧州への反発とリアリズムが複雑に絡み合うのが実態である。
Q. イデオロギーのアメリカと現実主義のロシア、両国の関係性はどのように進展していくのか?
アメリカは民主主義や孤立主義といった理念に基づくイデオロギー的な外交を展開する一方、ロシアは常に国益を優先する現実主義で対応してきた。この対照的なアプローチが、現代の米露関係の根底にある。
ロシアはアメリカに対し、「嫌悪」と同時に「憧憬」を抱く「Love-Hate」の関係にある。超大国アメリカと渡り合うことで、自らが一流国家であることを確認したいという強いコンプレックスが存在すると考えられる。

「世界は大国が支配する」と考えるトランプ大統領の現実主義的な思考と、アメリカと協調することで自らの立場を確保したいプーチン大統領の思惑は奇妙にも一致する。これは両国の協力の土台になり得る。
ロシアにとって、アメリカと対等に渡り合える唯一の分野が戦略核兵器だ。ロシアはこの核合意を交渉の場として、中国を巻き込みながら自らの大国としての存在感を誇示しようとする思惑がある。
Q. ロシアは孤立と衰退に向かうのだろうか?歴史の教訓から未来をどう予測できるか?
ロシアは確かに西側諸国から孤立しているが、ASEAN、中東、アフリカ諸国との関係を強化し、非西側圏での影響力を広げている。プーチンはこれを「真の孤立ではない」と主張するだろう。
ロシア経済はG7を超える成長率を記録するなど表面的には堅調に見えるが、実態は労働力不足が深刻化し、停滞の兆候が見られる。プーチンが過去数年の合計成長率で「強がり」を言うのはその裏返しと考えられる。
ロシアが敗戦した歴史上の三つの戦争(クリミア戦争、第一次世界大戦、アフガン戦争)には共通のパターンがある。それは①敵の誤算、②戦争の長期化と経済疲弊、③指導者交代、④国内体制変革という連続である。

ウクライナ戦争は現在、①の敵(西側の結束)を見誤り、②の長期化と経済疲弊という状況に陥っている。歴史の教訓を熟知するプーチン大統領が、この先にあるであろう③指導者交代、④体制変革をどう回避するかが注目点となるだろう。
Q. プーチンのリーダーシップに変化は起こり得るのか?その兆候と影響について考察する。
一度始めた戦争を、特に不利な状況下で終わらせることは、いかなる指導者にとっても極めて難しい決断である。ゴルバチョフのアフガン撤兵の逸話は、不人気な戦争終結に伴う政治的困難さを雄弁に物語る。
かつて頻繁に囁かれたプーチンの健康問題説は、ロシア側が西側の抵抗を削ぐための情報戦の一環だった可能性も指摘されている。しかし、思考や応答の鈍化など、その判断力に影響を及ぼす可能性は否定できない。
プーチンは独裁的であるものの、国民の支持には極めて敏感だ。2022年9月の部分動員令がモスクワ市民の不興を買うと、即座に中止した過去がある。不人気な政策を繰り返さない姿勢は、彼の権力基盤が国民の支持に依存することを示す。
プーチンを中心とした強固な意思決定メカニズムがロシアには確立されているため、内部からの裏切りや革命による体制転換は困難である。しかし、国民の不満が臨界点を超えれば、その絶対的な権力基盤も揺らぎかねない。
Q. ウクライナ戦争の停戦はいつ、どのような形で実現するのか?そのためのシナリオとは?
欧州の専門家の中には、ウクライナ戦争が今後10年間継続すると予測する声も多い。ロシアが敗北を認めない限り、相手への徹底的なダメージを与える長期消耗戦が続く可能性を指摘する見方だ。
ロシアが停戦に応じる三つの「希望的観測」が考えられる。①国内経済の悪化と人的被害増大による厭戦ムードの高まり、②トランプ大統領という強力な触媒の登場、③獲得した領土を「戦果」として国内にアピールすることである。
停戦における最大の難問は領土問題と安全保障の確保にある。領土については「凍結された紛争」として領有権をウクライナに残しつつロシアの実効支配を黙認、安全保障には多国籍監視軍の駐留といった妥協案が提示されている。

トランプ大統領がウクライナ戦争の停戦交渉の鍵を握る可能性が高い。その予測不能性と交渉における突破力が、膠着した戦況を動かす決定的な変数となる。水面下では既に複数の交渉ルートが模索されている模様である。
Q. 第三次世界大戦を防ぐために、現代の国際社会に最も求められることは何か?
現代の国際危機は、各国が自らの「正義」に固執し、他国の歴史観や論理、感情に対する「鈍感さ」から生じている。相互理解の欠如と対話チャンネルの劣化が破滅的な結果を招く危険がある。
平和は自然発生するものではなく、E.H.カーが指摘したように「人間の手による意識的な努力」によって築かれる。各自が利己的に行動すれば調和が生まれるというユートピア的思考を捨て去る必要があるのだ。
指導者が正しい判断を下すには、多様な情報や外部の知見に触れることが不可欠だ。しかし、プーチンやトランプのような指導者体制では情報が遮断されがちで、客観的な情勢認識が阻害される構造的な問題がある。
経済力や軍事力が衰退しても、国家の「プライド」は最後まで残る感情的な要素だ。このプライドを理解し、相手の立場に配慮することで、不要な衝突を避け、関係調整の余地を生み出すことができる。