政策超分析
中国”浸透工作”の手口/台湾選挙を揺るがす世論操作/高市政権で日本にスパイ機関誕生か
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2026年2月19日

「政策超分析」では、専門家が政策や国際情勢を徹底解説。今回のテーマは「インテリジェンス」。後編は中国の浸透工作の実態。 <出演者> 峯村健司|キヤノングローバル戦略研究所 上席研究員 元朝日新聞編集委員。中国に関する報道により2010年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞 小谷賢|日本大学危機管理学...
中国”浸透工作”の手口/高市政権で日本にスパイ機関誕生か
国家間の覇権争いが激化する現代において、サイバー空間と情報空間は新たな戦場と化している。AIの飛躍的進化は、その攻撃手法と影響範囲を格段に拡大させ、見えない脅威として各国に忍び寄る。特に日本は、その防衛体制と国民の認識の両面で喫緊の課題に直面している。
本稿では、中国やロシアが展開するサイバー攻撃や情報操作の具体的な手口を解き明かし、日本が抱える課題と、今後進むべきインテリジェンス強化の方向性について探求する。

Q. AIの進化はサイバー攻撃と情報操作をどのように変えているか?
AIの進化は、サイバー攻撃や情報操作の手法を劇的に高度化させている。かつて日本のセキュリティを保護する障壁であった「日本語の壁」は、今や高性能AIによって完全に崩壊した。これにより、不自然さのない完璧な日本語を用いたフィッシング詐欺メールや偽情報が出回り、誰が発信したのか、その内容が本物か偽物かを見極めることは極めて困難になった。

攻撃側はAIを用いて膨大なデータを分析し、ターゲット個人の関心や行動パターンに基づいたパーソナライズされたメッセージを作成する。これは従来の不特定多数に向けた画一的な攻撃とは一線を画し、成功率を飛躍的に高めている。AIが偽情報を自動生成し、SNS上で拡散する「メリーオレーター」のようなツールも存在し、世論形成が自動化・高速化されているのが現状だ。
Q. 中国のサイバー攻撃の実態と、日本への具体的な脅威は何か?
中国は、サイバー空間に3万人もの専門部隊を投入していると指摘されており、AIの進化と相まって日本へのサイバー攻撃が今後一層増加すると見られる。その拠点は、通常の専門学校に偽装され、卒業したての若い人材が実戦経験を積む場となっている事例も確認されている。Googleへのサイバー攻撃も、そうした場所から発信されたことが分かっている。

攻撃の目的は、単なる情報窃取から電力網などの重要インフラの破壊へとフェーズが移行した。これは、有事の際に国家機能を麻痺させ、国民の抵抗意欲を喪失させることで、「無血開城」を狙う戦略である。台湾では1日平均263万回ものサイバー攻撃を受けており、日本も年間600万回から700万回の攻撃に晒されている。特に注意すべきは、大手企業のインフラやサプライチェーンといった民間の脆弱な部分が「踏み台」として悪用され、そこからより重要なターゲットへと攻撃が波及する「踏み台攻撃」の増加だ。
Q. 情報操作は具体的にどのような手口で行われているのか?
中国やロシアは、民主主義国家では民意を操作すれば政治家も追従すると考え、多角的な情報操作を展開している。例えば、中国はTikTokを海外向け影響力工作の強力なツールとして活用している。台湾の選挙では、親中派インフルエンサーへの「投げ銭」や動画の再生回数操作を通じて若年層の世論が誘導され、選挙結果に大きな影響を与えたと分析されている。
また、「五毛党」と呼ばれる雇われネットユーザーやAIボットを使い、SNSや動画コメント欄で特定の意見を大量に書き込み、世論を形成しようと試みる。巧妙なのは、中国政府系の英字新聞に匿名情報源の話として「観測気球」のような情報を流し、それを海外メディアに転載させることで、信憑性を装う手口だ。これにより、政府発表ではないため後から否定も可能であり、情報戦における都合の良い言説を国内外に浸透させている。
Q. 日本のサイバー・情報防衛体制が抱える課題とは?
日本のサイバー防衛体制は、人員と待遇の両面で深刻な課題を抱えている。自衛隊のサイバー要員は目標の4,000人に対し約2,000人しか確保できておらず、中国の3万人という規模とは比較にならない。さらに、防衛省が提示する事務次官級(年収2,500万円)の給与は、世界のサイバーセキュリティ人材市場では決して高額とは言えず、優秀な人材の獲得が難しいどころか、海外への流出も起きている。
情報収集と分析を担う内閣情報調査室(内調)も、法的権限が弱く、各省庁からの情報提供を強制できないため、組織間の縦割りが解消されず機能不全に陥っている。総理や官房長官のもとには各省庁から未整理の大量情報が届けられ、重要情報が埋もれる状態となっている。根本原因には、歴代総理の多くがインテリジェンスに関心が薄く、情報に基づく政策決定が不十分だった点も挙げられる。
Q. 個人が偽情報やプロパガンダを見抜くために必要なリテラシーは何か?
情報洪水の中で偽情報に惑わされないためには、強固な情報リテラシーが不可欠だ。「基本的に全て嘘かもしれない」という前提に立ち、情報の受け手自らが能動的に精査する姿勢を持つべきである。NHKや大手新聞など、一見信頼性の高い情報源であっても、特定のバイアスや立場が存在する可能性があることを理解しなければならない。
具体的には、一つの情報源に依存せず、最低でも三つの異なる立場からの情報源で「クロスチェック」することが推奨される。加えて、その情報の発信者が「誰なのか」「どのような意図を持って発信しているのか」という背景を調べることも重要だ。ロシアのように8〜9割の真実の中に1〜2割の嘘を巧妙に混ぜ込むプロパガンダは、見抜くのが極めて難しく、常に冷静な判断が求められる。情報の「属性」を分析する訓練が、現代社会では自己防衛のために不可欠と言える。
Q. 日本における新たな「国家情報局」の設置は、インテリジェンス体制をどのように変革するか?
日本政府は2026年度中の国家情報局設置を目指しており、これは既存の内閣情報調査室(内調)を格上げし、情報収集・分析機能の司令塔と位置付ける試みである。内調が抱えていた情報収集・提供の法的権限の弱さを改善し、各省庁からの情報を一元的に集約・分析できる体制を築く狙いがある。これにより、縦割りを打破し、より精度の高い情報をタイムリーに政策決定者に届けられるようになることが期待されている。

外交・安全保障分野で司令塔機能を持つ国家安全保障局(NSS)の成功がそのモデルとされている。NSSは法的根拠に基づき各省庁に情報提供を求める権限を持つことで、効率的な情報共有と分析を実現している。国家情報局も同様の権限を持つことで、未整理情報の山積状態を解消し、国家としての意思決定の質を高めることができるだろう。
Q. 日本がインテリジェンス分野で強みを発揮し、未来を切り開くには何が必要か?
日本は、スパイによる人的情報収集(ヒューミント)は弱いが、独自の偵察衛星の開発・運用能力や通信傍受技術など、世界有数の「技術情報(テクニカル・インテリジェンス)」能力を保持している。この強みを最大限に活用し、サイバーセキュリティ人材の育成と待遇改善、専門的な教育機関の設置を急ぐべきだ。数千人規模の専門家育成が急務となる。
また、第二次世界大戦時の「インテリジェンス敗戦」の教訓を忘れてはならない。当時の日本は現場の優れた情報収集能力があったにも関わらず、指導層がそれを軽視し、政策に反映させなかった。現代の課題は、インテリジェンスを単なる専門技術ではなく、軍事力や経済力と並ぶ重要な「国力」として認識し、政治指導者自身が関心と理解を深め、活用を主導することにある。日本には高いインテリジェンス能力の素地があることを信じ、国家として意識改革と投資を行うことが、安全保障の未来を左右する鍵となるだろう。