
2026米経済予測:物価高と日米中関係
2026年米国経済の行方:物価高騰とトランプ関税、そして米中「蜜月」時代の到来を予測する
2025年、トランプ関税に揺れた世界経済は、まさかの力強い成長を遂げた。しかしその裏側では、AIブームや牛肉価格高騰などによる根深い物価高が中間選挙の争点として浮上している。さらに、かつての「米中対立」が「蜜月」へと転じる可能性も指摘されるなど、2026年の米国経済は多くの変化に直面すると予測される。ワシントンウォッチャーである丸紅経済研究所社長の今村卓氏が、激動する世界情勢と日本への影響を詳細に分析する。

Q. 2025年、米国経済は当初の懸念に反してどのような成長を遂げたのか?
2025年初頭、トランプ関税の発動により世界経済の後退が懸念された。しかし蓋を開けてみれば、米国経済は年間2%台半ばという力強い成長を達成し、株価も史上最高値を更新するなど、市場の予測を覆す展開を見せた。この想定外の好景気は、パンデミック後の経済回復や、企業の高い収益性、堅調な雇用状況など複合的な要因が重なった結果だと考えられる。
Q. 2026年の中間選挙で、トランプ政権を悩ませる最大の争点とは何か?
2026年の中間選挙における最大の争点は、「アフォーダビリティ(手頃な価格)」問題だ。平均経済成長率やインフレ率といったマクロ経済指標が良好にもかかわらず、生活費の高騰は中間層以下の家計を直撃している。特に日々の暮らしに欠かせない食料品やサービスの価格高騰は深刻であり、国民の間で政権に対する不満が募っている。この「良いはずなのに良くない」という認識が、共和党の苦戦に繋がり、選挙の行方を左右する可能性が高い。

Q. 米国の物価高騰が止まらない背景には、どのような複合的な要因があるのか?
米国の物価高騰は単一の要因ではなく、複合的な問題が絡み合っている。まず、足元で顕著なのがAIブームに伴う電力需要の急増だ。データセンターの稼働に必要な電力が急増した結果、一般家庭の電気料金も高騰している。AIの恩恵を直接感じにくい層が、高額な電気料金を支払わされることへの不満は根深い。

次に、食料品価格の高騰も無視できない。これは一部トランプ関税の影響も指摘されるが、特に牛肉価格の上昇は深刻な国民的課題である。2022年頃の干ばつにより牛の飼育頭数が激減したため、供給が大幅に減少した。牛の肥育には数年を要するため、価格回復には時間がかかる。これに対し、政府が速やかに実行できる政策的解決策は見当たらず、現状では打つ手が限られているのが実情だ。牛肉が日本における米に相当する主要な食料であるアメリカ国民にとって、この価格高騰は深刻な生活苦を招いている。
Q. トランプ政権の「伝家の宝刀」であった関税政策は、今後どうなっていくのか?
トランプ政権が多用した関税政策の法的根拠である国際緊急経済権限法(IIPA)が、現在、最高裁で合憲性が問われている。一審二審では違憲判決が出ており、最高裁でも大統領にそのような広範な権限はないとする保守派判事の意見が優勢だ。もしIIPAが無効と判断されれば、トランプ政権がIIPAを根拠に課してきた関税の多くが撤廃されることになる。
さらに、これまでのIIPAに基づく関税収入の返還問題が浮上する。複数の日本企業を含む関係者が返還を求める訴訟を起こしており、判決次第では多額の返還が生じる可能性がある。こうした混乱を避けるため、2026年は関税を巡る大きな動きは減少するだろう。ただし、日本にとって問題となる自動車関税(232条)のような分野別の関税は法的根拠が確立しているため、継続される見込みだ。
Q. かつての「米中対立」は終わりを告げ、「米中蜜月」時代が到来する可能性があるのか?
トランプ政権の対中強硬姿勢は、大きく変化し融和路線へと傾倒している。関税戦争による経済的なダメージに加え、中国が持つレアアースという強力な交渉カードが政権の姿勢転換を促した。中国がレアアースの供給管理を強化したことで、米国の自動車生産や武器兵器製造に支障が出る事態が発生し、米国はディール優先の弱腰姿勢を余儀なくされた。半導体規制の先送りや中国人学生ビザの棚上げなども、この譲歩の表れである。
2026年にはトランプ大統領の訪中に続き、習近平国家主席の訪米も予定されており、APECやG20を含めると両首脳が年間4回も会談する可能性がある。これは前例のない頻度であり、「米中蜜月」とも言える関係性への変化を示唆する。トランプ氏の周辺には対中強硬派の側近が少なく、議会の対中強硬法案も大統領府で滞るといった状況が、政権の対中姿勢が骨抜きになっている現状を物語っている。ただし、中国が更なる譲歩を引き出そうとして要求をエスカレートさせる可能性もあり、蜜月関係が単純に進むわけではないだろう。
Q. 米中関係の変化は、日本の安全保障や経済にどのような影響を及ぼす可能性があるのか?
米中関係の急激な変化は、同盟国である日本にとって新たな試練をもたらす可能性がある。中国は日中関係を米中関係の「おまけ」と見なしており、米国との関係が安定すれば、日本への圧力を強める可能性がある。トランプ政権がディールを優先し、日本の安全保障問題、特に台湾問題への関与を弱める「ジャパン・パッシング」のリスクが高まるだろう。

日本からの対米投資5500億ドルの行方も注目される。これは民間企業が単独で行う投資ではなく、国際協力銀行(JBIC)や貿易保険(NEXI)などの政府系金融機関が関与し、民間だけでは採算が合いにくい大規模プロジェクトが中心になると見られている。例えば、アラスカのエネルギー開発などは、日本の民間企業にとって容易な投資ではない。これらの案件形成には時間がかかり、2026年中に実現するのはわずか数件程度に留まる可能性が高い。米国と中国の関係性の変化は、日本の外交戦略と経済運営において、これまで以上に緻密な対応を求めることになるだろう。
