
黒字リストラ急増中!なぜリストラは止まらないのか?
「リストラが止まらない」根本原因とは?年功序列のジレンマとAI時代の賃金制度改革
なぜ日本ではこれほどリストラが横行するのだろうか?景気が悪くなると実施される従来のイメージとは裏腹に、近年は利益を上げている黒字企業でさえリストラのニュースが絶えない。この現象の背景には、日本特有の「年功序列」という深い構造的問題がある。本記事では、この制度が企業にもたらすインセンティブ、AIの普及が雇用市場に与える影響、そして今後の働き方のあるべき姿を詳細に解説する。

Q. 日本でリストラが止まらない根本原因とは何か?
日本のリストラが止まらない根本原因は、一言で言えば「年功序列型賃金制度」にある。この制度は、社員の年齢や勤続年数に応じて給与が自動的に上昇するという日本型雇用の典型的な特徴だ。年齢が上がれば役職や実績に関わらず給与が上がり、特に大企業では50代の一般社員(ヒラ)でも年収1,000万円以上に達するケースは少なくない。これが企業にとって大きなコスト負担となり、実質的な仕事の価値と支払われる給与との間に大きな乖離が生じているため、企業は常に人件費の高い社員を削減したいインセンティブに駆られているのだ。

Q. 企業はなぜ黒字経営であってもリストラを実施するのか?
かつてのリストラは赤字企業が行う危機対応策という側面が強かったが、近年では黒字企業による「黒字リストラ」が常態化している。その背景には主に二つの理由がある。第一に、人件費削減を通じたコスト構造改革だ。高給社員を減らすことで、企業の利益率を改善し、株主価値を高める狙いがある。第二に、AIやRPA(Robotic Process Automation)など新たな技術革新に対応するため、古い知識体系を持つベテラン層を減らし、新技術に対応できる若手人材への投資を進める目的だ。実際、AIやRPAの習熟度においては、若手が年長者を教える「逆転現象」さえ起きている。若手の初任給を上げたい企業は、年功序列の枠組みを維持すると年長者の給与も連動して上がってしまうため、結果として高コスト層のリストラを余儀なくされるジレンマを抱えているのである。
Q. 日本の年功序列型賃金制度はどのような問題を引き起こしているのか?
年功序列制度は、家族を養う男性が一家の大黒柱だった高度経済成長期の社会構造に合わせて形成されたものであり、現代の社会環境とは著しく乖離している。今日では共働き世帯が主流となり、結婚によって世帯年収は増加するため、年齢だけで給与が上がる合理性は失われた。加えて、この制度には「温情主義」という問題がある。たとえ期待通りの成果を出せなくても、査定で大幅な減給はなく、年数を重ねることで少しずつ昇給する。そして、等級の上限に達しても「かわいそうだから」と昇格を促すことで、年収1,200万円以上の高給ながら仕事に見合わない「働かないおじさん」を生み出す。これらの高コスト社員が社内で与えられる仕事を見つけられなくなり、リストラの対象となる悪循環を引き起こしているのだ。
Q. 企業にとってリストラは経済的にいかに「得策」なのか?

リストラ、特に黒字リストラは企業にとって「麻薬」のような即効性のある収益改善策となり得る。年功序列型賃金制度下では、社員は若い頃に「働き損」をし、後に「もらいすぎ」の状態となる。企業が社員の早期退職を促すことで、この将来の「もらいすぎ」となるはずだった人件費の大部分を削減し、それを丸ごと利益として計上できる。割増退職金として基本給の30ヶ月分を支払ったとしても、社員一人を1年間雇用し続けるコスト(基本給、賞与、法定福利費、交通費、オフィス費用など)は合計で24〜25ヶ月分にも上るため、わずか1年2ヶ月で支払った割増退職金の元が取れてしまう計算だ。例えば50歳の高給社員を解雇すれば、65歳までの約15年間分の人件費負担が解消され、企業は莫大な利益を得ることができるため、リストラへの依存を深めてしまうのである。
Q. 日本が目指すべき賃金制度のモデルとは何か、欧州から学ぶ点はあるか?
年功序列の負のサイクルを断ち切るためには、現在の急な賃金カーブを見直し、多様な働き方に応じた制度を導入する必要がある。解決策として提案されるのが、緩やかに昇給し、70歳まで長期的に安定して働ける「Cカーブ」だ。給与水準は年収700~800万円で頭打ちになるものの、責任や労働時間も調整可能で、ワークライフバランスを重視する社員に適している。欧州の賃金制度は、若いうちからある程度の給与が支払われ、その後の昇給が日本ほど急激ではない「フラット」なカーブを描く傾向にある。例えば、フランスでは20代後半の平均340万円から50代で640万円と、昇給幅は限定的だ。これは若手を不当に安く使うことなく、かつ年長者を過剰に高く評価しない、より実態に即した賃金構造である。出世を目指すエリートには従来通りの成果主義型(Bカーブ)を提供しつつ、多くの社員には長期安定型のCカーブを用意するといった複線的なキャリアパスを整備することが求められる。
Q. AI技術の進化は、日本の雇用やリストラ問題にどのような影響を与えているのか?
AI技術の急速な進化は、リストラ問題を加速させる一方で、改革の好機をもたらしている。大手企業ではAIやRPAの導入が急速に進み、若手社員のAIスキル習熟度はベテラン社員を凌駕する状況が出現した。これにより、「教える側と教えられる側」の立場が逆転し、若手の生産性が飛躍的に向上。しかし、彼らの給与は年功序列により低く抑えられており、この乖離が「静かなる暴動」となり、抜本的な賃金制度改革を求める圧力が強まっている。シニア社員にとって重要なのは、自身の持つアナログな「暗黙知」を若手のAIスキルと組み合わせることだ。暗黙知をAIによって形式知化・システム化するプロセスに関与することで、シニアは自身の市場価値を再構築できる。AIはもはやExcelやPowerPointと同様に必須のビジネススキルとなりつつあり、これに対応できるかどうかで社員の市場価値は大きく変化するだろう。
Q. 賃金制度改革を実現するために企業や個人に求められることは何か?

賃金制度改革の最大の壁は、企業側というよりも「給与は年齢と共に上がるのが当たり前」という労働者側の根強いマインドセットにある。この固定観念を乗り越えなければ、いかに制度設計を変えようとしても、強力な抵抗にあってしまう。メディアや労働組合も、短期的なリストラ批判に終始せず、年功序列がもたらす構造的問題に目を向け、長期的な視点での議論を深める責任がある。また、若手とシニアが高齢者の人件費という限られたパイを奪い合う構造を解消するためには、企業が全体のパイ、すなわち利益率を向上させることが不可欠だ。日本企業は過剰な新商品開発など無駄な業務が多く、利益率が低い傾向にある。これを欧米水準の20%にまで高めれば、全世代の給与改善と投資に回す余力が生まれるだろう。少子化による労働力不足が深刻化する中で、生産性向上とそれに伴う労働移動を推進することが、賃金制度改革を後押しする鍵となる。企業には制度改革への勇気とリーダーシップが、個人には「上がり続ける給与」という既得権益意識を手放し、自律的なキャリアを形成するマインドセット変革が求められているのである。