PIVOT NEWS
日中関係のこじれと中国経済事情
(1226)
1.0万回視聴
2025年12月2日

日中関係悪化は、棚上げされてきた根深い対立が表面化した必然の結果だと指摘する柯隆氏。実は、国会での「台湾有事」発言の前に行われた首脳会談で、すでに高市総理のタブー発言が習主席を激怒させていたという。さらに、対日制裁にも深く関わる、中国経済の低迷について分析。コロナ後遺症、不動産不況、トランプ関税によ...
長期化する日中関係の悪化と、その背後にある中国経済の「三重苦」
Q. なぜ今、日中関係はここまで悪化したのか?
近年、日中関係の悪化は長期化し、複雑化の一途を辿っている。この状況は単一の偶発的な出来事に起因するものではなく、長年の課題が累積し表面化した必然的な帰結だ。両国は民主主義と社会主義という根本的な価値観の相違を抱えながら、国交正常化以降、この問題を棚上げにしてきた歴史がある。しかし、中国の国力増強とともにその拡張主義的姿勢が鮮明になるにつれ、特に尖閣諸島問題のような領土問題が再燃し、両国間の緊張は避けられないレベルにまで達したと言える。
さらに、歴史認識を巡る問題も状況を複雑にしている。日本は歴代政権が謝罪と反省を繰り返してきたにもかかわらず、中国側は「日本は反省していない」という主張を崩さず、認識の溝は深い。こうした長年の積み重ねが、日本国内の対中感情を悪化させ、政治的な摩擦を増幅させる要因となっている。今回の関係悪化は、これらの根深い問題が、もはや無視できない段階に至ったことを示しているのである。

Q. 高市総理の発言は、今回の関係悪化にどのように影響したのか?
高市総理の対中強硬姿勢は、一部で日中関係悪化の決定打と見られがちだが、真相は異なる。高市総理の発言の根源は、国会答弁よりも先に行われた日中首脳会談にある。この会談に臨む高市総理は、トランプ前大統領の訪日成功による高揚感と、中国側が会談設定をぎりぎりまで引き延ばしたことへの不満が溜まっていたと推測される。感情が高ぶる中、非公開の首脳会談において、高市総理は香港・新疆ウイグルの人権問題という中国にとっての「タブー」に言及してしまった。

この発言に対し習近平主席は激怒し、会談をアレンジした王毅外相は批判を浴びた。その直後、王毅外相の元部下である中国の大阪総領事らがSNS上で過激な暴言を吐いたり、北京での局長級会談で中国側高官が無礼な態度を取ったりといった一連の「援護射撃」とも言える行動が見られた。これらの動きは、高市総理への反発以上に、習主席の怒りを受けた王毅外相を守ろうとする中国外交部内部の事情が色濃く反映された結果と言えよう。多くの主要メディアが日中首脳会談の存在すら報じない中国の状況は、習主席の怒りがどれほど深刻かを示している。このような状況下で、元々溜まっていた両国間の火種が、高市総理の発言を機に一気に燃え上がったと見るのが自然である。
Q. 中国はなぜ大規模な対日経済制裁に踏み切らないのか?
日中関係の政治的な緊張が高まる一方で、中国はこれまでのような大規模な対日経済制裁に踏み切っていない。これは言葉の非難は激しいものの、行動は極めて冷静であることの証左だ。過去に日本に対してレアアースの輸出制限を行った際、日本がその代替供給源を確保したり、リサイクル技術を向上させたりした経緯があり、経済制裁の効果が限定的だと学んだ可能性がある。また、今回は大規模な反日デモも発生せず、日本人ビジネスマンへのビザ免除措置も維持されている点は特筆すべきである。
中国が経済的な報復をためらう最大の理由は、自国経済の深刻な低迷にある。この局面で日本企業に対し厳しい制裁を課せば、多くの日本企業が中国からサプライチェーンを移転させ、すでに低迷する中国経済に決定的な打撃を与えることになるからだ。すなわち、中国は高市政権に発言の撤回を促す政治的圧力をかけつつも、自らの首を締める結果になるような経済制裁は避けたいという思惑が見え隠れする。「政冷経熱」の状態を維持することで、政治的な顔を保ちながらも、経済的な関係はなんとか継続させたいのが本音と言えるだろう。
Q. 中国経済は現在、どのような状況にあるのか?
中国経済の現状は、公式発表されている統計数字以上に厳しい状況にあると言われている。直近の製造業PMI(製造業購買担当者景気指数)は49.2と、景気拡大と縮小の分かれ目となる50を大きく下回る数値を示しているのだ。公式の2025年経済成長率目標は5%だが、実際の成長率は良くても4%、悲観的な見方では2~3%程度に留まる可能性も指摘されており、内需・外需ともに極めて厳しい局面にある。

政府当局もおそらくこの現状を認識しているものの、真の実態を正確に発表できない政治的な事情があると考えられる。つまり、表面的な数字とは裏腹に、中国経済はすでにデフレ状態に突入し、極めて深刻な状態に陥っていると解釈できるのだ。この状況は、経済的な強硬策を打ちづらくする中国政府のジレンマをさらに深めていると言えよう。
Q. 中国経済の低迷が止まらないのはなぜか?その打開策は何か?
中国経済の深刻な低迷は、「コロナ禍の後遺症」「不動産バブルの長期化」「トランプ関税の影響」という「三重苦」によってもたらされている。まず、3年間続いた厳格なゼロコロナ政策による都市封鎖は、中小零細企業の大量倒産を招き、若者の失業率を急騰させた。公式発表の若年層失業率は17%だが、親に扶養される若者や、住民票を持たない出稼ぎ労働者など「隠れ失業者」を含めると、その実態は50%に迫るとの見方もある。これにより、消費者の生活防衛意識が高まり、内需の冷え込みが加速した。
第二に、不動産バブルの崩壊だ。失業者増加による住宅ローン不履行が多発し、差し押さえられた競売物件がアリババのサイトに溢れている。これらの物件は査定額の4割引きでも買い手がつかない有様で、新規の不動産開発はほぼ停止している。不動産関連投資は前年同期比で13.9%ものマイナスを記録し、経済全体を牽引するどころか、マイナス成長の主要因となっている。第三に、トランプ政権による関税戦争は、外資企業の中国離れを加速させた。多くの企業が中国のリスクを避け、インドやベトナムなどの東南アジア諸国に工場を移転。これにより新規投資が激減し、外需が弱体化している。中国政府は需要不足という本質的な課題を見誤り、AIやEVなどの「生産者側」への投資ばかりを優先している。この政策は、供給過剰をさらに悪化させ、需給ギャップを広げるだけであり、日本の「失われた30年」が直面した過ちを繰り返していると言えるだろう。
Q. 今後の日中関係はどのように推移すると予測されるか?
現在の日中関係の悪化は、今後も長期化する見込みである。国際情勢を見ると、米中関係の動向が日中関係に大きな影響を与えるだろう。トランプ大統領が来春訪中を予定していることから、それまでの期間は米中間の「蜜月」が演出される可能性が高く、米国が日本を積極的に擁護することは期待できない。この間、日中関係は膠着状態に陥る可能性が高い。また、日本国内の政権基盤の安定性も重要な要素だ。高市総理の支持率が引き続き高く維持され、もし総選挙で政権がさらに安定すれば、中国は対決姿勢を容易には崩せないだろう。
しかし、一方で光明も見える。「政冷経熱」の状態が維持される可能性だ。中国政府は自国経済への配慮から、日本企業への本格的な締め付けを控える傾向にある。これは経済的な関係が両国間の一種のセーフティネットとなることを示唆している。さらに、中国国民、特に若者層の対日感情は、政府のプロパガンダに反して比較的良好である。インバウンド観光などを通じて「百聞は一見にしかず」で日本の実情を理解する人々が増え、両国間の民間レベルの絆が育まれているのは、長期的な関係改善の希望材料となるだろう。
Q. 日本は現在の状況に対し、どのような外交戦略を取るべきか?
長期化が予測される日中関係に対し、日本が取るべき外交戦略は「勢い」に任せたものではなく、冷静かつ多角的なものであるべきだ。まず、米中関係の動向を正確に見極め、自国の立ち位置を明確にする必要がある。その上で、プランAだけでなく、中国側の反応を想定したプランB、さらにはプランCといった複数の代替シナリオを用意する重層的な戦略を構築しなければならない。

この戦略策定には、官僚や政治家だけにとどまらず、国内外のシンクタンクや戦略家、さらには国際的な専門家を招聘し、強力なチームとして取り組むことが不可欠だ。包括的な知見を結集することで、より厚みのある、安定感に富んだ外交政策を推進できるだろう。複雑な国際情勢の中で、日本が国益を最大化するためには、感情に流されない堅固な外交戦略の確立が今、強く求められているのである。