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2025年11月30日

キャリアアップや昇進を自ら目指さず、必要最低限の業務だけをこなす働き方「静かな退職」 調査によると、20代から50代の正社員のうち、44.5%が自身を「静かな退職」の状態であると認識している。なぜそこまで多くの人に広がっているのか?企業側はどう対応すべきなのか? 今後の働き方の変革についてマイナビ ...
近年、組織において「静かな退職」という働き方が注目を集めている。この言葉は一見、仕事への意欲低下や不真面目さを指すように思えるが、実はその実態は多岐にわたる。全ての「静かな退職」を同列に捉え、画一的な対応を取ることは効果的ではないばかりか、優秀な人材の離反を招く恐れもある。企業がこの新たな潮流とどのように向き合い、持続可能な組織を築いていくべきか。静かな退職の4つのタイプとその背景、そして具体的な対策について考察する。


静かな退職は、その性質から主に4つのタイプに分類できる。すなわち、仕事や環境との「不一致タイプ」(A)、処遇や評価への「不満タイプ」(B)、仕事と私生活をバランスさせる「両立タイプ」(C)、そして仕事に「無関心タイプ」(D)である。この分類は、企業が講じるべき対策を考える上で非常に重要である。
特に不一致タイプと不満タイプは、外発的なきっかけにより仕事満足度が低下している傾向がある。これに対し、両立タイプと無関心タイプは、仕事・私生活双方への満足度が高く、決められた範囲で質の高いパフォーマンスを発揮する傾向が強い。つまり、一方は企業側が改善を促すべき対象であり、もう一方はデメリットが少ないため企業と共生を図るべき対象だと言える。
全ての「静かな退職」を問題視するのではなく、個々のタイプを見極め、適切なアプローチをとる姿勢が企業には求められる。
仕事内容や働く環境が本人と合致しない不一致タイプの要因として、かつての日本型雇用制度が大きく影響している可能性が指摘される。終身雇用や年功序列といった生涯の保証が失われつつある現代において、会社指示による強権的な人事異動や転勤は、従業員にとって受け入れがたいものとなっている。従来の雇用形態が持つ安定が失われる一方で、強い人事権だけが残された結果、仕事への不適合や不満が増大し、静かな退職に繋がっている状況である。
これに対し企業が取りうる施策としては、限定正社員制度(勤務地限定や時間限定)、社内公募制度、そしてジョブ型雇用制度の導入が考えられる。これらの制度は、従業員に働き方や職務内容に対する選択肢を与え、自身のキャリアを主体的に決定できる環境を提供する。しかし、全国展開する大企業などにおいては、配置転換の必要性からこれらの制度の全面的な導入と運用が難しい実情もある。制度の運用が、組織内の新たな軋轢を生むケースも少なくないため、慎重な検討と調整が必要だ。
評価不満タイプは、年功序列型賃金体系が残る日本において、自身のがんばりが適切に評価や処遇に反映されないと感じることから生じる。マイナビの調査によれば、評価への納得感はフィードバックの有無と強い相関関係にある。たとえ評価が期待に届かないものであったとしても、丁寧なフィードバックがあれば一定の納得感が醸成されやすい。組織として抜本的な評価制度改革には時間を要するが、まずは評価面談の質の向上や定期的な対話機会の設置は、今日からでも着手できる有効な施策だと言える。
また、少子高齢化や経済成長の鈍化は、管理職ポストの不足を招き、結果として若年層の昇進機会を奪っている。昇進の道が構造的に閉ざされていると感じる若手は、目標設定のモチベーションを失いがちだ。この閉塞感を打破するには、管理職のポスト競争のみではない、キャリアパスの多様化が不可欠である。例えば、スペシャリストとしての道を整備し、専門性を高めることへの評価や報酬体系を確立することが有効となる。
現代の従業員が重視する価値観は「お金」「出世」「やりがい」「場所」など多岐にわたる。企業がこれらの全てに応えることは不可能だが、多様な価値観が存在することを前提に、従業員が自身の希望に近い働き方を選べるような環境を整えることが、結果的に組織全体のモチベーション向上に繋がるだろう。

静かな退職を抑制し、従業員の仕事満足度を高める上で、「ワークライフインテグレーション」の視点は重要だ。これは従来のワークライフバランスが仕事と私生活の「分離」を重視するのに対し、互いが「統合」され影響を与え合うと捉える考え方である。つまり、私生活の充実が仕事のパフォーマンスや満足度にも好影響をもたらしうるという視点だ。企業は、仕事関連の施策だけでなく、従業員の私生活を支援すること(例:育児・介護支援、フレキシブルな働き方)が、回り回って仕事への意欲向上に繋がる可能性があると認識する必要がある。
従業員との対話を通じて、個人の働き方に関する希望やキャリア観を深く理解することは、効果的なワークライフインテグレーション施策を打ち出す上での出発点となる。
評価や人事異動の理由が不透明な「ブラックボックス」状態は、従業員の不満と不信感を増幅させる。なぜ自分がこの評価なのか、なぜこの異動なのか。その背景にある明確な説明がないことは、「頑張りが正当に評価されていない」「会社に一方的に決定されている」という諦めや不満に繋がり、結果的に静かな退職を促すことになる。
また、「アンコンシャスバイアス」(無意識の偏見)も問題を引き起こす一因となる。「子育て中だから負担の少ない仕事を」「独身だから転勤を受け入れやすいだろう」といった、良かれと思った配慮が無意識の決めつけとなり、本人の意図と異なるキャリアを強いるケースは少なくない。従業員との対話においては、このような決めつけを避け、本人が真にどう働きたいのか、どのようなキャリアを描いているのかを深く掘り下げて理解しようとする姿勢が求められる。透明性の高い情報開示と、バイアスにとらわれない真摯な対話を通じて、従業員の納得感を高める努力が不可欠だ。
OECDのデータが示す通り、日本は過去30年にわたり実質賃金がほとんど伸びていない。他の先進国が着実に賃金を上昇させている中、日本だけがほぼ横ばいの状況にある。物価は上昇するのに賃金が上がらなければ、従業員の「働き損」という感覚は当然増大する。これが仕事へのモチベーション低下や静かな退職に繋がることは明白だ。
企業は、物価上昇に見合った賃金体系の見直し、そして努力に見合う公正な報酬を保証することが求められる。経済的な不安定さは、従業員が自身のキャリアや働き方に対して受動的になる一因ともなるため、賃金の価格転嫁は働きがいの維持において避けて通れない課題だと言える。

企業が静かな退職と向き合う上で最も重要なのは、「静かな退職をしているかどうか」という表面的な行動で判断するのではなく、「仕事と私生活に満足しているか」という本質的な視点に切り替えることだ。もし従業員が双方に満足していれば、その働き方は「働くことに前向きな人材」であり、企業は共生を目指すべき対象である。一方、仕事満足度が低い、不本意な静かな退職には、積極的な対策を講じる必要がある。
そのためにはまず、自社従業員が組織や仕事に何を求めているのか、どのような価値観を持っているのかを正確に把握することが不可欠である。「どんな働き方をしたいか」というアンケートや、キャリアに対する丁寧な対話を通じて、個々人の希望を理解する。その上で、企業はその希望に対して可能な選択肢を提示できる環境を構築するべきだ。透明性を高め、情報公開を徹底することで、従業員は自身の状況を客観的に評価し、納得感を持ってキャリア選択できるようになるだろう。組織と個人のより良い関係は、こうした相互理解と選択の自由から生まれるものだ。