ビジネス虎の巻
発達障害はなぜ増えたのか/ADHD・ASDの困りごとをAIで解決/先延ばしをやめる方法
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2025年11月29日

「ビジネス虎の巻」、今回のテーマは発達障害。後編では大人の発達障害を取り上げる。大人の発達障害を見分けるサインとは?AIを活用したサポート法も紹介。 <ゲスト> 精神科医さわ|精神保健指定医 精神科専門医 公認心理師 「塩釜口こころクリニック」院長。。自身も発達障害を持つ子どもを育てる母親。You...
大人の発達障害「生きづらさ」の正体/ADHD・ASDの困りごとをAIで解決
近年、「大人の発達障害」という言葉を耳にする機会が増え、実際に診断を受ける人が増加傾向にある。かつては社会でうまく立ち回っていた人も、突然「生きづらさ」を感じるようになるのはなぜだろうか。現代社会、特にビジネスシーンで顕在化する発達障害の課題、その背景、そして最新のAI活用を含む具体的な解決策をQ&A形式で深く掘り下げる。

Q. なぜ現代では「大人の発達障害」と診断される人が増えているのか?
この増加の背景には大きく三つの要因が考えられる。一つは認知度の向上である。ここ10年ほどで発達障害への社会の理解が進み、自分に特性があると自覚して受診する大人が増えたためだ。これにより潜在的な当事者が表面化したと言える。

二つ目は「生きるハードル」の上昇である。現代社会や企業では、コミュニケーション能力やマルチタスクといった全方位的なスキルが求められる。かつては専門性のみを追求する「破天荒な天才肌」も許容されたが、今や協調性や段取りの良さなども必須だ。特定の能力に凹凸がある場合、適応が困難になるケースが増えている。
三つ目は遺伝的要因と環境要因が絡む。晩婚化や高齢出産に伴う父親の高齢化が、子の発達障害リスクをわずかに高めるデータもある。また、親が子と向き合う時間が少なくなる「スマホネグレクト」のような養育環境の変化が、子どもの発達の偏りを是正する機会を奪い、結果として大人になってから困難が顕在化することもあるのだ。
Q. 発達障害の人はビジネスでどのような課題を抱えがちか?
職場での最も一般的な課題は、やはりコミュニケーションの困難さだろう。発達障害の特性を持つ人は、相手の言葉の裏を読むのが苦手で、非言語的なサインを読み取ることも難しい。そのため、周囲からは「何度言ったらわかるんだ」と𠮟責されることがあるが、本人としてはなぜ怒られているのか理解できない、という辛い経験をすることが少なくない。
また、完璧主義やこだわりの強さも、ビジネスシーンでは時に足かせとなる。仕事では「8割の完成度で次のステップに進む」効率性が求められる場面が多いが、完璧主義の傾向がある人は10割を目指し、細部にこだわり過ぎて時間を浪費したり、疲弊してパンクしたりすることもあるのだ。
Q. 先延ばし癖や完璧主義は、どのように克服できるのか?
先延ばし癖の主な原因は、脳の疲労である。脳も体の一部であり、糖分を消費するため疲弊する。現代人は脳を酷使している場合が多く、脳が疲れると「めんどくさい」という感情が起こり、タスクを先延ばしにしがちだ。疲労を感じたら5分程度の仮眠をとるなど、積極的に脳を休ませることが重要だ。短時間でも疲労が回復すれば、再び作業に取り組むエネルギーが湧いてくる。

もう一つの先延ばしの原因は「報酬の不明確さ」だ。ドラクエのように「スライムを10匹倒せば銅の剣が買える」と短期的な目標と明確な報酬があれば、モチベーションを維持しやすい。しかし、現実のビジネスでは、報酬が半年後のボーナスのように曖昧で遠いため、やる気を維持しにくい。これを乗り越えるためには、タスクを細分化し、小さな目標達成ごとに具体的なご褒美(夜のラーメンなど)を自らに設定することが有効である。
完璧主義に対しては、「仕事の見える化」と合意形成が重要だ。タスクの全体像とプロセスを可視化し、どこまで行けば「完了」とするかを周囲と事前に明確に合意しておく。これにより、過度なこだわりが抑制され、生産性の低下や本人のパンクを防ぐことができる。
Q. 困難を抱えるビジネスパーソンは、どのように自分を受け入れればよいのか?
人間関係の困難や計画性のなさを、自分の「能力不足」や「性格の問題」だと自らを責めてしまう人は少なくない。しかし、これは多くの場合、生まれ持った脳の特性によるものであると理解することが重要だ。この特性を「欠陥」ではなく「個性」として受け入れることが、心の安定につながる。
生きづらさを感じるのであれば、知能検査などを受け、自身の認知の凹凸(得意なこと、苦手なこと)を客観的に知るのも一つの方法だ。自分の特性を具体的なデータで知ることで「自分のせいではなかったのだ」と腑に落ち、長年自分を責めてきた自己否定のループから抜け出し、初めて自分を許せるきっかけとなる人もいる。
Q. 発達障害の人がうつ病などの二次障害を併発した場合、どう対応すべきか?
発達障害の人が抱えるうつ病は、多くの場合、自身の特性をカバーしようと無理を重ねた結果生じる「二次障害」である。例えば、遅刻を恐れて毎日始発で出勤するような過度な適応は、心身に大きな疲弊をもたらし、うつ病へとつながる可能性がある。
うつ病と発達障害が併発した場合の治療は、どちらか一方を優先するのではなく同時並行で進めることが重要だ。まず、休職による休息や薬物療法でうつの症状を安定させつつ、職場環境の調整やカウンセリングを通じて発達障害の特性に対する対策を講じていく。これはまるで、経営者が複数の事業課題に同時に取り組むようなものだと捉えるべきだろう。
Q. AIは発達障害の人の業務遂行にどう役立つのか?
AIは発達障害の人が苦手とする課題、特に曖昧な指示の具体化や計画立案において非常に強力な味方となる。「いい感じの飲み会を設定しておいて」といった曖昧な指示は、AIに聞けば「和食かイタリアンか?予算は?場所は?」のように要素を具体的に分解し、次に何をすべきかを明確に提示してくれる。
計画性の苦手さやタスク管理の困難さに対しても、AIは有用だ。ADHD傾向で部屋が片付けられない場合、部屋の写真を撮ってAIに「片付け方を命令して」と頼めば、「まず机の上の燃えるゴミを捨てる」といった具体的な手順を指示してくれるため、圧倒されることなく行動を開始できる。また、引っ越し準備や突発的な事故処理のように、複雑で何から手をつければいいか分からない状況でも、AIは必要な手続きのリストを網羅的に作成しうっかりミスや思考の漏れを劇的に減らす効果が期待できる。これにより、本人は大きな安心感を得られるのだ。
しかし、AIは万能ではない。現在のAIは、情報の科学的根拠のレベルや最新性を必ずしも正確に判断できるわけではない。そのため、患者がAIを活用することは奨励しつつも、専門家である医師は、AIの情報が間違っていたり不正確な場合は正しく修正し、補足する「AI前提」での指導が重要となる。AIの情報だけを鵜呑みにせず、専門家との連携を忘れないことが、その恩恵を最大限に引き出す鍵だ。
Q. 発達障害の理解が、ビジネスパーソンに求められる「必須の教養」といえるのはなぜか?
現代社会において、発達障害に関する知識は一部の専門家だけのものではなく、全てのビジネスパーソンにとって必須の教養であると言えるだろう。
「人類皆、発達はユニークである」という視点を持つことが重要であり、発達障害という概念をレッテル貼りに使うのではなく、互いの特性を理解し、尊重し、助け合うためのツールとして活用する社会を目指すべきだ。

精神医学の知識やメンタルケアは、単に病気を治すためだけのものではない。「メンタルトレーニング」として、自身の心を強くし、ビジネスパーソンとしてのパフォーマンスを向上させるための重要なスキルでもあるのだ。心を整え、困難に立ち向かえるメンタルを養うことは、全ての働く人にとって自己成長の礎となり、組織全体の生産性向上にも寄与する。