ビジネス虎の巻
論点思考と戦略思考【高松智史】
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2025年11月24日

コンサルにおける名著の要約と明日から使える虎の巻フレーズを元BCGでベストセラー作家の高松智史氏が伝授。コンサル思考の本質を学ぶ決定版。 <ゲスト> 高松智史|『考えるエンジン講座』代表 2002年一橋大学商学部を卒業後、NTTデータに入社。2005年ボストン コンサルティング グループ(BCG)...
「虎の巻」に学ぶプロの「コンサル思考」質問術
元ボストンコンサルティンググループの高松聡氏が、ビジネスパーソンが成果を出すための「虎の巻」を提示した。
それは単なる知識の羅列ではなく、行動に直結する思考法とその場で役立つ「決めゼリフ」だ。
本稿では、この実践的な「コンサル思考」の全体像である「論点思考」「戦略思考」、そしてその根底を支える「仮説思考」の核心に迫る。
Q. 「ビジネスの虎の巻」とは、具体的にどのようなものでしょうか?
「虎の巻」は、ビジネスの本質を深く理解していなくても、すぐに実践して結果を出すための「ショートカット」である。時間をかけて基礎を学ぶ「ビジネススキルセット」とは異なり、手っ取り早く行動を変え、望む成果を得るための道筋を提示する点が特徴だ。読書によるインプットを行動変容へと繋げるために、明日からの会議で使える「決めゼリフ」まで落とし込んで知識を提供するのが、高松流の虎の巻である。
情報の信頼性を高めるためには、「VS思考」という考え方が重要である。これは、自身が利害関係の外側に立つことを明確にする思考である。高松氏が多くの名著を紹介する際、自身の著書を敢えて並べなかったのは、読者から「売らんがため」と見られることで情報の客観性を損なうのを避けるためだ。これにより、提供される情報の価値が高まり、聞く側に真摯な姿勢が伝わる。
Q. なぜ「問い」から始める「論点思考」が重要なのでしょうか?
あらゆる仕事やプロジェクトの出発点は、正しい「問い(論点)」を立てる「論点思考」にある。多くの人がすぐに「タスク」や「作業」に取りかかりがちだが、これでは目的を見失い、無駄な労力を費やす「犬の道」に陥る危険性がある。真に重要なのは、何に取り組むべきかを明確にする「問い」を立てることだ。安宅和人氏の「イシューから始めよう」などが論点思考の重要性を説く古典として知られる。
ここで言う「問い」は、一般的な「問題(Problem)」と意味合いが異なる。「問題」は課題や障害を指すが、「問い」は純粋な疑問、つまり「何を解決すべきか」「何を知りたいか」といった探究の出発点である。1987年に出版された伝説的名著『問題発見の人間学』は、まさにこの「問い」の重要性を説いた先駆けと言える。AIやツールが「解」を効率的に導き出す現代において、適切な「問い」を立てる能力は人間独自の重要な価値となっている。
Q. 会議や仕事の場で、論点思考をどのように実践すれば良いでしょうか?
会議で議論が白熱し、タスクや具体的な「打ち手」の話題ばかりになった時に有効な「決めゼリフ」がある。それは、「
そもそも作業に入る前に、僕らは何の問いを解こうとしているんだっけ?
」である。この一言は、参加者の思考を本質的な部分へと引き戻し、無駄な作業を未然に防ぐ。例えば、「レビュー数を増やすのか?」「アプリへのコンバージョンを増やすのか?」「売上を上げるのか?」など、目的によってアプローチは大きく変わる。このフレーズを投げかけることで、漠然とした議論に明確な方向性を示すことができる。
論点思考は、他者への指摘だけでなく、自身の仕事の質を高める「自問」としても極めて有効である。上司から特定のタスクを指示された際も、一度立ち止まって「このタスクは、何の問いを解くためなのだろう?」と自問する。この思考プロセスを経ることで、タスクの背景にある真の目的を理解し、作業の精度と品質を格段に向上させられる。上司を説得するためではなく、自分の仕事のクオリティを高めるために、常にこの「問い」を意識すると良いだろう。
Q. 「論点思考」の次に必要な「戦略思考」とはどのような考え方ですか?
適切な「問い(論点)」を立てた後には、その「解」を導くための「戦略思考」が必要となる。戦略思考は、単一の視点に囚われず、物事を多角的に捉え、最も効果的な打ち手を見つけるための思考プロセスを指す。この「問い→解」という順番で学ぶことは、ビジネススキルを体系的に習得する上で不可欠であり、学習の最短ルートとなる。
戦略思考の古典として名高いのが、大前研一氏の著書『企業参謀』である。大前氏は1999年時点で、理容サービスを分析し、顧客が髭剃りなどに求めているものは付帯的であると見抜き、カットのみに特化した1000円カット店(後のQBハウスのようなビジネスモデル)の到来を予言していた。これは、従来の固定観念を打ち破り、顧客の本質的なニーズを見抜く多角的な視点がいかに重要であるかを示す実例である。世に溢れる成功事例から漠然と学ぶのではなく、明確な「問い」と「多角的な視点」を持って古典を読み解くことが、真の戦略思考を育む。
Q. 戦略思考を活かす「決めゼリフ」にはどんなものがあるでしょうか?
会議や議論が行き詰まった時に、新たな風を吹き込む戦略思考の「決めゼリフ」がある。それは、「
ちょっと違う視点で物事を見てみると、どう見えるのかな?
」である。この一言を投げかけることで、参加者の凝り固まった思考をほぐし、固定観念から脱却して新しい発想や解決策を探るきっかけを作ることができる。これは、議論のファシリテーターやリーダーにとって非常に強力な武器となる。例えば「コスト削減、削減」ばかりの議論に対して、「一度、窓を開けて空気を入れてみるように」新しい視点導入を促せるだろう。
また、戦略思考において信頼を勝ち取る強力な質問術として、敢えて「悪い点」や「デメリット」を問う方法がある。例えば不動産購入の際、営業担当者に「この物件の悪い点を二つ教えてください」と質問してみる。相手が自分にとって不利益な情報を正直に開示できる場合、その相手は「本物」である可能性が高い。この質問により、信頼関係が構築されるだけでなく、その後のトークの説得力が増し、本質的な情報も引き出せる。自身の提供する商品やサービスにおいても、「もしこれを否定するなら?」という視点を持つことが、その価値を客観的に見つめ直す戦略となる。
Q. ビジネス書の効果的な読み方はありますか?
ビジネス書を最大限に活かすためには、体系だった学習順序と明確な目的意識を持つことが重要だ。闇雲に読むのではなく、まず「問い(論点思考)」を理解する本から始め、次に「解(戦略思考)」へと進む。これにより、ビジネス書の知識が「どこに収納されるべき能力なのか」を認識できるため、ショートカットが効く効率的な学習が可能となる。
読書のモチベーションを維持し、知識を行動に繋げるには、読書によって得たい具体的な「決めゼリフ」を意識する読書が有効である。例えば、「この会議でこういうコメントを言えるようになりたい」という具体的な目標を持って読むことで、情報に対するアンテナが立ち、インプット効率が向上する。このような目的を持った読書は、知識の羅列に留まらず、自身の「行動」を豊かにする「虎の巻」となる。論点思考と戦略思考という二つの柱を根底で支えるのが「仮説思考」であり、これら全てを学ぶことでプロの「コンサル思考」が養われるのだ。