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【現代のシオニズム】イスラエル情勢に希望はあるか
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2025年11月13日

2023年のハマスの襲撃以来、一貫して報復攻撃を行い続けたイスラエル。なぜ国際的な批判を受け続けても、戦争行為をやめられないのか?イスラエル人を戦争に駆り立てる独自の「世界観」とは?毎日新聞専門編集委員の大治朋子氏に聞いた。 ▼プロフィール 大治朋子|毎日新聞専門編集委員 毎日新聞専門編集委員。サ...
イスラエルの世界観を読み解く「アマレク」「ダビデ」「シオニズム」の行動原理
長期化するイスラエルとパレスチナ間の紛争。その背景には、一般には深く知られていないイスラエル国民独特の行動原理と世界観が存在する。彼らの国家意識や敵対意識は、数千年にわたる歴史や宗教的な物語によって形成されており、現代の紛争における意思決定に色濃く影響を与えている。特に2023年10月7日に起きたハマスの奇襲攻撃以降、これらの物語が呼び起こされ、イスラエル国内の結束や報復の論理がかつてないほど強まっている。本稿では、イスラエル国民の世界観を形作る3つの核となる物語「アマレクを忘れるな」「ダビデ的自己意識」「被害者ナラティブ」を深掘りし、その上でシオニズム思想の変遷や、現状における和平への道筋をQ&A形式で考察する。複雑に絡み合う歴史、宗教、そして現代政治のダイナミクスを理解することは、紛争の本質に迫る重要な第一歩となるだろう。
Q. イスラエルがハマスとの戦闘で「アマレク」に言及したのはどのような背景があるのか?
ユダヤの教典には、約束の地を目指す民が砂漠を旅する中で、病人や弱った人々を襲撃した「アマレク」という悪しき敵が登場する。このアマレクは「倒すべき悪」の象徴であり、「アマレクを忘れず、壊滅せよ」という教えが残されている。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、2023年10月7日のハマスによる奇襲攻撃の直後、「我々はアマレクを忘れない」と演説で繰り返し強調した。これはイスラエル国民の心に深く根ざす宗教的な「ツボ」を刺激し、ハマスを根絶やしにする正当性を確立しようとする意図があったと見られる。国民にとっては「民族の敵」を再確認する「犬笛」として機能し、強い連帯感と戦意を高揚させたことは間違いない。しかし国際社会においては、この発言がガザ市民をも含めた虐殺指令だと解釈され、国際司法裁判所への提訴に繋がる一因ともなった。

Q. イスラエルは軍事大国だが、なぜ自らを弱者と捉え、攻撃的な姿勢を示すのか?
イスラエルの行動原理の根底には、「ダビデとゴリアテ」の物語に見られる「弱者の自己認識」と、「被包囲意識」が存在する。古代、幼い羊飼いダビデが巨人ゴリアテを打ち破る物語は、イスラエルにとって、弱く小さな存在であっても神の正義を宿せば大いなる力に打ち勝てるとの象徴となっている。これは、周辺を多数のアラブの大国に囲まれ、常に脅威に晒されてきたイスラエルの歴史と重なる。彼らは物理的な軍事力を増強する一方で、精神的には今もなお周囲から狙われる「ダビデ」であり続けるという意識を持つ。この「被包囲意識」は、単一の敵対勢力だけでなく、背後にある全てのアラブ諸国を一体の脅威と見なし、「脅威は早期に潰すべき」という国防ドクトリンに繋がる。先制攻撃を正当化する論理の根幹に、この自己認識と不安感が横たわっているのだ。

Q. 歴史的な「被害者意識」は、イスラエルの行動にどう影響しているのか?
ホロコーストを始めとする長年の迫害の歴史を持つユダヤ人は、強い「被害者ナラティブ(物語)」を共有している。この意識は、「自分たちは被害者であるゆえ、何をしても許される」「周囲は被害者に対して口出しできない」という心理状態を生み出すことがある。2023年10月7日のハマスによる攻撃は、まさにこの被害者意識を深く刺激し、国家全体の「タガ」が外れたかのような報復行動に繋がったと指摘されている。テルアビブ大学の名誉教授も、被害者意識が高まることで「過剰な攻撃」さえ過剰とは感じなくなる現象を指摘している。つまり、過去の歴史と今回の攻撃が重なることで、イスラエル国民の間で、自らの行為がいかなる国際社会の批判にも屈しないという強固な自己正当化の論理が構築されたのである。

Q. イスラエルが今回の紛争で強硬姿勢を保ち、周辺国への攻撃を拡大した真の理由は何か?
イスラエルは長年、敵の軍事能力を定期的に削ぎ落とす「草刈り」戦略をとってきたが、ハマスが数年間「大人しく」振る舞った作戦に欺かれ、2023年10月7日の奇襲攻撃を許したことを大きな失敗と捉えている。イスラエルの軍事戦略は「敵の攻撃力=モチベーション×実行能力」という考え方に基づいているが、ハマスのモチベーションを読み誤ったと反省している。この反省から、イスラエルはハマスに対し「草刈り」ではなく「草抜き」の徹底を宣言した。また、同時期にレバノンのヒズボラやイランなど、他の脅威に対しても攻撃を拡大した背景には、10.7の攻撃で揺らいだ「イスラエル不敗神話」を再建し、内外に「イスラエルは健在であり、強力な抑止力を持つ」ことを誇示する狙いがあった。これは、国民の安心感を確保し、指導部の支持を固める国内政治的な意図も含まれていると言えよう。
Q. イスラエルのシオニズム思想はどのように変遷し、それが政治にどのような影響を与えているのか?
シオニズムとは、ユダヤ人のための故郷再建を目指す運動であり、本来は宗教とは一線を画した世俗的なナショナリズムである。建国当初は、社会主義的でリベラルな「労働シオニズム」が主流であり、パレスチナ人との共存も視野に入れる傾向があった。しかし紛争が重なるにつれ、力による平和を主張する右派の「修正シオニズム」が台頭。そして近年では、ユダヤ教の教義と領土拡大主義を結びつける「宗教シオニズム」が影響力を強め、ネタニヤフ現政権も連立により彼らの意見を色濃く反映させている。興味深いのは、かつてシオニズムを「国家は神が作るもの」として否定し、国旗すら燃やす超正統派ユダヤ教徒の若者たちが、経済的インセンティブなどからシオニズム思想を受け入れ始めていることだ。彼らの高い出生率とリベラル層の国外流出は、イスラエル社会全体のさらなる右傾化と拡大主義的な政策を加速させている。この傾向は、社会主義的な共同体「キブツ」に住み、ガザの病人搬送支援をしていた左派リベラルの人々が10.7の攻撃で犠牲になった悲劇によって、さらに拍車がかかり、国内の和平を志向する声は一層弱まっているのが現状だ。
Q. イスラエル・パレスチナ問題において、今後和平への希望はあるのか?

2023年10月7日のハマス攻撃により、イスラエル国民の多くが「パレスチナ国家の承認はハマスへのご褒美」と見なし、和平への道はこれまで以上に遠のいたというのが現実的な見方だ。イスラエル政府はガザ地区の完全占領や併合に対しては、その財政的負担やイラン対策などへの資源分散の必要性から消極的である。しかし、このような状況下でも、一つの希望として注目されるのが「アブラハム合意」である。これは、2020年にトランプ政権の仲介で成立し、アラブ首長国連邦(UAE)やバーレーンなどの穏健なアラブ諸国とイスラエルとの国交正常化を進める合意だ。特に経済大国であるサウジアラビアとの国交正常化はイスラエルの悲願であり、ハマスはイスラエルとサウジアラビアの接近を阻止するために攻撃を仕掛けた可能性も指摘されている。イスラエルは「武器を置いた相手とは和平の機会を探る」という原則を持っており、もしアブラハム合意が再開・拡大されれば、ビジネスを通じて関係改善を図る新たな枠組みが生まれるかもしれない。この動きがパレスチナ住民にも経済的な恩恵をもたらし、和平への数少ない現実的な糸口となることを期待したい。