
飲食店は体験価値を売る時代【堀江貴文】
堀江貴文氏が解き明かす飲食ビジネスの勝機 「体験価値」と「ハイブランド戦略」の極意
新しいコーヒービジネスの立ち上げを目指すアナウンサーが、数多くの飲食事業を手がける堀江貴文氏に相談を求める動画は、現代の飲食業界が直面する課題と新たな可能性を鮮明に描き出している。
ただ「美味しい」ものを提供するだけでは成功が難しい時代において、顧客の心に響くビジネスモデルをいかに構築するか。
本稿では、堀江氏が語る飲食ビジネス成功のための哲学と具体的な戦略をQ&A形式で深掘りする。

Q. 現代の飲食ビジネスにおいて、「美味しい」だけでは不十分だとする理由とは何か?
現代社会において「美味しい」と感じる体験は、もはや普遍的なものとなっている。
空腹時には何を食べても美味しく感じるものであり、味の記憶は時間の経過とともに薄れやすい。
インターネットや動画サイトの普及により、誰もが高度な料理テクニックや情報にアクセスできるようになった結果、高品質な料理を提供するだけでは競合との差別化が困難になったのだ。
堀江氏は、「美味しい」が前提となった現在、顧客に強い印象を残すのは味覚そのものよりも、「記憶に残る体験」であると指摘している。
Q. 顧客の心に残る「体験価値」とは具体的にどのようなものか?
堀江氏が手がけるWAGYUMAFIAの「妄想喫茶」は、体験価値を具現化した好例である。
これは架空の喫茶店という設定のもと、専用ユニフォームを着用したスタッフが、一点もののアーティスト作品である器で提供し、さらには世界的なバリスタチャンピオンが目の前でコーヒーを淹れる。

これらの要素すべてが、通常の飲食体験を超越した特別な「ストーリー」と「演出」を創出しているのだ。
顧客は単に美味しいカレーやコーヒーを味わうだけでなく、この唯一無二の物語世界の一部となることで、五感を通して強く記憶に残る経験を得る。これこそが堀江氏の提唱する「体験価値」の本質といえるだろう。
Q. なぜ飲食ビジネスの立ち上げにおいて「コンセプト」作りが不可欠なのか?
「妄想喫茶」の成功事例からもわかるように、飲食ビジネスにおける「コンセプト」は、顧客をその世界観へと引き込む強力な要素となる。
単なる商品やサービスを提供するのではなく、「ラーメン最遊記」の言葉を借りれば「情報(物語)」を顧客に食べさせ、その上で「楽しませる」ことが求められるのだ。
堀江氏は、別の事例としてラーメン屋「マシノマシ」における猿の家族の「裏設定」を挙げている。

お店には登場しないが、実は父親・母親・息子・娘が存在し、それぞれのストーリーに基づいて牛骨スープのラーメンが誕生したという物語がある。
このように、綿密に作り込まれた設定やキャラクターは、顧客を店舗の「物語世界」の一部にする効果があり、その店舗でしか得られない特別な価値を提供することに繋がる。
Q. 高級ライン(ハイブランド)戦略が飲食事業で成功するための鍵となるのはなぜか?
堀江氏は飲食ビジネスにおいて、まず最高級の「ハイブランド」を構築することの重要性を説く。
最初に富裕層をターゲットとした高価格帯の商品やサービスを展開することで、そのブランドは特別な存在としての憧れを形成する。
航空会社のビジネスモデルを例に取ると、エコノミークラスはほぼ儲からず、ファーストクラスやビジネスクラスが採算を支えている構造である。同様に、WAGYUMAFIAではステーキ用の高級部位が利益の多くを占め、その他の部位を焼肉やカツサンドに転用することで無駄なく活用する。
こうして確立された高いブランドイメージは、後により安価な普及品(例えばWAGYUMAFIAのポテトチップス)を市場に出す際に強力なアドバンテージとなる。
人々は憧れのブランドを手軽な価格で「体験」できることに価値を見出し、熱狂的に購入する傾向があるのだ。
Q. 日本の食文化が世界に誇る強みとは一体何だろうか?
日本の食文化のレベルが非常に高い要因は大きく三つある。
優れた「道具」
日本の包丁の切れ味は世界随一であり、海外の有名シェフが合羽橋を訪れるのも、食材の繊細な調理に欠かせない道具を求めるためである。高品質な道具が料理の質を格段に向上させる。
豊富な「食材」
火山活動が活発な日本列島では、地中のミネラルが海に流れ込むことで、沿岸が世界有数の漁業資源豊かな海域となっている。
その結果、乾物(俵物)などは歴史的に中国への輸出品としても重宝されたほど、高品質な海産物が豊富に手に入るのだ。
Q. 堀江氏が多岐にわたる飲食事業を手掛ける哲学と戦略は何を基盤としているか?
堀江氏は自身が多角的な飲食事業に関わる理由を「暇つぶし」と表現する。
しかし、その背景には徹底した時間管理術がある。
彼は日常的なマネジメントやオペレーションには深く関わらず、事業への投資、重要なキーマンの橋渡し、そしてM&Aの判断といった、自身にしかできない「経営判断」にのみ集中する。
これにより多くの時間を確保し、並行して複数のプロジェクトを進めることを可能にしている。
事業戦略としては、「小麦」を軸とした水平展開を特徴とする。「小麦の奴隷」のようなパン屋に加え、うどん屋、もんじゃ焼き屋、沖縄そば屋などをM&Aでグループに加えることで、小麦の仕入れにおける「バイイングパワー」を高め、コスト競争力を強化しているのだ。
また、日本の食文化の高い「飲食偏差値」を海外に伝えるためには、現地の味覚や文化に合わせて「ダウングレード」(最適化)する必要があると語っている。これによって、日本の高品質な食を世界市場で成功させる戦略的アプローチである。
Q. EC事業を展開する場合でも、顧客とのリアルな接点が重要だとする理由は何か?
オンラインでのEC事業が主流となる現代においても、堀江氏は顧客との「リアルな接点」の重要性を強く訴える。
WAGYUMAFIAの「妄想喫茶」が元々ポップアップイベントとして始まったように、EC事業であっても不定期でオフラインイベントやポップアップストアを開催することは極めて有効である。
直接顧客と対面し、ブランドの世界観を五感で体験してもらう機会を設けることで、オンラインでは伝えきれない魅力や感情を共有できる。これは顧客の記憶に強く残り、ブランドへの愛着や忠誠心を育む上で不可欠な要素となるだろう。

顧客は商品の購入だけでなく、その裏側にあるストーリーや、作り手との交流を通して得られる特別な体験に価値を見出すため、リアルな場はオンラインブランドを強くするための重要な投資と捉えることができる。
