
アーセナルの好調、リバプールの不調
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2025年11月2日
毎月、サッカー界の注目テーマを語り合うマンスリーフットボール。前半では、日本代表、メディア戦略、サッカー協会の今後、海外日本人選手の移籍先、後半は、アーセナルの好調、リバプールの不調を中心に議論する。 <ゲスト> 木崎伸也|スポーツライター 1975年、東京都生まれ。2002年夏にオランダへ移住。...
激動のプレミアリーグ:アーセナルの躍進とリバプールの苦悩から学ぶ現代フットボールの潮流
プレミアリーグでは、アーセナルの安定した好調とリバプールの予測不能な不調が際立っている。この対照的なチーム状況の背後には、監督の戦術手腕だけでなく、補強戦略やチームの組織構造が複雑に絡み合っているのだ。本稿では、彼らの明暗を分けた要因を深く掘り下げ、現代フットボールに共通する新たなトレンドと課題をQ&A形式で考察する。
Q. なぜアーセナルは好調を維持し、リバプールは不調に陥っているのか?
アーセナルはスポーツディレクター(SD)であるエドゥ・ベルタがアルテタ監督の戦術思想と完璧に合致する選手を的確に獲得している。特にMFのスビメンディは即座にチームにフィットし、戦術的な安定をもたらした。アルテタの目指すボール支配と流動性、強固な守備、そしてニコラ・ジョバーンコーチが手掛けるセットプレーといった全てが機能し、連動性を持って好循環を生み出している。

一方リバプールは、スロット新監督の下、進化を目指した結果、歯車が狂ってしまった。指揮官は前体制から残されたMFグラフェンベルフにシンプルなタスクを与えることで一時的に機能させたが、その後自身の理想とする流動的でポジショナルなプレーを深く追求した。これにより選手たちはピッチ上でどこにいるべきか分からなくなり、戦術的な混乱を招いているのだ。
Q. チームの浮沈は監督だけでなく、誰の役割が重要なのか?
現代フットボールにおいて、チームの成績を左右するのは監督の手腕だけではない。スカッドの構築を担うスポーツディレクター(SD)の存在が極めて重要となる。アーセナルの好調は、SDのベルタが監督の戦術と完全に連動した選手獲得を推進している結果だ。彼らは選手個々の技術だけでなく、戦術理解度やチームケミストリーへの適合性を重視し、既存のチームコンセプトに新戦力をシームレスに組み込んでいる。
リバプールはマイケル・エドワーズSDの下でイサクやケルケズといった紙面上は大型補強に見える選手を多く獲得したが、チームとの融合に失敗した。スロット監督は戦術を「進化」させようとしたが、高額な移籍金で獲得された新加入選手と、リバプールの歴史を築いてきた主力選手との間に微妙な距離感が生まれた。この一体感の喪失は、特にプレスの連動性や球際の強度低下に直結しており、監督とSD、そして選手間の複雑な関係がチームに大きな影響を与えていることを示唆している。
Q. ボーンマスが実践する「カオスボール」とはどのような戦術か?
ボーンマスの今季の躍進は、独自の「カオスボール」という戦術によって支えられている。これは、ビルドアップに苦手意識を持つチームがあえてショートパスを放棄し、ロングボールを前線に放り込むことで意図的に混沌を生み出す戦術だ。そしてボールが落ちた地点から即座にゲーゲンプレスやカウンタープレスを仕掛け、ボールを奪い返すことで決定機を作り出す。この方法は、クロップがドルトムント時代に実践した戦術と類似している。

このカオスボールは日本代表にとっても有効な戦略となりうる。例えば、GK鈴木彩艶の世界レベルのキックは、相手DFが単純にはね返すことができない質の高いロングボールを供給できる。これによりセカンドボールの奪取率を高め、敵陣で有利な状況を作り出すことが可能だ。単調なロングボールではなく、正確なキックと即時奪回を組み合わせることで、強豪相手にも得点機会を創出できるだろう。
Q. 現代サッカーにおいてロングスローやGKの重要性が増しているのはなぜか?
ロングスローの流行は、現代サッカーにおける守備戦術の高度化が背景にある。密集したゴール前エリアに直接ボールを投入できるロングスローは、自陣でのボールロストという高いリスクを冒すことなく、効率的に得点機を創出する「ローリスク・ミドルリターン」の戦術なのだ。これは特にトーナメントのような「負けられない戦い」で効果を発揮する。足元の技術に自信がないチームや、試合の勝敗が重要な局面では、有効なオプションとなる。
GKの重要性も高まっている。マンチェスター・ユナイテッドは新加入GKラメスの安定感がチームを好転させた。ラメスは判断ミスが少なく、冷静に相手プレスの方向を読み取り、安全なパスコースを選択できる。リバプールもアリソンの離脱が大きく響き、チームの保険となっていたGKの不在が不調の一因に挙げられる。現代のGKは、セービング能力だけでなく、ゲームメイク能力と安定感が勝敗を左右する重要な要素なのだ。
Q. リバプールの不調は遠藤航選手が起用されない要因と関係があるのか?
スロット監督のリバプールは、遠藤航選手のような堅実な守備的ミッドフィルダーを積極的には起用しない。その背景には、監督の独自の戦術思想がある。彼は、選手が常に動きながらパスをつなぐ流動的なシステムを志向し、仮にパスがずれてもボールを失わない「個のキープ力」を持つ選手を中盤に求めている。フィジカル的に強くボールを保持できるグラフェンベルフがアンカーに起用されるのはそのためであり、守備強度を武器とする遠藤選手とはスタイル的に異なるのだ。

さらに、リバプールの不調はチーム内の融合の失敗にも起因する。クロップが築き上げた「ファミリー感」が失われ、新旧の選手間に距離感が生まれているのだ。高額な移籍金で獲得されたイサクやエキティケといった新加入選手は、守備における献身性が不足しているとの指摘もある。ルイス・ディアスのように、データだけでは測れない守備への意識や闘争心を持っていた選手を失ったことも、チームの連動性を低下させ、不調の悪循環を招く一因となっている。
Q. 日本代表の次期監督にはどのような人物が望ましいのか?
日本サッカー界における次期代表監督の人選には、根深い課題が存在する。JFA内部では、過去のハリルホジッチ監督の件から外国人監督に対して消極的になり、結果として内部昇格や国内での実績を重視する「お友達人事」が横行しやすい。このため、現実的には大岩剛氏のような現役のJFAコーチ陣が就任する可能性が高いと見られる。これはライセンス制度の閉鎖性や自由な競争環境が十分に整備されていないためだ。監督の実力だけでなく、協会内の政治や人脈が人選に影響を与える現状がある。

理想の監督とは、単に試合に勝つだけでなく、モウリーニョやクロップのようにファンを魅了し、サッカーに熱狂を生む「哲学」や「物語性」を持つ人物だろう。森保監督は選手に寄り添いチームをまとめ上げる手腕に長けていたが、戦術面での強固な信念や試合中の修正力には課題が見られた。現代フットボールは戦術が高度化し、相手への対策も極めて重要である。日本代表がさらなる高みを目指すには、自身の明確な戦術軸を持ちつつも、相手に合わせた柔軟な戦術対応と分析能力に優れた指揮官が必要だ。
