
マンスリーフットボール(2025年10月):日本サッカーのメディア戦略を問う
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2025年11月1日
毎月、サッカー界の注目テーマを語り合うマンスリーフットボール。前半では、日本代表、メディア戦略、サッカー協会の今後、海外日本人選手の移籍先、後半は、アーセナルの好調、リバプールの不調を中心に議論する。 <ゲスト> 木崎伸也|スポーツライター 1975年、東京都生まれ。2002年夏にオランダへ移住。...
躍進を遂げた日本代表が直面するW杯の「リアル」:識者が語る、強化の裏側とJFAの課題
前回のワールドカップでドイツとスペインを撃破し、世界に衝撃を与えたサッカー日本代表。しかしその劇的な躍進の裏で、次なる挑戦に向けて見えてきた課題も少なくない。世界からの注目が集まる中、日本代表はいかに進化し、高みを目指すべきなのか。また、それを支える日本サッカー協会(JFA)のガバナンスと、個々の選手たちのキャリア戦略はどうなっているのだろうか。関係者の生の声をもとに、サッカー日本代表が直面するリアルをQ&A形式で深掘りする。

Q. 次のワールドカップで日本代表はどのような課題に直面するのか?
日本代表が前回のワールドカップで歴史的勝利を収めたことにより、次期大会ではこれまでの「アウトサイダー」という立場ではなくなる。相手は日本を「リスペクト」し、徹底的に分析して臨むため、日本の戦術や選手の特長、さらには選手交代の癖まで研究され、弱点を突かれるリスクが格段に高まる。
過去には2014年のブラジルワールドカップで、コートジボワールが日本代表の交代の意図を読み、遠藤保仁投入で守備強度が落ちるタイミングに合わせてドログバを投入し逆転勝利した事例がある。このような戦術的な読み合いにおいて、日本が優位に立つためには、相手の分析を上回る多角的な戦略と対応力が不可欠となる。現状のままでは戦術の固定化が指摘され、相手に「日本対策マニュアル」を与えていると専門家は指摘する。
Q. 日本代表の強みと弱点は何で、いかに引いた相手を崩すのか?
日本代表の最大の強みは、選手たちの高いプレス強度と豊富な運動量だ。前田、堂安、鎌田といった選手たちは、90分間の平均プレス回数で世界トップクラスの数値を示す。しかし、この強みが活かされるのは、相手も攻めてくることでプレスをかけるスペースが生まれる状況に限られる。コスタリカ戦のように、相手が守りを固めて引いてきた場合、日本のプレスは機能せず、攻撃は停滞しがちである。
現在、日本は5-2-3のシステムに固執する傾向が見られ、特にクロスからの攻撃パターンに偏りがちである。しかし、身長の高い選手を多く揃える相手に対して、クロス一辺倒では得点に繋がりづらい。引いた相手を崩すためには、緻密なパスワーク、個の突破、そしてセットプレーのバリエーションを増やすことが急務と言えるだろう。攻撃のキーマンである守田英正が怪我の影響で長期離脱していることは、この課題克服にとって大きな痛手となる。
Q. 森保ジャパンのチーム運営とコーチ陣はどのような役割を担うのか?
森保ジャパンの戦術的意思決定は、監督だけでなく、選手間の力学にも大きく影響を受けている。森田、鎌田、久保などサッカー観が近く、互いにリスペクトし合う選手たちが非公式な意思決定グループを形成し、チームの戦い方を左右している可能性がある。森保監督自身は、戦術家というよりは「マネージャー型」の監督と評価される。ロッカールーム前で選手間の会話やメディア対応を細かく観察するなど、人間関係を重視したチームマネジメントに長けているのだ。

コーチ陣の役割も大きい。ブラジル戦のハーフタイムに長谷部誠コーチがディフェンスラインに具体的な指示を出し、チームの守備が劇的に改善した例はその象徴だ。また、七海コーチの招聘を巡る協会と監督の思惑の違いは、コーチ人事における複雑な背景を示唆する。コーチ陣の意見が統一されず一枚岩でないことは、チームの戦術的柔軟性を損ねる可能性も秘めている。
Q. ブラジル戦の攻防から見えた日本代表の「現在地」とは?
ブラジル戦では、日本代表のリアクションの良さと、それに反する初期プランの課題が浮き彫りになった。後半に斎藤コーチが伊東純也選手に示した戦術ボードの詳細は、ボールサイドではマンツーマンで、逆サイドはゾーン気味に守って1人余らせるという高度な可変システムだった。この修正により、ブラジルの攻撃を効果的に遅らせることが可能となった。コーチ陣によるこの優れた試合中の修正能力は評価すべき点である。
しかし、前半はラインを高めに設定しすぎたため、ブラジルの得意とする裏のスペースを簡単に突かれる形となった。これは、優れた「二次対応」を示したものの、「初期対応」に課題を残すことを意味する。日本代表選手の高い献身性とスタミナは、非効率なプレスに費やされ、徒労に終わる場面も散見された。献身性を連動性の高い組織的守備へ昇華させることが今後の課題と言えるだろう。
Q. 「ワールドカップ優勝」を目標とするのは果たして正解か?監督の言葉の力とメディア戦略のあり方をどう捉えるか?
「ワールドカップ優勝」という目標設定は、選手たちのコミットメントを最大限に引き出すポジティブな側面を持つ。しかし、2014年の本田圭佑選手のように、目標が過度なプレッシャーとなり「自縛の呪い」と化すリスクも存在する。当時の失敗を経験した選手やコーチがいることから、同じ過ちを繰り返すことはないという見方もある。だが、阪神の岡田監督が「優勝」を「アレ」と表現したように、言葉の選び方一つで、重荷が希望へと変わる可能性も指摘される。
森保監督の言葉には、過去のオシムやトルシエ監督のような求心力や議論を巻き起こす力が不足しているとの声がある。問題が起きないように配慮し、当たり障りのない発言に終始するため、良くも悪くも話題になりにくいのだ。現代はSNSなどでファンと直接繋がれる時代であり、メディアの受けを気にする旧来型の「テレビ的」コミュニケーションは時代遅れとされている。ルイス・エンリケのように、ファンに直接語りかける戦略こそ、今、日本代表に必要な発信力ではないだろうか。
Q. 日本サッカー協会の内部はどのような課題を抱えているのか?
日本サッカー協会(JFA)は技術委員長の児童ポルノ閲覧問題という不祥事に直面した際、ガバナンスの課題を露呈した。この一件はANAなどのスポンサー撤退の危機を招くほどの事態に発展したが、宮本恒靖会長はメディア対応を事務方に任せ、自ら矢面に立つことはなかった。協会内部からも、トップリーダーとしての対応の不十分さを指摘する声が上がっている。

また、JFAの会長人事を巡っては、退任した田嶋幸三前会長が地方協会への強い影響力を維持しており、いわゆる「院政」が敷かれているとの見方が根強い。現在の宮本会長も田嶋氏の意向に沿って動いている可能性が指摘され、協会の意思決定構造には不透明な部分が多い。ワールドカップ後の人事においても、森保監督続投に反対した反町氏が事実上更迭されるなど、政治的な動きが見受けられ、協会全体の機能不全に繋がる懸念もある。
Q. 主要選手の移籍動向と覚醒の背景にあるものは何か?
冨安健洋選手は、アーセナルでサイドバックとしての起用が主だった現状に満足せず、センターバックとしてプレーできるクラブへの移籍を模索している。特にセリエAからの関心が高いが、イタリアのメディカルチェックは厳格で、怪我が多い冨安にとってはハードルとなるだろう。一方、久保建英選手は1月での移籍を避け、ワールドカップでの活躍を足がかりに自身の価値を最大限に高め、夏にステップアップを目指す青写真を描く。ブラジル戦に怪我を押して出場したのは、セカンドオピニオンとして日本のメディカルサポートを受けられるメリットも考慮した可能性が高い。

上田綺世選手の覚醒は、単なる偶然ではない。ライバル選手の移籍による出場機会の増加に加え、渡辺剛選手との交流がメンタル面でポジティブな影響を与え、チームへの溶け込みを促した。さらに、ファン・ペルシコーチによるクロスへの入り方や駆け引きに関する集中的な指導が技術的な成長を促し、監督からの信頼という全ての歯車が噛み合った結果だ。ワールドカップ半年前に移籍を決断することは、本田圭佑や大迫勇也のように代表での序列を覆す「賭け」となるが、小川航基選手のような選手にとっては可能性のある選択肢だ。
