
いまはAIバブルか?
AIバブル崩壊の条件と日本の戦略 - 『AIバブルの不都合な真実』著者クロサカタツヤ氏が語る
世界中で過熱するAIへの期待感。もしそれが実態のないものだとしたら—?『AIバブルの不都合な真実』著者のクロサカタツヤ氏は、AI需要を正しく見極めるべきだと話す。AIバブルはいつ弾けるのか?我々はその時、何をすべきか?

Q. AIバブルは本当に存在するのか?
バブルを裏付ける証拠は複数ある。S&P500の時価総額を見れば、マグニフィセントセブン(GAFAM+テスラ+NVIDIA)という7社だけで全体の半分強を占めている。残りの493社で半分以下という歪な状況だ。上位10社だけが成長を支え、残りの490社は2022年から全く成長していない。
さらに、2025年上半期のアメリカのスタートアップ投資の64%がAI関連に集中している。投資家からも「AIを何かしら入れないと投資マネーが来ない」という声が聞こえてくる。

日本でも、山奥にAIデータセンターを「一口いくら」で売るという投資商法まで登場している。これは昭和時代の原野商法によく似ており、バブルの象徴的現象だ。
Q. 日本におけるAIバブルの特徴は?
日本でのAIバブルは形を変えて現れている。世界のAI開発が主に英語と中国語のデータで行われているなか、日本語のデータ量が圧倒的に不足している点が特徴だ。
現在利用されているチャットGPTは、日本語で入力したプロンプトを内部で英語に翻訳し、処理した後に再び日本語に戻すという仕組みになっている。そのため英語で直接入力する方が圧倒的に精度が高くなる。
日本では、この問題に目を付けたスタートアップ企業が「日本語で高精度のAIを作れる」と主張しているが、実際には日本語の教師データが圧倒的に不足している。日本語のデータ量は英語や中国語の何倍、何十倍、何百倍と少なく、データ量の問題が解決されていない。
Q. AIバブルはどのように崩壊するのか?
バブル崩壊のトリガーとして最も分かりやすいのは金融面だ。株価下落が売りを呼び、さらなる下落を招く連鎖的な現象が起きる。
背景には技術的限界、政策変更、社会的信頼の喪失などの要因がある。特にAIの信頼性に関わる問題は重大だ。AIは構造上、嘘をついたり、不確かな情報を提示したりするという課題がある。マシンラーニングの基礎の上に構築されている限り、AIの信頼性には限界がある。
こうした問題がサイバー攻撃やフェイク情報の増加といった現象として表れ、「インターネット空間がひどくなった」という認識が広がることで、AIへの不信感が高まり、バブルが崩壊する可能性がある。
Q. バブル崩壊のタイミングは?
世界的な調査会社ガートナーのハイプサイクル(新技術の成熟度を示す曲線)によれば、生成AIはすでに「過度な期待のピーク期」を過ぎ、「幻滅期」に入りつつある。

これは、ジェットコースターで例えると、上りきって「下が見えた」瞬間に相当する。以前流行したWeb3やメタバースも同様の現象を経験しており、一時期の熱狂の後に急速に関心が薄れていった。
ただし、バブルが崩壊しても全てが消えてなくなるわけではない。過去のドットコムバブル崩壊時にも、Google、Amazon、Cisco等の強い企業は生き残り、むしろその後大きく成長した。弱い企業が淘汰され、強い企業がその残骸を回収してより強くなるのがバブルの特徴だ。
Q. AIの根本的な課題とは?
AIの最大の課題は「万能になれない」点にある。AIは学習したことしか分からず、人間社会の複雑さをすべて理解することは不可能だ。
例えば「ひよこのオスメス判定」のために学習したAIは、その特定のタスクには優れた能力を発揮するが、学習していない「豚の年齢判定」はできない。同様に、人間社会の複雑さをすべて網羅するデータはなく、また多くの人間の経験はデジタル化されていないため、AIに学習させることができない。

AIの推論能力も、結局は学習データの範囲内での近似であり、本質的な創造性には限界がある。この問題を解決するには、より多くのセンサーを物理空間に配置し、デジタル化を進めるとともに、物理法則の理解などAIの能力を高める必要がある。
Q. バブル崩壊に備えてどう対応すべきか?
バブルが弾ける兆候としては、アメリカの長期金利上昇、経済のスタグフレーション傾向などが挙げられる。こうした状況で株価が上昇を続けているのは「おかしい」と認識し、いつでも動ける準備をしておくべきだ。
バブル崩壊後も、AI技術そのものは否定すべきではない。日本が過去の不動産バブル崩壊後に投資を止め、「失われた30年」を招いた経験を教訓にすべきだ。バブルが弾けても、残った価値を活用して新たな経済活動を生み出す姿勢が重要だ。
企業がAIを活用する際には、「めんどくさいけど必ず解ける問題」にフォーカスすべきだ。また、AIを導入する際には内向きな視点(人手不足解消など)ではなく、外向きの視点(マーケットにどんな価値を提供できるか)を持つことが成功の鍵となる。
Q. 生き残るAI企業の特徴は?
生き残る企業は明確なビジネスモデルを持ち、収益化の道筋が立っている企業だ。例えばGoogleはAI関連の収入はまだ少ないが、広告という安定した収益源を持っている。この既存の収益モデルを活かしながらAI技術を発展させている点が強みとなっている。

OpenAIもようやく収益化の方向に進み始め、ユーザー獲得と信頼構築に成功している。一方で、ビジネスモデルがなく、収入源もない状態でAI開発だけに突き進む企業は最も危険な状態にある。
マグニフィセントセブンのような巨大テック企業も全てが安泰というわけではなく、7社のうち1社は脱落する可能性もある。例えばGoogleが生き残る理由は、AndroidやGoogle Mapsを通じて世界中の人々の動きを把握し、その情報を活用してサービスを最適化できる能力にある。このような他社には真似できない強みを持つ企業が生き残るだろう。
