ランキング超分析
電通「働きがいNo.1」の真相追求
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2025年10月23日

気になるテーマのランキングを専門家と共に徹底分析し、世相を読み解く「ランキング超分析」。今回は特別編として働きがいランキングNo.1に初めて輝いた「電通」をピックアップ。前編では、初任給や残業減など社員の働きがいを高める10の施策のうち5つを紹介 <ゲスト> 大澤陽樹 OpenWork社長 htt...
激務の電通が「働きがい」No.1へ劇的変貌を遂げた深層
かつて「激務」「体育会系」のイメージが定着していた大手広告代理店・電通が、社員の口コミに基づく「働きがいのある企業ランキング」で、外資系企業を抑え堂々1位に輝いた。
この劇的な変貌は、どのような改革によってもたらされたのだろうか。旧態依然とした日本企業は本当に変われるのか、そしてその変化は企業文化と業績にどのような影響を与えたのか。本記事では、OpenWorkの膨大なデータと電通のトップ、人事担当役員の言葉をもとに、その変革の深層を忖度なしで解き明かす。

Q. かつての「激務」イメージと現在の「働きがい」No.1に、なぜこれほど大きなギャップが生まれたのか?
OpenWorkの「働きがいのある企業ランキング」は、社員が投稿する8項目の評価と定性的な口コミをもとに集計される。かつて電通はその苛烈な労働環境から、ランキング圏外に沈んでいた時期もあった。しかし、約10年にわたる地道な改革の結果、今では8項目すべてで日本の企業平均を大きく上回り、「火の打ち所がない」と評されるほどバランスの取れた高スコアを記録し、初の1位を獲得したのだ。

このV字回復を可能にした背景には、「残業大幅減」「初任給35万円への引き上げ」「階層フラット化」「女性社員比率の向上と育休推進」「社長による5000人との対話」といった、多岐にわたる施策が存在する。とりわけGoogleの人事責任者を務め、Googleを働きがいランキング1位に導いた経験を持つ谷本美穂氏が電通の人事トップとして招聘されたことは、同社の「変化と進化」への強い意思を示すものであった。
これは単なるイメージ刷新に留まらない。時代の変化に対応するため、企業体質そのものを根本から見直し、実質的な改革を積み重ねてきた結果、社員が感じる「働きがい」が飛躍的に向上したと分析されている。
Q. 「残業大幅減」はどのように実現され、その具体的な施策と効果は何があるか?
電通は「ワークダイエット」と称し、全社を挙げて労働時間改革に乗り出した。これは単に労働時間を減らすだけではなく、一人当たりの総労働時間を20%削減しつつ、業務の棚卸しと再構築を通じて生産性を向上させることを目的とした抜本的な改革であった。
具体的な施策として、請求書発行などの定型業務を専門部署に集約し、AIやRPA(ロボットによる業務自動化)を活用して効率化を推進した。こうした数十項目にも及ぶ業務効率化策により、社員はよりクリエイティブな、付加価値の高い仕事に集中できる時間を確保できるようになった。

また、隠れ残業を撲滅するため、厳格な勤怠管理も導入。22時から翌5時までの深夜勤務は原則禁止とし、社員が入力する勤怠時間とPCのログオン・ログオフ時間を照合し、乖離がある場合は上長が確認することを徹底している。さらに、「リフレッシュホリデー」として年4回の会社全体での公休日を設け、有給取得もチーム単位で促すことで、全社員が休みやすい空気を作り上げた。これらの徹底した管理と仕組みづくりが、電通の労働時間を大幅に削減し、「ホワイトを通り越して透明」とも評される労働環境を実現した背景にある。
Q. 残業削減による収入減の懸念や、「もっと働きたい」社員のモチベーション維持にはどのように対応しているか?
残業が減れば収入が減るのではないかという懸念に対し、電通は明確な仕組みで応えている。基本給に30時間分のみなし残業代を含めることで、ある程度の安定した収入を保証。その時間を超えて働けば追加で支給されるが、30時間以内で効率的に働くことが、時間あたりの収入を増やすことにつながる。加えて、削減された残業代の原資は社員へのボーナスとして還元される仕組みを導入。これにより、社員は長時間労働ではなく、生産性の向上を目指すインセンティブが働くのである。
また、成長意欲の高い若手からは「もっと働きたい」という声も上がるが、会社は深夜労働禁止を厳格に維持。労働時間の減少は、社員がインプットや自己啓発に時間を使う機会を提供し、結果的に長期的な成長を促すための投資であると説明している。休みを「意味のある活動」に充てることで、クリエイティブな発想や質の高いアウトプットに繋がるとの考えが浸透しているのだ。
かつて電通は「ギラギラした」強さを特徴としたが、画一的な価値観や働き方では多様なマーケティング課題に対応できないと判断。変化の時代においては、多様な人材がそれぞれの強みを活かし、自由な発想で働くことこそが新しい強みとなるとし、単なる働きやすさだけでなく、「働きがい」の維持を可能にしている。
Q. 「階層フラット化」とは何か、それは社員の昇進機会や給与水準にどのような影響を与えたか?
電通は、かつての部長→局次長→局長といった多段階の役職構造を大幅に簡素化する「階層フラット化」を実施した。これにより、意思決定のスピードを向上させるとともに、年功序列の慣習を打破し、若手社員に早期から責任あるポストを任せることを可能にした。
現行では管理職層がGM(General Manager)とMD(Managing Director)の2段階に集約され、年次ではなく実力次第で抜擢されるケースが増加。20代後半や30代前半でチームを率いる局長になることも珍しくなく、年上の部下を持つ局長も多く存在する。また、局長のポジションは基本3年の任期制とし、これは「降格」ではなく、サッカーのキャプテンが交代するように「役割が変わる」というポジティブなものとして位置づけられている。これにより、役職が固定化せず、組織全体の流動性と若手の挑戦機会が格段に向上した。
給与水準に関しても、初任給35万円は日本の平均と比較して非常に高い水準にある。みなし残業30時間分を含みつつも、業績連動で4〜5ヶ月分の賞与が支給されるため、1年目の年収でも500万円を超えるケースが多いという。20代の年収が上がるよう制度設計を見直した結果、単に「やりがい」を求めるだけでなく、経済的にも社員をサポートする体制を確立した。電通グループの赤字決算が話題になったが、これはM&Aによるのれんの減損処理が主因であり、実際のキャッシュフローは黒字で日本の事業は好調であるため、社員への高待遇は今後も維持できる見通しである。
Q. 社長自らが5000人の社員と対話する理由とは、どのような社内文化が醸成されているのか?
佐野社長は就任後、全70局の全社員5000人以上と直接対話する「オープントーク」を実践している。ここでは「社長」ではなく「佐野さん」と呼びかけ、忖度なしで意見を交わすことがルール化された。この「対話型組織開発」への転換は、トップダウンでは生まれにくいイノベーションを現場から創出するためであり、役職や上下関係を超えて本音で議論できる心理的安全性の高い文化を育むことを目的としている。役員全員も参加し、「皆さんの意見を聞かせてほしい」と積極的に現場との対話を深めているのだ。

このような取り組みの結果、多様な人材が活躍できる文化が根付いている。新卒採用において性別枠を設けていないにもかかわらず、女性比率は52%に達しており、キャリアを築きやすい環境が整っていることを示している。また、女性の育休からの復職支援はもちろん、男性の育休取得率も100%超、平均取得期間が60日以上と極めて高い。これは、「休まなきゃだめ」という空気が浸透し、チーム全体で互いのワークライフバランスを尊重し支え合う「お互い様」のカルチャーが根付いている証拠である。かつての飲み会文化も「自由参加」となり、健全化が進んでいる。多様な背景を持つ社員が最高のパフォーマンスを発揮できるよう、会社全体で支援する文化が醸成されているのだ。
Q. 電通の変革から、日本の他の企業が学び取るべき教訓は何だろうか?
電通の働き方改革は、「大企業だから変われない」という既成概念を覆す強力な事例である。特に「残業大幅減」は、激務の代名詞とされた電通にできたのなら、他のどんな企業でも変革は可能だという、日本のビジネス界全体への力強いメッセージとなった。
同社が成功したのは、単に表面的な働きやすさの追求に留まらず、労働時間の削減を業務の効率化と再設計に結びつけ、同時に社員の成長支援、給与水準の向上、そして組織構造と文化の抜本的な見直しを包括的に行ったからだ。この多角的なアプローチによって、「働きやすさ」と「働きがい」という両立困難とされる目標を実現している。電通の変革は、現代社会で企業が競争力を維持し、優秀な人材を引きつけるために、大胆かつ戦略的な人事・組織改革が不可欠であることを示唆する重要なモデルケースと言えよう。