PIVOT TALK BUSINESS
【株高不況】インフレ格差と個人ができる防衛策
(1052)
1.2万回視聴
2025年10月9日

「株高不況」という名の深刻な経済現象。 現金を保有することへのリスク? 過去の平成バブルとは何が違うのか? 日銀の利上げがもたらす影響とは? 個人ができる資産防衛のための具体的な戦略について第一生命経済研究所の藤代宏一氏に話を聞いた。 <ゲスト> 藤代宏一 | 第一生命経済研究所 主席エコノミスト...
デフレ脱却後の日本経済:政府・家計・日銀が取るべき戦略と個人の資産防衛

Q. 日本経済がデフレから脱却しインフレが続く現状で、政府が取るべき最適な政策とは何か?
長きにわたるデフレからようやく脱却した日本にとって、政府のインフレ対策は極めて繊細な判断を要する。下手に給付金を配ると、インフレの悪化を招き、逆効果となる可能性が高い。長年のデフレで苦しんだ結果、インフレは決して悪い現象ではない。まずはデフレに逆戻りさせず、このインフレを定着させることが政府の優先課題であると考えるべきだ。インフレ抑制のため歳出削減や増税といった教科書通りの策も存在するが、これはデフレ後の回復期にある日本経済の現状にそぐわない。加えて、国民の声に押される中、「何もしない」という選択肢は政治的に取りにくいのが現実だ。
現在のインフレは食料品とエネルギー価格の高騰が主な要因であり、これらを除いたコア部分はまだ1%台半ばに留まる。この段階で性急なインフレ退治を目指すのは早計であり、もう少し経済の状況を見守るべき時期であろう。政府には、目の前の短期的な批判を乗り越え、デフレ完全脱却と安定したインフレの維持という長期的な視点での政策遂行が求められている。安易なばら撒き政策は、日本経済をさらに厳しい状況へと追い込む可能性がある。
Q. 家計は現在のインフレに対してどのように資産を守るべきか?
インフレが続く時代において、家計の最大の目標は資産価値の防衛と成長である。これまでデフレ環境で安全とされてきた現金預金は、インフレ下では実質的な価値を確実に目減りさせる。インフレに対する常識は「インフレに強い資産に切り替えること」だ。具体的には、株式や不動産が代表的な選択肢となる。これらの資産は物価上昇に合わせて価値が上昇する傾向があり、実質的な購買力を維持する上で極めて有効な手段となる。
個人の金融ポートフォリオを見直し、インフレ耐性のある資産へ適切に組み替えることが急務だ。現状、多くの日本の家計がまだ現金預金に偏っており、マクロ的に見ればインフレに脆弱な状態にある。この現状を直視し、積極的な資産運用への移行を検討することが、インフレ時代を生き抜くための鍵となる。

Q. インフレ下での家計の資産形成を阻む障壁は何であり、どう克服すべきか?
家計がインフレ対応の資産運用に踏み切る上での障壁は、制度的なものではなく、個人の金融リテラシーにある。NISA(少額投資非課税制度)の拡充や株式分割による最低投資単位の引き下げなど、個人が投資を始めやすい環境は整っている。かつては投資信託であれば100円から購入可能であることからも、初期投資額の問題も解消されたと言えよう。
真の課題は、長年のデフレで形成された「現金が最も安全な資産」という強固な認識を改めることだ。アメリカのように現金の価値が目減りすることを肌で感じてきた国とは異なり、日本人はインフレに対する実体験が乏しい。この根強い意識を変革するには、時間と相応のエネルギーが必要となる。
金融教育の推進は喫緊の課題だ。政府や金融機関は、経済構造の変化を国民にわかりやすく伝え、主体的な資産形成を促す責任がある。情報格差がそのまま経済格差に直結しないよう、より広範な層への金融リテラシー向上の取り組みを強化すべきだ。自ら経済情報を能動的に学ぶ層だけでなく、これまで関心のなかった層にも届くような工夫が求められている。
Q. 現在の株高が続いている主な要因は何だと考えられるか?
現在の日本株の高騰を説明する決定的な要因の一つに、「深い実質金利のマイナス」状態がある。実質金利は一般的に名目金利から物価上昇率を差し引いたもので測られるが、現状の日本はこの値が深くマイナスだ。これは投資家にとって資産価格を強力に押し上げる背景となっている。
もう一つの視点として、名目GDP成長率と長期金利を比較する方法がある。フィッシャー式によると長期金利は実質の成長率とインフレ率の和で表される。言い換えれば、名目GDP成長率が長期金利を上回る状況は、緩和的な金融環境を示す。この状態では、企業は低金利で資金を調達でき、その資金を高い成長率の経済の中で投資すれば、採算を厳密に精査せずとも利益を得やすい。過去には、1980年代後半の日本や2000年代半ばのアメリカで、長期金利が名目成長率に対して低すぎたためにバブルを招いた例がある。
現在の日銀は、コロナ禍以降も長期金利の上昇を抑え続ける政策を取っており、結果として日本の長期金利はあまり上がらない状態にある。これこそが深い実質金利のマイナス状態を生み出し、株価を押し上げる大きなメカニズムとなっている。これは経済のデフレ脱却を意図的に支援するための政策の一環であり、単なるバブルとは異なる。
Q. 日本実質賃金は今後どのように推移する見込みか?また、実質金利の動向との関係は?
日本実質賃金の動向は、主に食料品価格に大きく左右される。足元では米価格のピークアウトが見込まれており、少なくとも前年比では下落する方向に向かうだろう。また、天候不順など不測の事態がなければ、来春には実質賃金がプラスに転じる可能性が高い。しかし、プラスへの転換はゼロをわずかに上回る程度にとどまり、本格的な賃金上昇の実感にはまだ時間がかかると考えられる。
実質金利の観点では、日銀の政策判断が鍵となる。現状の日本は「実質金利はまだ深いマイナス状態にある」。もし日銀が実質金利を急激にプラスへ転換させようとすれば、株価の大幅な下落など経済全体への副作用が非常に大きくなる。日銀は経済が過熱状態にないと判断する限り、性急な引き締めは避けるだろう。
実際、日銀は緩やかな政策調整を通じて、実質金利のマイナス幅を少しずつ調整する方針とみられる。2026年に政策金利が仮に1%になったとしても、物価上昇率には及ばず、実質金利は依然としてマイナスのままだろう。名目GDP成長率(3~4%)に長期金利が到達することは、現実的には低いと考えられており、当面は株高に有利な、いくぶん緩和的な金融環境が維持される可能性が高い。日銀のこのスタンスは、急激な経済変動を避けるための合理的な判断と評価できる。

Q. 個人の資産防衛を考慮する際、国内外の投資先をどのように選定すべきか?
個人の資産防衛戦略を立てる際、最も重要なのは「家計の目的と政府の目的は異なる」という大前提を理解することだ。家計の目的は個人の資産を守り、増やし、生活を豊かにすることである一方、政府の目的は円の信認維持や国家全体の経済安定にある。このため、円安を防ぐために国内株に投資すべき、といった「国の都合」に自身の投資を合わせる必要はない。
株価が名目GDP成長率で説明できるという視点に立てば、安定的に名目GDPが伸びる国は魅力的な投資先となる。その点、名目GDPがマイナスになることを想像しにくいアメリカ経済は、引き続き有力な選択肢だ。S&P 500などの米国株に投資が集中することで円安が進む可能性もあるが、それは政府が考えるべき課題である。
NISAなどで外国株投資を禁止すべきという意見もあるが、選択肢は多い方が良い。もし政府が外貨流出を阻止するために個人の投資を制限するような動きに出れば、それは「日本円の信認が揺らいでいる」という危険なシグナルと受け取られかねない。個人は、国内外のあらゆる選択肢から、自身の資産目標に最適なポートフォリオを、自己責任で選択すべきである。グローバルな視点を持つことが、変化の時代における賢い資産形成の要となるだろう。