
真の保守とは何か?:林芳正×先崎彰容
自民党総裁選「保守とは何か」林芳正×先崎彰容が語る思想と国家像
Q. 自民党の「保守」とは何を意味するのか?
自民党総裁選という大きな節目を前に、内閣官房長官の林芳正氏と思想史家の先崎彰容氏が「保守」の定義について深い議論を展開した。林氏は「保守とはイデオロギーではなく姿勢であり、秩序の中での進歩」と表現する。

林氏が座右の銘とする「不易流行」という言葉に保守の本質があると言う。「不易」は変わらないもの、守るべきもの。「流行」は変えるべきもの。その切れ目は時代によって変わるという考え方だ。
「会社の設備の保守点検に近いイメージです。金ピカの新しい機械をいじり倒すと壊れることがあります。一方で、定期点検のようにPDCAを回しながら古くなった部分を更新していく。大事なことはこの機械を回し続けることです。全部壊して魔法のようなことを持ってくるのではなく、伝統を尊じながら変えるべきところを具体的に変える。これが保守という態度ではないか」と林氏は説明する。
Q. 70年前と現在で自民党の綱領はどう変化してきたのか?
先崎氏は自民党の綱領の変遷について言及した。1955年の立党時、1970年代の政権転落時などで綱領が更新されてきたが、それぞれの時代背景が色濃く反映されているという。
「1955年当時は共産主義に対する脅威が世界的に強く、日本国内にも入ってきているという危機意識がエッジの立ったものでした。『世界情勢を考え国の現状を顧みる』『静かに祖国の前途を思う』といった高揚感のある言葉や、『国家100年の体系を緻密に画策する』という表現があり、若々しさと緊張感が感じられます」と先崎氏は指摘する。
これに対し、2010年に野党時代に作られた綱領は、民主党政権を意識したもので、国際社会の緊張よりも当時の与党に対する批判が軸になっていたという。

林氏は「冷戦崩壊後、日本が東に着くか西に着くか、西に着くのが保守であり東に着くのが革新だという単純な図式がなくなった時に、次は我が党はどっちに向かっていくのか、保守とは何かという議論をすべきでした」と振り返る。
Q. 現代社会における政治的両極化をどう見るか?
先崎氏は現代社会の分断と過激化について警鐘を鳴らす。「フランシス・フクヤマは『極めて右寄りの民族主義』と『極めて左寄りの性的少数者擁護』という両極端が現代社会に出現していると指摘しています。いよいよそれが日本にも上陸してきた」と分析する。
林氏は「社会全体が砂粒化して権威が壊れていっている」という現状認識を示した。「これは中曽根元総理も同じことを言っていました。昔は社会が『粘土』のようで、ちょっと傾けても転がらなかった。ところが『砂粒』になると、わずかに傾いただけで一気に流れてしまう」と説明する。

先崎氏によれば、このような過激化した世界で「真ん中で綱渡りのように歩むのが保守主義」だという。「中庸であること、秩序を作ることは実は緊張感のある作業です。『普通』を維持することは非常に難しいのです」
Q. 小泉政権の評価はどうあるべきか?
林氏は自身の著書で「小泉政権をトータルで振り返ると、功よりも罪の方が大きかった」と評した過去の見解について問われた。
「当時はサッチャリズムに続く流れの中で、郵政民営化や道路公団民営化など新古典派的な政策が進められました。しかし小泉総理は以前から集団的自衛権の検討や社会保障のための消費税増税の必要性を説いていたにもかかわらず、政権発足時にそれらは棚上げされてしまいました。そして『増税なき財政再建』となった。大きな根源的な問題があまり進まなかったという思いがありました」と林氏は答えた。
さらに「小泉改革で自民党のリーダー育成システムが損なわれた面がある」とも指摘する。従来は重要ポストを経験させて競わせ、国民に見てもらう形でリーダーを育成する仕組みがあったが、小泉政権ではそれが軽視されたという。
Q. 現代の日本が直面する最大の課題は何か?
林氏と先崎氏は共に「社会保障と財政」の問題を最重要課題として挙げた。
「70年前に自民党が掲げた『国民の福祉』が実現し、日本は稀に見るほど良くできた社会保障制度を作りました。しかし今はその財源を巡る話で行き詰まっています。これからの政権は国民が最も嫌うようなことも時に言わなければならない」と先崎氏は指摘する。

林氏も「自民党から民主党へ、そして自民党へと政権交代があった中でも『税と社会保障の一体改革』は継続して取り組まれてきた課題です。低負担低福祉か、中負担中福祉か、高負担高福祉か、選択肢を示してコンセンサスを作っていく努力が不可欠です」と強調した。
Q. 小選挙区制の見直しは必要か?
林氏は小選挙区制の見直しについて積極的な姿勢を示した。
「小選挙区制導入時の議論では、政治に金がかかる問題が解消され、2大政党による政権交代が起き、サービス合戦がなくなると言われました。しかし細川政権は中選挙区時代に誕生しましたし、小選挙区になっても政治と金の問題は全く解消していません」
さらに林氏は宮沢元総理の言葉を引用し「日本は保守が1で革新が1/2という比率。普通にやれば保守が強い。日本は南北戦争を経験したアメリカや労働者階級のあるイギリスと違って分厚い中間層がある。そうであれば中選挙区で有権者と近い関係を築く方が良いのではないか」と問題提起した。

林氏は「小選挙区制の検討は党全体で議論していきたい」と意欲を示した。
Q. リーダーシップと政治の役割とは何か?
締めくくりに、林氏は政治家の役割について竹下登元総理の言葉を引用した。
「保守の自民党の政権は『鶴の恩返し』だと。鶴の恩返しでは鶴が折り物を折る時に自分の羽根を抜いてそれを使う。日本という美しい折り物を作っていくために、代々の指導者は政治生命を削って、羽を抜いて、自らは打ち殺されていく。これには感激しました」
先崎氏は「政治家は時代を診察する医者のようなもの。その薬自体は三択だったりするが、そこに至るプロセスが信じられるからこそ政治を任せられる」と述べた。
過激化した世界の中で中庸を保ち、嫌われても必要なことを実行する。林氏と先崎氏の対談からは、政治における冷静な判断力と歴史的視座の重要性が浮かび上がった。