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宗教右派vsリベラル派。カーク事件と深まる亀裂
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2025年9月23日

アメリカの人口の25%を占めるとも言われる、キリスト教「福音派」。その起源と教えとは何か?チャーリー・カーク殺害とどう関係するのか?そして、なぜトランプを熱狂的に支持するのか?『福音派』の著者である、加藤喜之・立教大学教授に解説してもらった。 <ゲスト> 加藤喜之|立教大学文学部教授 専門は思想史...
福音派とカーク射殺事件から見る米国の分断
宗教保守とリベラルの対立は修復不可能なのか
福音派の若き代弁者チャーリー・カークの射殺事件は、アメリカの政治的・宗教的分断をさらに浮き彫りにした。カークは保守系政治団体「ターニングポイントUSA」の創設者として知られ、若い層に保守思想を広める活動を展開してきた。今回は立教大学文学部教授の加藤喜之氏に、福音派とは何か、カーク射殺事件が持つ意味、そしてトランプ政権と福音派の関係について詳しく聞いた。
Q. チャーリー・カークとはどのような人物だったのですか?
チャーリー・カークは福音派の代表というほどではないが、若い世代として重要な存在だった。彼は18歳でターニングポイントUSAを設立し、900の大学、2000近くの高校に支部を持つ組織に成長させた。カークの人気は、若い層に訴えかけるレトリックにあった。特に論争の場で相手を「論破」するスタイルを確立し、保守思想に傾倒する若者のきっかけを作った。

彼はフェニックスにあるドリームシティチャーチという、アッセンブリーズ・オブ・ゴッドに属するペンテコステ派の教会に所属していた。カーク自身は自らを「クリスチャン」と称し、彼の語る言説や使用するシンボルからも、明確に福音派の流れにあることがわかる。
Q. カークの手法はどのようなものだったのでしょうか?
カークは特徴的なのは「論破」のスタイルだ。彼は周囲に支持者を集め、無神論者や多様な宗教観を持つ人々と3分程度の短い議論を交わし、相手の主張を論破していくというスタイルをとっていた。これは一見「対話」のように見えるが、実際には答えの分かっているゲームのようなもので、きちんとした対話ではなかった。
マガ(Make America Great Again)支援者が周囲で見守る中、リベラルの立場を「やり込める」ことに熱狂するような場を作り出していた。カークは明確な立場を持ち、アメリカが保守に立ち返らなければ社会が終わるという危機感から、戦うような、ミリタントな立場で言説を展開していた。
Q. カーク射殺事件はどのような影響をもたらすと思いますか?
この射殺事件自体は許されることではなく、断罪されるべきことだが、その後の展開に注目すべきだ。トランプやJ.D.バンスなどがこの事件を利用して、左派への批判を強めている。バンスは事件後数日で「チャーリー・カーク賞」の司会を務め、ホワイトハウスから中継するなど、保守の立場を強化し、リベラル側を周縁化する動きを見せている。

この事件をきっかけに、多様な考えを持つ右派連合を再び一つにまとめ上げるという政治戦略が見えてくる。カークはブラック・ライブズ・マターにおけるジョージ・フロイドのような象徴的存在になる可能性があり、主流メディアにおいても保守派に対する批判的な発言が難しくなる傾向が出てきている。
Q. トランプと福音派の関係はどのように発展してきたのでしょうか?
当初、ニューヨークの大富豪で世俗的なイメージが強かったトランプは、福音派の重鎮たちから批判的に見られていた。しかし、ポーラ・ホワイトのようなカリスマ派、ペンテコステ派の牧師を中心に、2000年頃からトランプ支持者が福音派の中に広がっていった。

特に中流階級以下の、経済的に困窮している福音派の人々がトランプに望みを見出し、彼の男性中心性や白人特権のようなものにも憧れを持つようになった。そして予備選などでトランプが勝ち続けると、「トランプしかいない」という考えが広がり、福音派の多くが支持するようになった。
トランプが実際に福音派の願いを政策として実現させていくことで、「トランプならやってくれる」という信頼が生まれ、心からの支持者も増えていった。
Q. トランプ自身の宗教観はどのようなものですか?
トランプが本気で福音派のような信仰体験を持っているかは判断が難しい。幼少期からニューヨークで教会に通い、家族の葬式や結婚式などの重要な節目では必ず教会に行くなど、文化的にはキリスト教の影響を受けている。
しかし、チャーリー・カークのように自分の信仰をレトリックを用いて明言することはあまりない。それでも宗教的シンボルを上手く使い、「トランプ・バイブル」を売り出すなど、「自分はキリスト教を守るために存在している」というメッセージを発信している。これにより福音派からは「本当のクリスチャンで、私たちのために戦い、アメリカの文化を守ろうとしている」と解釈される。
トランプは福音派を大切にしており、選挙時には必ず福音派の団体や会議に参加し、「私たちは同じチームだ」という言説を展開している。2024年の選挙運動中にもカークが所属していたドリームシティチャーチで大きなイベントを開催するなど、福音派への配慮を見せている。
Q. トランプ政権は福音派の願いをどのように実現してきたのですか?
トランプ政権の大きな成果の一つは、保守派の連邦最高裁判事を3人任命し、最高裁の比率を6対3で保守派優位にしたことだ。これにより中絶を連邦レベルで禁止し州に決定権を移行させるなど、福音派が重視してきた政策を実行した。
同性愛の問題や、エルサレムへのアメリカ大使館の移転など、福音派が優先順位を高く置いてきた政策を次々と実現してきた実績がある。そのため福音派は大きな期待を寄せながら、岩盤支持層として揺るぎなくトランプを支持し続けている。
Q. キリスト教ナショナリズムは拡大しているのでしょうか?
キリスト教ナショナリズムは数字の取り方によって異なるが、アメリカでも過半数は超えていない。多く見積もっても4割程度だろう。ただし、次期トランプ政権に就任予定の人物たち—バンス、マルコ・ルビオ、ピート・ヘグセスなど—は強いキリスト教ナショナリズムの傾向を持ち、アメリカは再びキリスト教的信仰に立ち返るべきだという考えを政策に反映させようとしている。
トランプ政権の政策を理解するには、合理主義だけでなく宗教的観点からの分析も必要だ。大衆が求めるものを政策として実現させることを念頭に置いており、政権内部の人々もそれを望んでいる。
レーガン政権や初期のブッシュ政権では、宗教右派が支援しても中道的な政策が取られることが多かったが、徐々に変化し、特に2025年以降のトランプ政権では宗教右派の影響がより顕著になると思われる。
Q. アメリカの宗教保守とリベラルの分断は今後どうなると思いますか?
分断はさらに加熱すると考えられる。これは宗教保守側だけの問題ではなく、リベラル派も過去15年ほどで排他的になってきている。例えば、カークのような論者は現在のリベラルな価値観を持つ一流大学では受け入れられにくくなっている。
1990年代後半から2000年代初頭には、まだ対話の雰囲気があったが、現在は難しくなっている。リベラル側は保守派を教育機関などから排除したい傾向があり、保守派は対話よりも政策実現や論破的言説を通じて相手を打ち負かそうとしている。
インターネット時代では、自分の考えを支持してくれる人だけの声を聞く「エコーチェンバー」が強化され、対話の兆しは見えない。タウンシップミーティングのような場さえ、武器を持ち込まれるなどの危険性から避けられるようになっている。

福音派がもたらした終末論的な対立はリベラリズムの根幹を破壊している。自分の立場を神によって是認された絶対的に正しいものとし、相手側は悪魔の影響下にあるという考えが、対話を不可能にしている。もはや異なる世界観がぶつかり合うだけの状態で、議論を通じて相互理解や歩み寄りを目指すことができなくなっている。
Q. 日本は同様の分断を避けられる可能性はありますか?
日本はアメリカよりは分断回避の可能性は高いが、難しい側面もある。日本でも1960年代以降、とりわけ70〜80年代にかけて宗教保守の勢力が高まってきた。神社を中心とした伝統的価値観、日本人のアイデンティティ、結婚や男女の問題などについて、宗教保守の影響力は強い。
参政党の動きにも見られるように、チャーリー・カークが参政党の集会に来ていたことからもわかるように、浸透的な保守思想を持つ人々の間に密接な関係がある。日本においても反リベラル・文化的保守主義の理論武装や支援団体の形成が進んでいる。
カークのように若者に語りかけ、説得力のある論破ができる人物が現れれば、将来に希望を持ちにくい日本社会の「心の隙間」に入り込む可能性はある。リベラル側も自らを問い直し、対話の姿勢を持つことが重要だ。暴力は排除しつつ、社会の再分配や平等な社会づくりについてきちんと考え、単なるアイデンティティの承認を超えた、リベラルな社会とは何かを再考する必要がある。