
「稼ぐ小国」の戦略。日本への3つのヒント
小国に学ぶ日本の成長戦略のヒント
人口1000万人以下なのに稼ぐ「小国」から日本が学べることとは?

Q. 一人当たりGDPが世界のトップ10に入る国の特徴とは?
世界のトップ10に入る国々を見ると、意外なことに9つの国が人口1000万人以下の小さな国だ。ルクセンブルク、アイルランド、スイス、シンガポール、アイスランド、デンマークなど、日本で言えば九州や四国、北海道程度の国土に、都道府県レベルの人口しかいない国々が並ぶ。これらの国々はどのようにして高い一人当たりGDPを実現しているのだろうか。

Q. これらの「稼ぐ小国」は日本にとってどのような意味があるのか?
京都大学大学院教授の関山健氏は「国土も狭く、人口も限られており、大半の国が資源もないような小さな国々がなぜ世界トップ10の一人当たりGDPを稼ぐ国になっているのかを知りたいと思い、調査結果をまとめた」と語る。一方、青山社中筆頭代表CEOの朝比奈一郎氏は「日本も昔は藩が中心で、ほとんど違う国のような感じだった。各地域が小国として自立していくマインドセットができれば、日本の復活につながる」と指摘する。
Q. 世界のトップ10に入る「稼ぐ小国」の具体例を教えてほしい
ルクセンブルクは、佐賀県や神奈川県ほどの大きさに70万人弱が暮らす国だ。かつては鉄工業中心だったが、現在は金融業や宇宙産業で世界的な存在感を示している。高度なスキルを持つ人材育成と海外からの人材誘致が特徴だ。
アイルランドは北海道より少し小さい面積に530万人が暮らし、一人当たりGDPは10万ドルと日本の2.5倍近い。1980年代まではヨーロッパ最貧国と呼ばれていたが、政治の安定やEU統合を契機に外資を積極的に受け入れ、GAFAなどの情報産業や製薬企業の欧州拠点として大発展した。
スイスは九州よりやや大きい国土に870万人が暮らし、かつては「唯一の輸出品は傭兵」と言われるほど貧しかった。現在は高級時計や製薬など付加価値の高い産業に集中し、人材育成にも力を入れている。

シンガポールは三重県の津市や新潟市ほどの国土に600万人が暮らす都市国家だ。1960年代にマレーシアから独立した当時は「人もいない、国土もない、資源もない、技術もない」状態だったが、現在はアジアトップクラスの一人当たりGDPを誇る。
アイスランドは北海道より少し大きい国土に40万人が暮らし、一人当たりGDPは日本の約2倍。かつては観光業と漁業が中心だったが、水力発電と地熱発電による100%クリーンな電力を武器に、電力消費の多いアルミニウム精錬やデータセンターを誘致して発展している。
デンマークは九州よりやや大きい国土に590万人が暮らし、一人当たりGDPは日本の1.5倍。「資源は人しかいない」という認識のもと、男女平等賃金や教育無償化を通じて人材を最大限に活用している。週平均労働時間37時間、年間5〜6週間の有給休暇という充実したワークライフバランスでありながら高い生産性を実現している。
Q. 「稼ぐ小国」に共通する特徴は何か?
関山氏によれば、共通する特徴は大きく3つある。
1. 成長思考が強い政府の存在:明確な産業戦略を持ち、企業が将来を予見しながら投資できる環境を整えている。
2. 高度な人材育成と生涯を通じたリスキリング:儲からなくなった産業から成長産業へ移行するためのスキル習得を支援する。
3. 海外からの人材・投資の積極的な受け入れ:国内だけでなく海外からも人材や投資を受け入れることで、産業や企業の新陳代謝を促進している。
Q. なぜ日本は経済成長が停滞しているのか?
日本は過去30年間、人口がほとんど増えておらず、今後は急速に減少する局面を迎える。経済成長のためには、人口減少の影響を上回るペースで生産性を向上させる必要がある。
生産性向上のポイントは2つ。1つは企業や産業の新陳代謝、もう1つは高付加価値の競争だ。新陳代謝とは、儲からなくなった企業や産業には退出してもらい、新しく稼げる企業や産業を市場に参入させること。高付加価値の競争とは、安価な製品の大量生産ではなく、先進的で付加価値の高い製品やサービスを提供して高く販売するビジネスモデルを指す。
Q. 「稼ぐ小国」と比較して日本に不足しているものは何か?
関山氏は「日本は国内を守ろうとするあまり、海外から人や投資を積極的に受け入れることに臆病になっている」と指摘する。実際、外国人材の受け入れやGDP比で見た海外からの直接投資受け入れ額では、日本は世界的に見て非常に低い水準にある。
特に海外からの直接投資については、日本は世界194位と北朝鮮よりも下の順位だ。一方、ルクセンブルク、シンガポール、アイルランドなどの「稼ぐ小国」は海外からの投資を積極的に受け入れている。
最近の好例としては、台湾のTSMCが熊本に進出したことによって、熊本で新しい企業やビジネスが生まれ、賃金水準も上昇している事例がある。
Q. 人材育成の面で日本と「稼ぐ小国」の違いは?
OECDのPISA調査(15歳時点の学力調査)では日本は常に上位だが、スイスのビジネススクールIMDによる教育ランキングでは日本は31位と低迷している。
この差は調査内容の違いによる。PISAは15歳時点の基礎学力を測るのに対し、IMDのランキングは政府の教育支出、大学卒業者数、留学生の受け入れ、外国語能力、経済界のニーズと教育内容の一致度なども評価している。
つまり、日本の子どもたちは15歳時点では高いポテンシャルを示すものの、大学教育や社会人になってからの教育で稼げる人材として十分に育てきれていないことを示している。
Q. 日本の地方自治体はどのように「稼ぐ小国」の戦略を取り入れるべきか?
朝比奈氏は「官主導から民主導へのシフトが鍵」と指摘する。政府や自治体が単に旗を振るだけでなく、地域の強みや特色を正確に把握し、民間の活力を引き出す環境づくりが重要だという。

関山氏も「日本はやや大きすぎるので、地方単位で戦略を立てるべき」と提案する。地域ごとの特色を活かした産業育成や、海外のどの国からどのような人材を引き寄せるかといった戦略を地域ごとに考えることが大切だという。
また、リスキリングについても、スイスやデンマークのように職業訓練を充実させることが重要だ。ただし、必ずしもIT技術やプログラミングだけでなく、地域の特性に合わせた専門技術の育成も重要だと朝比奈氏は指摘する。
Q. 日本の復活に向けて必要なことは?
朝比奈氏は「日本は歴史ある国であり、どこに行っても素晴らしい地域資源と人的資源がある。地域の特性を活かした戦略を立て、実行することが重要」と語る。関山氏も「日本の九州や四国、北海道といった地域も、小国と同様の戦略で高い一人当たりGDPを実現できる可能性がある」と指摘している。
一人当たりGDPで世界トップ10に入る小国に学ぶことで、日本経済が再び成長軌道に乗る可能性は十分にあるといえるだろう。
