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いま日本人が知っておきたい フランスの現在地
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2025年9月7日

9月8日、フランス国民議会では内閣の信を問う投票が行われる。分断された議会と政治危機が続くなか、マクロン政権は状況を打開できるのか? 欧州経済のスペシャリスト・田中理氏に、今後のシナリオを聞いた。 田中理|第一生命経済研究所 首席エコノミスト 慶応義塾大学卒。青山学院大学修士(経済学)、米バージニ...
信任投票から見るフランスの政治危機と財政リスク
2025年9月8日、フランス国民議会では内閣の信を問う投票が行われる。分断された議会と政治危機が続くなか、マクロン政権は状況を打開できるのか?第一生命経済研究所・首席エコノミストの田中理氏に、今後のシナリオを聞いた。

Q. フランス政治で行われる「信任投票」とは何ですか?
フランスでは2024年9月8日に大きな政治イベントが行われました。首相が議会に対して信任を問う投票です。これは首相自らが「今の政府をこのまま続けていいですか」と議会に問うもので、フランスの政治の仕組みにおいて重要な意味を持ちます。
ここ数年、フランスでは選挙で与党が議席を減らし、首相の交代も続いています。今回の投票結果次第では日本経済への影響も免れないかもしれません。ユーロが動けば為替、金利、株式、そしてビジネスに跳ね返ることは明らかです。
この投票で全てが決まるわけではありませんが、フランスの政治動向を理解しておかないと、今後のニュースの意味が分からなくなるでしょう。
Q. フランスの政治体制はどのような仕組みになっていますか?
フランスの政治体制は日本人から見ると少し分かりにくいものです。大統領、首相、議会の3つが政治を動かしています。

まず、フランスのリーダーといえばマクロン大統領です。フランスはアメリカのように大統領制を引いていますが、アメリカとは異なり首相も存在します。これは「半大統領制」とも呼ばれます。
基本的に国家のリーダーは大統領ですが、大統領は国政運営は基本的に行いません。内政分野は首相が担当し、軍事と外交については大統領がかなりの権限を持っています。
重要なポイントとしては:
議会は大統領をやめさせることはできないが、首相をやめさせることができる
首相を選ぶのは大統領だが、議会には首相の内閣不信任を提起できる権限がある
議会の信任を得られない首相は辞任しなければならない
大統領は首相の任命権と議会の解散権を持っている
Q. フランスの現在の政治状況はどうなっていますか?
現在のフランス議会は「三つどもえ」の状態です。2023年6月と7月に行われた国民議会(日本の衆議院に相当)選挙の結果、議会は中道、左派、極右の3つに分かれ、どの勢力も過半数を取れていません。
大統領を支持する中道の会派、左派、そして極右がそれぞれ一定の議席を持っていますが、どこも単独過半数には達していないのです。そのため、どの会派から首相を任命しても政権運営が行き詰まる状況になっています。
マクロン大統領としては、極右と左派に政権を任せるのは望ましくないと考え、自らを支持する中道から首相を選んでいます。しかし前回任命した首相はわずか3ヶ月で不信任に追い込まれ、現在の首相も9ヶ月で不信任になりそうな状況です。
この状況を受けて、フランス国内では「新しい首相を大統領が指名するのではなく、議会を解散して改めて総選挙を行い、議会構成を変えるべきだ」という議論が高まっています。
Q. フランスが抱える政治的混乱の根本原因は何ですか?
マクロン大統領は2017年に39歳という若さでフランス史上最年少の大統領に就任しました。彼は「フランスの社会、政治、経済を変えたい」という革命的な姿勢で登場し、既存政党に属さず中道政党を自ら立ち上げました。

フランスは過去何度も構造改革を試みてきましたが、その度に大規模なデモやストライキが起き、改革を断念してきた歴史があります。マクロン大統領はそういった「しがらみのない政治」を作り、改革を断行すると約束して現れたのです。
当初マクロン大統領の支持率は60%以上と高かったのですが、その後急落し、現在は20%台で推移しています。改革を進めるために強引にトップダウンで政策を進めたことが、国民からは「我々の声が届かない大統領」「エリートの傲慢な大統領」と映ってしまったのです。
また、改革の成果が見え始めていた矢先にコロナ禍が発生し、その成果がほとんど吹き飛んでしまいました。このようなマクロン大統領への不満が、彼を支持する政党の議会基盤を損ない、政権運営が行き詰まる事態につながっています。
Q. フランスの財政状況はどうなっていますか?
フランスの財政状況は非常に厳しいものです。過去の構造改革が進まなかったこともあり、歳出を拡大気味の財政運営が続いてきました。
特にコロナ禍とその後のエネルギー危機、物価高騰の時期には、フランスは他のヨーロッパ諸国と比べても国民への支援を手厚く行いました。エネルギー価格の上昇を抑えるために政府が補助金を出すなどの対応をしたため、財政状況はさらに悪化しました。
EUには財政ルールがあり、それを守らないと是正措置として最終的には罰金が科されたり、一部の政策権限を剥奪されたりする可能性があります。フランスは現状のままでは財政赤字がEUの規律に違反すると指摘されており、是正が必要な状況です。
格付け機関も、フランスの格付け見通しを「ネガティブ(引き下げ方向)」と判断しており、さらなる格下げのリスクがあります。すでに金利は上昇しており、かつてはドイツとほぼ同水準だったフランスの国債利回りが、現在ではギリシャと逆転し、イタリアともほぼ変わらない水準になっています。
Q. 極右政党の台頭はどのような状況ですか?
フランスでは極右政党「国民連合」の支持が高まっています。同党は創設者のルペン氏からその娘マリーヌ・ル・ペン氏へ、そして現在はジョルダン・バルデラ氏(29歳)に党首が引き継がれ、党のイメージ刷新を進めています。

かつての極右政党は差別的な発言や極端な主張で知られていましたが、近年は穏健化を進め、国民に寄り添うような政策を打ち出しています。特に若い党首バルデラ氏はSNSでの発信力が強く、TikTokでは220万人以上のフォロワーを持ち、スマートな姿勢で若者からの支持を集めています。
バルデラ氏のSNSでは有権者や支持者と会話し、握手したり写真を撮ったりする姿が頻繁に発信され、「国民のために寄り添ってくれる」「我々の声が届く政治家」というイメージ作りに成功しています。これは「遠い存在で近寄りがたい」と感じられているマクロン大統領とは対照的です。
これまでフランスでは極右大統領に対するアレルギーが強かったのですが、党のイメージ刷新によりその抵抗感は徐々に薄れています。世論調査では、次の大統領選挙で極右候補が決選投票に進出した場合、勝利する可能性も見えてきています。
Q. 今後のフランス政治はどうなると予想されますか?
信任投票の結果、首相が不信任となった場合、主に2つの展開が考えられます。
マクロン大統領が新しい首相を任命する
議会を解散して総選挙を行う
しかし、どちらのシナリオでも問題解決は難しいでしょう。新しい首相を任命しても、現在の議会構成では過半数を得られないため、政治的行き詰まりは続く可能性が高いです。

総選挙を行った場合も、世論調査によれば極右の議席は増えるものの、依然として過半数には届きそうにありません。つまり総選挙を行っても政治危機は解決しない可能性があります。
最終的には、マクロン大統領への辞任要求も高まる可能性があります。大統領が辞任すれば前倒しの大統領選挙が行われることになりますが、フランスの政治状況が大きく変わるためには、議会選挙で極右が勝ち、さらに大統領選挙でも極右が勝つというシナリオが必要になるでしょう。
Q. フランスの政治危機は日本や世界経済にどのような影響を与えますか?
フランスはEUの中でドイツに次ぐ経済大国であり、その政治・財政リスクはユーロ圏全体の危機につながる可能性があります。実際、フランスの財政リスクと政治リスクの高まりに伴い、他のヨーロッパ諸国の国債利回りも上昇し始めています。

金融市場全般の不安定化につながる可能性もあり、内閣不信任案の結果だけでなく、その後の政局展開や財政運営を巡って不安要素が繰り返し浮上する恐れがあります。
仮に極右政権が誕生した場合、完全な反EU政策や反ユーロ政策が採用される可能性は低いものの、金融市場の初期反応としては混乱が予想されます。特に注目すべきは財政政策で、財政再建を進めるのか拡張的な政策を採るのかによって、市場の反応は大きく変わってくるでしょう。
フランスの政治リスクがEUの信頼性に影響を与え、ひいては世界経済の不安定要因となる可能性は否定できません。