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【物価の権威vs永濱】日銀が利上げに慎重すぎる理由
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2025年8月30日

日銀が重視する「基調インフレ」とは何か。そして、多くのエコノミストが陥る「デフレマインド」という呪縛とは。「日銀もエコノミストも間違っている」と語る東大名誉教授の渡辺努氏とエコノミストの永濱利廣氏が、日本経済の未来を徹底討論。 <ゲスト> 渡辺努|物価研究の第一人者 ナウキャスト創業者・取締役 1...
日銀は利上げに慎重すぎるのか?物価研究の第一人者が明かす物価指標の謎と日銀の本音
「日銀はエコノミストも間違っている」―物価研究の第一人者が語る驚きの見解

Q. 日銀の利上げは慎重すぎると思いますか?
物価研究の第一人者である渡辺努氏は「去年の夏以降、米や食料品を中心に価格がどんどん上がってきているので、この局面では日銀の利上げはちょっと遅いと思う」と指摘する。

一方で第一生命経済研究所首席エコノミストの永濱利廣氏は「特に遅すぎとは思わない。日銀は上げたいが上げられない状況だったのではないか」と反論する。
日銀が利上げに踏み切れない本当の理由とは?
Q. なぜ日銀は利上げに踏み切れないのでしょうか?
渡辺氏によれば、その背景には日銀の痛烈な過去の経験がある。「日銀は過去に2回、ゼロ金利からの利上げを試みて2回とも失敗した。これは日銀にとって辛い経験だったので、それを繰り返したくないという気持ちを非常に強く持っている」と説明する。
市場参加者や一般企業の多くはこの歴史的背景を知らないが、日銀にとってはこれが最大の教訓になっているのだ。
「基調的インフレ」の謎を解く
Q. 上田日銀総裁が重視する「基調的インフレ」とは何ですか?
基調的インフレとは、総務省が発表するCPI(消費者物価指数)の生データによるインフレ率とは別の指標だ。渡辺氏はこれをフィギュアスケートの採点に例えて説明する。
「フィギュアスケートでは6〜7人の審査委員がそれぞれ点数をつけ、その後、最高点と最低点を除いて平均値を出す。基調的インフレも同じ発想で、CPIに含まれる約600品目の中から、値上がり率が高すぎるものと低すぎるものを除外して計算する」
このように「外れ値」を除いて中央部分だけを利用して作られるのが基調的インフレだという。
指標の不思議な現象
Q. 基調的インフレ率の計算方法に問題はありませんか?
渡辺氏は刈り込み率(外れ値として除外する割合)が上がるにつれて、基調的インフレ率が下がっていく現象を指摘する。これは統計的に不思議な現象だという。
「左右対称に切っているにもかかわらず平均値が落ちていくのは不思議。通常、綺麗な富士山のような分布であれば、真ん中だけを取り出しても値はあまり変わらないはず」
調査の結果、家賃や理髪料などの価格が動かない品目が除外されずに残り、それらが平均値を下げていることが判明した。つまり日銀は「デフレ時代にも動かなかった品目」に注目し、上がっている品目を無視しているのだという。
私たちの生活実感との乖離
Q. 基調的インフレ率は私たちの生活実感と合っているのでしょうか?
永濱氏は「購入頻度の問題がある」と指摘する。小売物価が3%以上上がっているのは主に食料品だが、これらは毎日購入する一方で金額は大きくない。消費者の実感としては「たくさん買うものの物価上昇」を強く感じるが、CPIは品目ごとの支出ウェイトで合成されるため、そこに差が生まれるという。
渡辺氏は「外れ値として除外されるのはお米やチョコレートなどの食品の高騰分。それらを好む人からすれば『なぜ自分の実感に合わないのか』という不満が生まれる」と説明する。
日銀とマーケットのコミュニケーション問題
Q. 日銀の説明に問題はありますか?
渡辺氏は「基調的インフレという概念が問題含みなのに、日銀がきちんと説明していないのは大きな罪だ」と批判する。マーケット関係者でさえ正確に理解している人は少ないという。
また「実質金利が低すぎるから上げる」という日銀のロジックと、インフレターゲティングの関係性についても説明不足だと指摘する。「金利が低すぎるから上げる」と「インフレが高すぎるから金利を上げる」は完全に同じことではないため、日銀はその説明責任を果たすべきだという。
インフレ予測をめぐる大きな分断
Q. 今後の物価動向をどう見ていますか?
渡辺氏は「日銀もエコノミストも間違っている」と断言する。「日銀とエコノミストは物価が今後下がると予測しているが、食料品などの上がる力は非常に強い。賃金上昇が価格に転嫁される動きも始まっている。物価は多少は下がるかもしれないが、2%を割り込むほどではないだろう」と予測する。

永濱氏は「エコノミストの見方が分かれている」と指摘する。「2026年度については特殊要因もあり2%を切るという見通しが多いが、2027年度については意見が二分している。特殊要因が除かれれば2%近くまで戻るという見方と、引き続き2%を下回るという見方がある」と説明する。
エコノミストの「デフレマインド」
Q. なぜエコノミストは物価が下がると予測するのでしょうか?
渡辺氏は「エコノミストがシステマティックにエラーを犯している」と指摘する。「今月は下がるはずだと思ったのが実際上がっていても、次も下がると言い続けている。どこからそういう思い込みが生まれているのか」と疑問を投げかける。
永濱氏は「エコノミストもデフレマインドから抜け切れていない」と認める。さらに「時系列データをもとに予測するので過去の関係の影響が残る。その影響はある」と説明する。
渡辺氏はさらに「エコノミストは過去のデータを見るが、その過去のデータはデフレ時期のデータ。上がらない要素ばかり見ると、また上がらないだろうと思ってしまう」と分析する。
日本人の根深いデフレマインド
Q. 日本人のデフレマインドはどのように表れていますか?
渡辺氏はお米の価格高騰とその対応を例に挙げる。「お米が5000円まで上がった時、多くの人が2500円に抑えてほしいと言った。政府も価格を下げる努力をした。これはデフレ時代にやったことと同じ。上がったものが出てくると、それを抑えなければならない、どこかでボロ儲けしている人がいるに違いないという『犯人探し』をする」

こうした反応は、長年のデフレを経験した日本人特有の反応だという。
結論:日銀の政策判断と今後の展望
Q. 今後の利上げはどうなりますか?
永濱氏は「見通しが予想通りに進んでも年内に1回は利上げするのではないか」と予測する。特に10月の利上げ可能性を指摘し、その理由として「7-9月期のGDP(国内総生産)がマイナスになる前の方が上げやすい」という点を挙げた。
渡辺氏は利上げのタイミングについて「日銀自身も『いつ』というピンポイントでは決めていない。方向性が決まっていても、それをいつ実行するかは意見が分かれる」と説明。マーケットが求める精緻な予測と日銀の判断基準には大きな乖離があるという。
両氏とも日本経済が大きな転換点にあり、30年続いたデフレからどう脱却するか、そのプロセスで日銀がどのような役割を果たすかが重要だと強調している。