
ラピダスの明暗シナリオ
ラピダスの 2nm 半導体試作成功の意味とは?業界歴 40 年のベテランアナリストが解説する今後の課題
最大 1.72 兆円という巨額の税金が投入されるラピダス。先日、「2nm世代」の半導体試作に成功したというニュースが出ましたが、これは完成ではなく量産に向けた「始まりの一歩」に過ぎません。

ラピダスが目指している「2nm世代」半導体技術とは何か、なぜ日本があえて最先端半導体に再挑戦するのか、そして今後どのような課題があるのか。半導体アナリストでグロスバーグ代表の大山聡氏に聞きました。
Q. 「2nm世代」半導体とはどのようなものですか?
そもそも「2nm」という表現は厳密な物理的サイズを示すものではありません。
半導体プロセスは微細化が進み、単位面積内により多くの機能を詰め込むことで高性能化してきました。かつては実際のトランジスタの幅(ゲート長)を測って「〇〇nm プロセス」と呼んでいましたが、現在は構造が複雑化し、単純な幅ではなく「世代」を表す呼び名となっています。
実際、人間の DNA が 1〜2nm 程度と言われる中で、現代の「2nm世代」半導体は文字通り 2nm の線幅を持つわけではなく、「2nm 世代相当の性能・密度を持つ」という意味です。
Q. トランジスタの構造はどう進化してきたのですか?
トランジスタには大きく分けて 3 種類の構造があります:

プレナー型:従来の平面構造。22nm 世代まではこの構造が使われていました。
FinFET型:微細化が進むと電流漏れなどの問題が発生したため、立体的な「縦長」構造に変わりました。17nm〜5nm 世代で採用されています。
ゲートオールアラウンド(GAA)型:さらに高密度化するため、全方向から電流を制御する複雑な立体構造です。2nm 世代で採用され、ラピダスが試作に成功したのもこの GAA 構造です。
Q. なぜ日本が「2nm世代」半導体に挑戦する必要があるのでしょうか?
現在、最先端半導体製造は台湾の TSMC が圧倒的優位に立っており、インテルやサムスンも苦戦しています。この状況には 3 つの大きな問題があります:
地政学的リスク:TSMC の本社がある台湾は中国との緊張関係にあり、有事の際に供給が途絶えるリスクがあります。
価格支配力:TSMC は独占的地位を利用して価格を引き上げる傾向があり、顧客(NVIDIA、Apple など)は他に選択肢がないため受け入れざるを得ません。
技術的自立:AI や自動運転など、将来の重要技術には最先端半導体が不可欠で、これを特定の国や企業に依存することは安全保障上も問題です。
アメリカはこうした背景から TSMC をアリゾナに誘致し、日本にも新たな半導体企業の育成を強く要請しています。日本はかつて NEC や東芝、日立などが世界の半導体市場をリードしていた経験と、現在も強い装置・材料技術を持っています。
Q. ラピダスの試作成功はどの程度の意義がありますか?
大山氏によれば、ラピダスの試作成功は「バージョン 0.2〜0.3」程度の段階だと評価しています。完成品を「バージョン 1.0」とすると、まだ道のりは長いものの、予定通りのスケジュールで進んでいることは評価すべき点です。
試作段階では、GAA 構造のトランジスタで SRAM(メモリー)が動作することを確認できたにとどまります。量産では「歩留まり」(製造した半導体チップのうち正常に動作する割合)が重要になりますが、そこまでは確認できていません。
Q. 今後のスケジュールはどうなっていますか?
ラピダスの今後のタイムラインは以下の通りです:

2025 年末〜2026 年 Q1:「バージョン 0.5」と呼べる段階に到達予定。この段階で「プロセスデザインキット(PDK)」の提供を開始。これは設計ツールベンダー(ケイデンスやシノプシスなど)とのリンクを可能にするもので、顧客が実際に半導体を設計できる環境を整える重要なステップ。
2026 年後半:「バージョン 0.7〜0.8」の段階。顧客候補(ブロードコムなど)に試作品を提供し始める段階。
2027 年:量産開始予定。「バージョン 1.0」完成。
Q. ラピダスの成功を左右する要因は何ですか?
大山氏は成功を左右する 4 つの関門を挙げています:
プロセスデザインキット(PDK)の完成:2026 年 Q1 までに設計環境を整えられるか。
量産の歩留まり:量産開始時に TSMC の 70% 程度の歩留まりを目指せるか。
顧客の確保:TSMC から顧客を獲得できるか。
量産規模の拡大:十分な生産能力を確保できるか。
特に重要なのは 2 番目の「量産の歩留まり」で、この課題をクリアできれば顧客獲得や資金調達も進む可能性が高いと指摘しています。
Q. 成功の可能性はどのくらいですか?
大山氏は成功確率を「50%」と評価しています。インテルやサムスンも苦戦している技術に日本が挑戦する難しさはあるものの、ラピダスの試作成功のスピードは評価できるとしています。
日本の半導体産業は長く低迷していましたが、海外で経験を積んだ人材が戻ってきており、量産の目処が立てば人材も集まる可能性があります。
Q. このプロジェクトの成否はどのような意味を持ちますか?
大山氏は「成功しなくてはならないプロジェクトになった」と強調しています。これだけの国費を投入して失敗すれば、今後の国家プロジェクトに悪影響を及ぼすためです。

産業政策としての側面と安全保障の側面を両立させる必要がありますが、長期的には日本の技術的自立と産業競争力の回復につながる可能性を秘めています。ただし、今後も継続的な技術開発と設備投資が必要になるでしょう。
Q. 日本の半導体産業の復活につながりますか?
ラピダスの取り組みは、日本が半導体の「製造装置」と「材料」で強みを持っていることを活かす挑戦です。かつて世界をリードした日本の半導体産業の完全な復活は容易ではありませんが、最先端プロセスでの存在感を取り戻す一歩となる可能性があります。
現時点では「ラピダスを応援してほしい」という段階ですが、成功すれば日本の産業構造や技術的自立性に大きな影響を与えるプロジェクトとなるでしょう。
