
営業利益率40%。なぜエルメスは独り勝ちなのか?
LVMH VS エルメス 人気ブランド徹底比較
ブランド業界を代表する二大企業、エルメスとLVMH。営業利益率や企業戦略の違いから、なぜエルメスが中国市場で圧倒的な強さを誇るのか、またラグジュアリーブランドがいかに価値を創造・維持しているのか、財務戦略アドバイザーの田中慎一氏が解説。

Q. LVMHとエルメスでは、営業利益率に大きな違いがあるのはなぜですか?
LVMHとエルメスには、驚くほどの利益率の差があります。LVMHの営業利益率が22.3%であるのに対し、エルメスは40%という圧倒的な数字を誇っています。
この差の主な理由は両社のビジネスモデルにあります。エルメスは「静かなるラグジュアリー」を体現し、供給を徹底的にコントロールすることで希少価値を維持しています。一方、LVMHはより広範な顧客層をターゲットにしており、特に近年は中国市場などで積極的な販売戦略を展開してきました。
エルメスはマーケティングにもほとんど費用をかけていません。なぜなら、その商品自体が広告塔となり、口コミで広がるからです。これに対してLVMHは、トレンドに合わせた商品開発や広告宣伝に多くの投資をしています。
Q. エルメスが中国市場で特に人気がある理由は何ですか?
エルメスが中国市場で絶大な人気を誇る最大の理由は、その商品が「消費財」ではなく「資産」とみなされている点です。中国では、政府による贅沢品規制や経済の不確実性から、富裕層が資産防衛に関心を寄せています。

エルメスのバーキンやケリーバッグは、購入時よりも価値が上がることもある「資産」として認識されています。これは金(ゴールド)のような資産価値を持ち、時間が経っても価値が下がらない特性があります。
一方、LVMHブランドの製品は、どれだけ高価でも基本的には「消費財」です。購入した瞬間から価値が下がり始めるため、資産防衛という観点では劣ります。中国の富裕層は、現金の保有リスクや海外への資産移転の難しさから、エルメスのような資産価値を持つ高級品を選好しているのです。
Q. 日本市場はラグジュアリーブランドにとってどのような位置づけですか?
日本市場は、多くのラグジュアリーブランドにとって特別な存在です。LVMHの地域別売上データを見ると、日本は全体の約9%を占めており、特別に独立して表記されています。これは中国が「アジア・太平洋」というカテゴリーに含まれているのと対照的です。
エルメスに至っては、パンデミック前まで世界で最も多くの店舗が日本にありました。都市別で見ると、東京が世界一の店舗数を誇っており、パリでさえ3店舗しかないのに比べて多いのです。

この背景には、日本が「質」を重視する市場であることが挙げられます。日本の顧客は知識が豊富で、製品の細部まで理解している傾向があります。また、日本での購入者には日本人だけでなく、アジア各国からのインバウンド客も多く含まれており、アジア市場への影響力も大きいのです。
Q. ラグジュアリーブランドの企業統治にはどのような特徴がありますか?
ラグジュアリーブランド、特に「メゾン」と呼ばれる老舗ブランドの企業統治には独特の特徴があります。多くは上場企業でありながら、創業家一族が過半数の議決権を握っています。例えばエルメスでは、エルメス家が株式の約半分を所有し、議決権の2/3近くを保持しています。

この構造により、四半期ごとの業績に左右されず、長期的な視点での経営が可能になっています。LVMHやエルメスは具体的な財務目標を公表していませんが、これは最大のKPIがブランド価値の維持にあるためと考えられます。
こうした「パブリックでありながらプライベート」という二面性が、ブランドのアイデンティティや芸術性を守りながらもビジネスとしての成功を可能にしているのです。フランスの伝統的な「メゾン(家)」という概念が、企業統治の形にも影響を与えていると言えるでしょう。
Q. 近年のラグジュアリーブランドの業績動向はどうなっていますか?
2024年の最新データによると、ラグジュアリーブランド間で明確な業績格差が生じています。エルメスだけが売上、利益ともにプラス成長(それぞれ+11.1%、+10.6%)を維持している一方、LVMHは売上は微増(+1.7%)ながらも利益は大幅減少(-16.2%)、ケリングに至っては売上、利益ともに30%以上の大幅減少となっています。
この格差の主な原因は、中国市場の変化と顧客層の違いです。中国政府の贅沢禁止令や世界的な経済不安により、一般的な富裕層の消費が冷え込んでいます。しかし、エルメスの顧客である「真の超富裕層」の購買行動はほとんど変わっていません。
LVMHやケリングのブランドは「トレンド性が強い」消費財としての性格が強く、市場環境の変化に弱い面があります。一方、「静かなるラグジュアリー」を代表するエルメスやリシュモン(カルティエなど)は、相対的に影響が小さいのです。
Q. ラグジュアリーブランドの今後の成長市場はどこになると予想されますか?
中国市場の成長が鈍化する中、ラグジュアリーブランドの次なる成長市場として注目されているのは、中東とインドです。
中東は富裕層の絶対数は多くないものの、1人当たりの購買力が非常に高く、すでに成長市場として認識されています。
一方、インドは今後最も期待されている市場です。インドの富裕層は急速に拡大しており、高級時計やジュエリーなどへの関心が高まっています。たとえばトライアスロン大会に参加するインド人富裕層の間では、高級ブランド品を身につける傾向が顕著になっています。
世界のどの地域でも、経済発展に伴って富裕層が出現すると、ブランド品への欲求が高まるパターンは共通しています。この普遍的な心理を背景に、今後もラグジュアリーブランドは新興市場での成長機会を追求していくでしょう。
Q. ラグジュアリーブランドのビジネスから学べる経営の知恵は何ですか?
ラグジュアリーブランド、特にエルメスのような長期的に成功している企業からは、いくつかの重要な経営の知恵を学べます。
1. 供給のコントロールが価値を創る:エルメスやフェラーリのように、供給を意図的に制限することで、常に需要が供給を上回る「渇望感」のある市場を作り出すことが、長期的な価値創造につながります。
2. 短期的な利益追求より長期的なブランド価値を優先する:四半期ごとの利益に執着せず、ブランドの本質的な価値を守ることが、結果的に持続的な収益につながります。
3. オーナーシップと資本市場のバランス:上場企業でありながら創業家が支配権を維持するガバナンス構造は、外部からの規律を受けつつも、長期的視点での経営判断を可能にします。
4. M&Aでは「人材」を買う:LVMHのブルガリ買収に見られるように、単に事業を買収するのではなく、その企業の優秀な人材を活用することが成功につながります。
5. 「ブームにならない」ことの価値:一時的な流行に乗るより、時代を超えた価値を提供し続けることが、真のラグジュアリーブランドの強さです。
これらの知恵は、日本企業を含む多くの産業に応用できる普遍的な経営哲学と言えるでしょう。
