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注目の東南アジア経済:米中対立の中で
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2025年8月18日

今まで米中摩擦で漁夫の利を得ていた東南アジアが今回のテーマ。米中対立の中で東南アジアの立ち位置とは。これから成長する国はどこなのか。ASEANの存在意義が問われる。これからの東南アジアの経済について西濵徹氏に聞いた。 <ゲスト> 西濵徹|第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト。一橋大学経...
米中対立の狭間で揺れる東南アジア経済——トランプ関税と地政学リスクの最前線
トランプ関税がASEAN中心性を揺るがす時代に

Q. 米中対立の中で、東南アジアはどのような立ち位置にあるのでしょうか?
かつては米中摩擦の「漁夫の利」を得ていた東南アジアが、今や矛先を向けられる立場になっています。アメリカ向け輸出に関税がかかると、代わりの輸出先を探さなければなりませんが、中国がこれまでのように物を買ってくれるかどうかも不透明です。
東南アジアにとって厳しいのは、ベトナム、インドネシア、フィリピンなどの国々がアメリカからの輸入品に対する関税を基本的にゼロにする一方で、自国からの輸出品には20%前後の関税を課されることになった点です。アメリカ製品が大量に流入することで自国の製造業基盤が揺らぐ可能性も否定できません。
また、「ASEAN中心性」と呼ばれる、地域の問題は地域で決めるという暗黙の了解が、各国が個別にアメリカと交渉を進めたことで揺らいでいます。各国それぞれにナショナリズムが台頭する中、ASEANの一体性がどう維持されるかが重要なポイントとなっています。
トランプ関税で明暗分かれる東南アジア
Q. トランプ関税の現状はどうなっていますか?
最初に合意したのはイギリスで、その次に突如ベトナムが登場し、20%という数字が出てきました。これがベンチマークとなり、概ね各国19%~20%前後という水準に落ち着いています。
ベトナムの場合は特に、中国からの「迂回輸出」に対して40%という高い関税が設定されました。これは中国から直接アメリカに輸出する場合の関税(34%)より高く設定することで、迂回輸出の誘因を減らす狙いがあると考えられます。
ベトナムはもともと20%より低い水準での妥結を望んでいたとされ、インドネシアやフィリピンが19%で合意したことから、「早急に妥協しすぎたのではないか」という批判も出ています。
米中対立の「漁夫の利」から標的へ
Q. これまで東南アジアは米中対立からどのような影響を受けてきたのですか?
トランプ2次政権発足前までは、米中対立が進み中国からアメリカへの輸出が厳しくなる中、その「漁夫の利」を最も得てきたのが東南アジアでした。地理的な近さに加え、中国国内の人件費高騰もあり、原材料は中国で作り、最終的な加工・組み立ては東南アジアで行ってアメリカに輸出するという流れが生まれていました。

特にベトナムは、中国と比べて人件費が約1/3程度と競争力があり、若年労働者も多く、インフラも整備されているため、多くの企業が進出しました。日本企業だけでなく、韓国、台湾、そして中国企業も多数進出し、製造業の競争が激化していました。
しかし、トランプ2次政権の「米中摩擦対応」と「貿易赤字縮小」という二つの目標のもと、これまで追い風だった状況が逆風に変わりつつあります。
各国のバランス外交と地政学リスク
Q. 地政学的に見て、東南アジアと中国の関係はどうなっているのですか?
南シナ海問題への対応は大きなポイントです。フィリピンは前のドテルテ政権では中国に表面上融和的でしたが、現マルコス政権はアメリカとの同盟関係を重視し、中国との距離を置く姿勢を鮮明にしています。

ベトナムは中越戦争で中国に勝った歴史を持ち、共産党同士の関係がありながらも表面上は友好的、実際には警戒するという複雑な関係です。マレーシアも領有権問題を抱えつつ、経済面では中国系の人々が中心的役割を担っており、切り離せない関係にあります。
一方、カンボジアやラオスは中国に融和的な姿勢を示し、ASEAN会議などでも中国寄りの発言をします。インドネシアは中国漁船の侵入に強く対応する一方、投資は受け入れたいというバランスを取っています。
各国とも経済面では中国と切っても切れない関係にある一方で、安全保障や領土問題では難しい立場に置かれており、絶妙なバランス外交を強いられています。
タイとカンボジアの国境紛争
Q. 最近のタイとカンボジアの衝突はどういう経緯で起きたのですか?
この問題は長い歴史的背景があり、プレアビヒア寺院の領有権が焦点です。フランス植民地時代にカンボジア領と設定されましたが、地理的にはタイから近く、現在でも国境線の約1/4が未確定という状況です。

国際司法裁判所は寺院自体はカンボジア領と判断しましたが、国境線は両国の合意で決めるよう指示したままでした。5月末頃から急に衝突が始まった背景には、タイの政局変化があります。タクシン・チナワット元首相とフン・セン前カンボジア首相が友好関係にあり、表面上は落ち着いていましたが、タイ軍とタクシン派の対立もあり、状況が変化しました。
さらに、タクシンの娘であるペートントーン現首相がフン・センとの電話会談を録音され、その内容がリークされたことで国内のナショナリズムに火がついてしまいました。軍事力ではタイが圧倒的に優位であり、カンボジアは穏便に済ませたい一方、タイ国内ではナショナリズムが高まり、落としどころが見えにくくなっています。
この紛争には海上の国境問題も関係しており、そこには天然ガスが埋蔵されているため、経済的利害も絡んでいます。最近は米中両国も仲介に入り、一時停戦していますが、各国のナショナリズムと利害が複雑に絡み合い、今後も不安定な状況が続く可能性があります。
「ASEAN中心性」の将来は?
Q. ASEANという組織の意義は大きいのでしょうか?
ASEANの重要な特徴は「ASEAN中心性」(ASEAN Centrality)と呼ばれる考え方です。これは地域の問題は地域で決めていくという原則で、大国の思惑に左右されず、自分たちの問題は自分たちで解決するという暗黙の了解でした。
しかし、今回のトランプ関税への対応では、各国がばらばらに交渉し、先に有利な条件を得ようとする動きが見られました。これはASEANの一体性を揺るがす可能性があります。また、各国でナショナリズムが高まる中、共同体としての結束が試されています。
ASEANの将来にとって、各国がどのようにバランスを取りながら協力体制を維持できるかが大きな課題となっています。米中対立が深まる中で、各国の利害が複雑に絡み合い、ASEAN中心性をどう維持していくかが重要なポイントになるでしょう。