
終戦80年:「戦争終結論」現代への教訓
戦争はいかにして終わるのか?紛争終結のジレンマと歴史に学ぶ教訓
戦争の終わり方には「紛争原因の根本的解決」と「妥協的和平」という2つの形態がある。どちらの道を選ぶかは、「将来の危険除去」と「現在の犠牲回避」というトレードオフの関係にあり、その選択の難しさが今日の国際紛争にも影を落としている。防衛省防衛研究所の千々和泰明氏に、戦争終結の歴史と現代の紛争について聞いた。

Q. 戦争はどのようにして終わるものなのでしょうか?
戦争終結には大きく2つの形態があると考えられます。
1つ目は「紛争原因の根本的解決」です。第二次世界大戦で連合国がドイツに対して取った対応がこれにあたります。連合国軍はベルリンまで攻め込み、ヒトラーを自殺に追い込みました。戦争終結後にはベルリン宣言が出され、「地球上からドイツの主権は消滅した」と宣言されたのです。ドイツという主権国家は一旦地球上から消えることになりました。

この方法は相手を完全に打倒することで、二度と戦争が起きないようにするという発想です。相手を生かしておけば再び戦争になるかもしれないという危険を排除するのが目的です。
2つ目は「妥協的和平」です。1953年の朝鮮戦争休戦協定がその例で、北朝鮮と韓国が38度線を挟んで休戦しているという状態です。どちらも相手を打倒するには至らず、妥協点を見出した形となっています。
Q. 戦争終結の形態が分かれる理由は何でしょうか?
これは「将来の危険の除去」と「現在の犠牲の回避」という2つの価値のバランスで決まると考えられます。
第二次世界大戦時、ルーズベルト大統領は側近に「もしドイツと妥協すれば、10年後、20年後、30年後、50年後、私たちの子孫がドイツと戦うことになる」と述べました。これは将来の危険除去を重視する考え方です。
一方で、将来の危険除去を優先すると、現在の戦争で膨大な犠牲が出るというコストがかかります。そのコストを避けたいという考えが「妥協的和平」に繋がります。
朝鮮戦争の例では、当初は北朝鮮を打倒する方針でしたが、「これ以上の犠牲は払えない」という判断から1953年の休戦に至りました。1950年代の人々の犠牲は一旦回避されましたが、北朝鮮の危険は今日まで70年以上続いています。
このように、将来の危険を除去しようとすると現在の犠牲が増え、現在の犠牲を避けようとすると将来に危険が残るというトレードオフの関係があるのです。このバランスの中で戦争終結の地点をどこに持っていくかが、非常に難しい問題となっています。
Q. ウクライナ紛争の終結の見通しはどうでしょうか?
ウクライナ紛争については、トランプ政権になって停戦論が高まった時期がありました。報道によれば、ウクライナがNATOに加盟しないことや、ロシアが占領している東部・南部の4州の現状を認めるといった、ロシア寄りの停戦案が検討されていたようです。
しかし、プーチン大統領はそれを受け入れませんでした。プーチン大統領は2022年に戦争を始めた際、ゼレンスキー政権の打倒と「非ナチ化」を掲げています。「ナチ」という言葉を使うことは、第二次世界大戦時のように「根本的解決」を図るという意思表示と言えるでしょう。

一方、ウクライナにとっても、単に武器を置いて停戦すれば一時的に犠牲は減るかもしれませんが、ロシアが体制を立て直して再侵攻してくる恐れがあります。将来の安全保障が確保できない限り、停戦に応じることは難しいのです。
朝鮮戦争で韓国が停戦に応じたのは、戦後に米軍が韓国に駐留するという安全保障があったからです。ウクライナの場合はそのような保障が得られにくい状況にあり、停戦は困難な状況と言えます。
Q. ガザ紛争についてはどうでしょうか?
イスラエルはハマスからのテロ攻撃に対する反撃として軍事行動を開始しましたが、現在ではハマスが壊滅状態になっている中でも、パレスチナ・ガザの人々に対して過剰な暴力が行使されているという見方があります。最近ではガザ全土の占領も検討されているという報道もあり、イスラエルは「根本的解決」を図ろうとしていると考えられます。
Q. 核共有(ニュークリア・シェアリング)についてどう考えますか?
核共有とはNATOで実際に取られている方式で、アメリカのヨーロッパにおける同盟国にアメリカの核爆弾B61を配備し、戦時には同盟国の航空機にこの爆弾を積んで使用するという仕組みです。
NATO諸国がこの仕組みを採用している理由は、冷戦時代にソ連と西ヨーロッパが陸続きであり、有事の際には自国の領土内で核兵器を使用しなければならない可能性があったからです。この重大な決断をアメリカと同盟国が共有し、同盟国の航空機で核兵器を使用するというのがNATOの核共有の考え方です。
しかし、日本の場合は周囲が海に囲まれているため、自国領土内で核兵器を使用することは想定されません。そのため、NATOの仕組みをそのまま日本に移植することは適切ではないでしょう。
また、核共有といってもアメリカの核兵器なので、ヨーロッパの国が使用を望んでもアメリカが拒否すれば使えません。逆に、ヨーロッパの国が使用を望まなくても、アメリカ大統領はNATOの枠組み外で核兵器を使用できます。実際に核兵器を使用する場合は、B61爆弾よりもICBMや潜水艦発射型ミサイルが使用される可能性が高いでしょう。
核共有はNATOの特殊な文脈における仕組みであり、単純に他地域に適用できるものではないと考えられます。
Q. 太平洋戦争の終結から学べる教訓は何でしょうか?
アメリカはポツダム宣言という形で早期戦争終結を図りましたが、様々な不備もありました。結果的に核兵器の使用という安易な方向に走ってしまい、慎重さを欠いた行動に出てしまったと言えます。
日本側も、ソ連仲介策という国際政治の客観情勢を見た時に現実味のない考えにしがみつき、国内の合意形成を優先するあまり、適切な判断ができませんでした。
核兵器の使用については、「アメリカが全て悪かった」とか「仕方なかった」というような単純な一言では片付けられない複雑な歴史があります。そうした複雑な歴史の実相を見据えることが、日米が今後も同盟国として協力していく上で重要です。

戦争終結に関しては、万が一日本が戦争に巻き込まれた時に、どうやって出口を探っていくかを考えることが重要です。過去の失敗を繰り返さないためにも、出口戦略をしっかりと議論しておくことが必要です。
日本が出口戦略を真剣に議論していること自体が、潜在的な敵対国に「日本を攻めても思い通りの戦争終結には持っていけないだろう」と思わせる抑止力になりえます。そういった点でも、出口戦略をしっかりと見据えて考えていくことが重要です。
