PIVOT TALK BUSINESS
大企業の生産性は、AI活用で倍になる
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2025年8月7日

大企業のAI活用はどこまで進んでいるのか?AI推進で業務と生産性はどう変わるのか?SOMPOホールディングスでデジタル戦略を推進する執行役専務の楢崎浩一氏とグループCDO 執行役員常務の木村将之氏に聞いた。 <ゲスト> 楢崎 浩一|SOMPOホールディングス 執行役専務 デジタル・新規事業開発担当...
保険業界大変革期:SOMPOホールディングスが推進するAI戦略とは
世界最古のビジネスモデルの一つとされる保険業界。SOMPOホールディングスの楢崎浩一執行役専務(デジタル・新規事業開発担当)と木村将之グループCDO 執行役員常務に、大企業におけるAI戦略と業界の未来について話を聞いた。


Q. 保険業界はどのような構造変化に直面しているのか?
保険業界は大変革期を迎えている。楢崎氏によれば、保険は産業革命以前の16世紀頃から始まった世界最古のビジネスモデルの一つ。約400年もの間、同じモデルで運営されてきたが、現在急速に変わらなければならない状況に直面している。
変化が求められる理由として、「情報の非対称性」の崩壊がある。従来、保険会社は統計データに基づいて顧客のリスクを予測し、それに備えた保険を提供するという優位性を持っていた。しかし、デジタル技術やAIの発展により、顧客自身もリスク情報を把握できるようになってきた。これにより、保険会社と顧客の間の情報格差が縮まり、従来のビジネスモデルが通用しなくなってきている。
Q. SOMPOホールディングスはAIをどのように活用しているのか?
SOMPOホールディングスでは、AIの活用を段階的に進めている。木村氏によれば、最初の段階は一般的な業務プロセスの自動化だ。例えば「SOMPOAIチャット」という社内向けチャットボットを導入し、社員の半数以上が日常的に利用するまでになっている。
第2段階では、業務に特化したAIの開発と導入を進めている。保険金支払い処理や営業、商品開発など、各部門の業務プロセスに合わせたAIツールを展開。楢崎氏はこれを「スーパーRPA」と表現する。例えば、夜間に自動的にデータ処理を行い、朝には人間が最終確認するだけで済むようなシステムだ。
第3段階は「AIを前提とした会社」の構築。まだ構想段階だが、組織や拠点の在り方、顧客との関係性まで含めて、AIを前提に再設計した企業の姿を描いている。
Q. AI導入で具体的にどのような効果が出ているのか?
楢崎氏によれば、AI導入によって生産性は劇的に向上している。例えばソフトウェア開発の分野では、従来10人で行っていた作業が3人で可能になるほど効率化されているという。保険業界でも同様の効果が期待され、生産性は倍以上になる可能性があるという。

具体的な活用例として、保険金支払い業務がある。事故対応において、過失割合の判断や損害額の査定、修理工場の選定など、多くの作業をAIが支援・自動化できる。特に注目されるのが「詐欺検知」機能だ。大量の請求の中から不正の可能性が高いケースのみを抽出し、人間による詳細確認を効率化できる。例えば1万件の請求から、AIが50件を「要確認」として抽出すれば、人間の作業量は大幅に削減される。
また、売上向上にもAIが貢献している。顧客とのデジタル接点においてAIが最適な提案を行ったり、地震直後に地震保険の加入を提案するなど、状況に応じたタイムリーな営業活動が可能になっている。
Q. 介護事業でのAI活用はどのように進んでいるのか?
SOMPOホールディングスでは保険事業だけでなく、介護事業「SOMPOケア」でもAIを活用している。木村氏によれば、従来の介護業界では効率化のために入居者全員が同じスケジュールで生活することが一般的だったが、SOMPOケアでは異なるアプローチを取っている。
ベッド下に設置したバイオセンサーで入居者一人ひとりの生体情報を収集し、それぞれの生活リズムや健康状態に合わせた個別ケアを提供している。このデータはピーター・ティール創業のPalantir Technologies(パランティア)のシステムで分析され、例えば「この方は来週肺炎になる可能性が高い」といった予測を行い、予防的なケアを可能にしている。
一見すると個別対応は効率が落ちるように思えるが、実際には病気になる前に予防的なケアを行うことで、結果的に介護側の負担も軽減され、効率化と質の両立が実現している。
Q. AI導入の際の課題と解決策は何か?
AI導入における大きな課題は、社員や代理店などの関係者がその有用性を理解し、積極的に活用するようになるかという点だ。楢崎氏によれば、特に年配の社員はAIに対して「自分には関係ない」と考える傾向があった。
解決策として、まずは「SOMPOAIチャット」という使いやすいツールを提供し、AIに慣れてもらうことから始めた。単にツールを配布するだけでなく、現場の社員が実際にどのように活用しているかの事例を社内で共有する仕組みを作り、「ユーザー生成型」の活用文化を育てることに成功している。
代理店向けには「おしそん(教えてSOMPO)」というチャットボットを提供し、業務に関する質問に答えられるようにしている。重要なのは「いかに便利だと思ってもらうか」というポイントで、実際の業務上の課題を特定し、それを解決できるツールを提供することが鍵となっている。
Q. 人材交流の重要性について、どう考えているか?
木村氏は外部からの人材登用という点で珍しい例だ。従来、大企業とスタートアップの協業が進まなかった理由の一つとして、お互いの世界を理解する人材の不足が挙げられる。SOMPOホールディングスでは楢崎氏自身も外部から招かれ、さらに木村氏を引き入れるなど、積極的に外部人材を登用している。
楢崎氏によれば、大企業側の「現状維持バイアス」や「デジタルはITの一部」という認識が、イノベーションの障壁となっていた。しかし、AIの普及により、「AI使わなければ仕事にならない」という状況が生まれ、こうした障壁が徐々に崩れつつある。
木村氏は「人の移動が非常に有効」と強調する。特に、ベンチャーキャピタルや支援機関など、スタートアップと大企業の間に立つ「中間的な属性」を持つ人材の移動が増えることで、両者の連携がさらに進むと期待している。
Q. 5年後の保険業界とAI活用の未来像は?
楢崎氏は保険という商品自体の性質が変わると予測している。従来は事故や病気が起きた後に保険が機能するモデルだったが、今後はより「予防的」な価値提供へと変化していくという。

木村氏は保険会社の強みとして「結果のデータ」を持っている点を挙げる。例えば、日常的な健康データと疾病データの両方を持つことで、より効果的な予防や治療法の開発に貢献できる可能性がある。アメリカではすでに保険会社が健康モニタリングデバイスのデータを活用し、予防から治療まで一貫したサービスを提供する動きが始まっている。
楢崎氏は「AIが入っていないものはない」状態が当たり前になり、「AIでできることは全部AIでやって、人にしかできないことに人が集中する」働き方に変わっていくと予測している。その意味で、保険業界もテクノロジー企業に近い存在へと変貌を遂げる可能性がある。