
地政学で見る中国最大の弱点/トランプが他国の領土を欲しがる意味
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2025年8月8日
「政策超分析」では、専門家が政策や国際情勢を徹底解説。今回のテーマは「地政学入門」。後編では、地政学の見地から中国の弱点を分析。 <ゲスト> 小手森千紗|PIVOT MC 峯村健司|キヤノングローバル戦略研究所 上席研究員 https://x.com/kenji_minemura 奥山真司|多摩大...
地政学リスクの真髄!「海を制する者が世界を制する」

Q. 地政学とはどういう概念なのですか?
地政学は国家間の力関係を地理的要素から分析する学問です。特に「リムランド理論」が重要で、ユーラシア大陸の縁(リムランド)を押さえることが世界支配の鍵とされています。大陸国家(ランドパワー)と海洋国家(シーパワー)という区分も基本概念です。

中国はランドパワーの代表例で、内陸から発展し大陸的思考を持ちます。一方、イギリスやアメリカはシーパワーの典型で、海を通じた交易と影響力拡大を重視します。こうした国家の性質は現代の国際関係や軍事戦略にも大きく反映されています。
Q. 「チョークポイント」とは何ですか?なぜ重要なのでしょう?
チョークポイントとは、海上輸送路における狭い水路や海峡など、船舶が通過する際のボトルネックとなる地点です。世界には14の主要チョークポイントがあり、マラッカ海峡、スエズ運河、パナマ運河、ホルムズ海峡などが特に重要です。
これらの地点は「海峡を制する者がルートを制する」という古くからの考え方に基づき、戦略的に極めて重要視されています。チョークポイントが閉鎖されれば、世界経済に大きな打撃を与えるため、各国はこれらの安全確保に多大なリソースを投入しています。
Q. イスラエル・ハマス紛争は海上輸送にどのような影響を与えていますか?
2023年10月以降のガザ情勢の悪化により、特に深刻な影響を受けているのがバブ・エル・マンデブ海峡です。イエメンの反政府武装組織「フーシ派」がイランから武器を得て、イスラエル関連の船舶を攻撃しています。
この結果、同海域の船舶通行量は約6割減少し、世界貿易の約3割が通過するこのルートの混乱は国際的な物流コストを急増させています。船舶戦争保険料が高騰し、船会社は危険回避のためアフリカ南端の喜望峰周りの長距離ルートを選択せざるを得なくなっています。
Q. これらの海上輸送路の混乱は私たちの日常生活にどう影響していますか?
意外なほど身近な影響が出ています。例えば、スペイン産イベリコ豚の生ハムの入荷が大幅に減少し、イタリア製の革靴修理用のビブラムソール(ゴム底)が入手困難になっています。
輸送コストの上昇は日本の物価高にも直接影響しており、欧州からの輸入品は特に価格上昇や入荷遅延の影響を受けています。こうした「地政学リスク」は、私たちの生活に直結する問題となっています。
Q. 北極海ルートはなぜ注目されているのでしょうか?
2000年代以降の地球温暖化により、北極海の氷が減少し、夏季には比較的自由な航行が可能になってきました。従来のスエズ運河経由のルートと比較して、日本からヨーロッパ(例:横浜からロッテルダム)までの距離が約3割短縮できるメリットがあります。

最初にこの機会に注目したのはロシアで、その後中国も積極的に関与しています。北極海ルートは燃料費の削減、海賊リスクの回避、運河通行料の節約などの利点がありますが、ウクライナ侵攻後の国際情勢により、現在は中国以外ほとんど利用されていません。
Q. 米中の覇権争いにおいて、シーパワーとランドパワーの違いはどう表れていますか?
アメリカは典型的なシーパワーとして、世界中に海軍基地を設置し、同盟国との協力関係を重視しています。イギリスから多くの拠点を引き継いだアメリカは、内陸への直接進出は避け、海洋支配を通じたグローバルな影響力維持を戦略としています。
一方、中国はランドパワーの発想から、「第一列島線」「第二列島線」といった領域的な線引きを行い、周辺国に警戒感を抱かせています。中国の海軍艦艇数はアメリカを上回っていますが、アメリカは同盟国との協力で広範囲をカバーしているのに対し、中国は自国周辺に集中しています。この違いは「一国だけの大型スーパーコンピューター」と「世界中とネットワークでつながった中規模コンピューター群」の違いに例えられます。
Q. 中国が「マラッカジレンマ」と呼ぶ問題とは何ですか?
マラッカジレンマとは、中国の国力が増大するほど、アメリカの影響下にあるマラッカ海峡への依存度が高まるというパラドックスを指します。中国は石油やLNGなどの資源輸入の多くをこの海峡に依存しており、有事の際にアメリカによって封鎖される恐れを強く懸念しています。

この懸念から、中国はミャンマーやパキスタンなど代替ルートの開発を模索し、タイを横断するクラ運河構想なども提案しています。中国軍や政府関係者との会話では、この問題が頻繁に言及されるほど重要視されており、中国の海洋戦略の根底にある「被害者意識」の象徴となっています。
Q. 台湾の戦略的価値はどこにありますか?
台湾は、マッカーサーが「空母20隻分の価値がある」と評したように、極めて高い戦略的価値を持っています。現在、台湾とその周辺には各種監視システムが配備され、中国軍の動向を逐一監視していますが、もし中国が台湾を支配すれば、その東側に潜水艦基地を建設し、マリアナ海溝の深海へのアクセスを確保できます。
これにより中国の潜水艦が日米に探知されることなく太平洋に進出し、日本の裏側や米国西海岸に接近することが可能になります。つまり台湾は、中国がシーパワーとして飛躍するための「マジックカード」的存在なのです。
Q. 中国はシーパワーとランドパワーの両立を目指していますが、これは実現可能ですか?
歴史的に見て、シーパワーとランドパワーの両立は非常に困難です。フランスやナチスドイツが試みましたが失敗し、日本も陸軍と海軍の対立により悲劇的な結末を迎えました。中国の明代にも海洋進出を試みた後、内陸の問題に対応するため海洋政策を放棄した歴史があります。
現代中国も「一帯一路」構想を通じて両方を追求していますが、内部対立や予算配分の問題が生じています。唯一例外的に成功しているのはアメリカですが、これはイギリスから海洋拠点を引き継ぎ、内陸への深入りを避けてきたからです。
内陸問題を抱える中国の海洋進出を抑制する戦略として、日本などはインドや中央アジア諸国との関係強化を図っています。これは中国の注意を内陸方向に向けさせる効果があります。
Q. 国際情勢を見る際に、地政学的視点からどのようなポイントに注目すべきですか?
リムランド地域に特に注目すべきです。世界経済を動かし、主要な地政学リスクが発生するのもこの地域です。中東、ウクライナ、東アジア(台湾問題)などが注目される理由もここにあります。
これらの地域で起きる事象は互いに連動していることが多く、俯瞰的視点で見ることが重要です。また、チョークポイントの動向はビジネスや物流に直結するため、常に注視する必要があります。
地政学的視点は「なぜこの国とあの国が仲良くしているのか」「なぜこの地域で紛争が絶えないのか」といった問いに対する深い理解を助けてくれます。一見複雑に見える国際関係も、地政学の視点から見ると理解しやすくなることがあります。
