PIVOT REPORT
茨城県・境町 常識破りの地方改革
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2025年7月30日

地方の人口減少が加速する一方で、茨城県境町では人口が増加している。この境町に人が集まる理由を探るべく、地方創生に詳しいNEWPEACEの高木新平氏とともに現地を取材。その秘密を橋本町長に聞いた。 <ゲスト> 橋本正裕|茨城県境町町長 高木新平|NEWPEACE 代表 ブランディングの専門家。富山...
稼ぐ自治体・境町はなぜ人が集まるのか?驚きの手法とカオスな経営戦略
茨城県境町は、人口増加に転じ全国から視察が殺到している注目の自治体だ。従来の地方創生とは一線を画す「稼ぐ自治体」としての戦略が話題を呼んでいる。なぜこの町に人が集まるのか、その秘密に迫る。

Q. 境町はなぜ「稼ぐ自治体」と呼ばれているの?
境町は、ふるさと納税の納税額が6万5000円から54億円に激増した自治体として知られている。橋本正裕町長は「名産品がなければ作ればいい」という発想で、うなぎの加工工場を建設。江戸時代に小川で取れたうなぎの歴史を活かし、再び特産品として開発した。ふるさと納税のうなぎへの寄付申し込み額は8.2億円と大人気となっている。
また、ふるさと納税以外にも、道の駅や工場の建設費用には国の交付金を活用し、運営会社から家賃をもらう仕組みを構築。27箇所から年間およそ1.5億円の家賃収入を得ている賢い経営戦略を持っている。
Q. 境町の道の駅はどんな特徴があるの?
境町の道の駅は、「パクリ」と町長自ら認める千葉県野田市の人気サンドイッチ店を参考にした「SAKAI SAND」を出店。「野田市の食べログを見た時に、食べログの1位にコージーサンドイッチというのがあった。お土産を買いに行った時にレクサスなど高級車が停まっていて客層がいいと気づいた」と町長は語る。

道の駅には高級ステーキハウス「ウルフギャング」や寿司の名店「寿司銀座小野寺」の系列店など、都心で人気の店を次々と誘致。さらに沖縄県国頭村との友好関係を活かした「国頭村公設市場」も設置し、沖縄でしか買えないようなマニアックな商品も豊富に取り揃えている。週に約50万人が訪れ、売上も非常に好調だという。
Q. 境町はどのように地域の枠を超えて「稼ぐ」のか?
境町は地域の枠にとらわれず、「何でもあり」の発想で商品を取り揃えている。例えば、沖縄の公設市場では、宮崎県のマンゴーを格安で販売。町長は「宮崎のうなぎ屋さんが宮崎農協に売ってくれて、B品のマンゴーをキロ単位で売ってくれる。だから1個1400円で売れる。普通に買ったら4500円するところ」と説明する。
NEWPEACE代表の高木新平氏は「地方の人はその地方のものだけでやろうとしてしまうが、関係ないものも含めてプラットフォーム化した方がいい」と分析。境町はまさにその発想を実践し、成功している。
Q. 移住者を増やすために、どんな政策を行っているの?
境町は「25年住めば無償で家がもらえる」という画期的な移住支援策を実施。令和6年度には200世帯70人を超える人が移住し、人口も増加している。

移住者の一人は「元々住んでいたところに比べて全然広い。戸建てに住めるなんて思ってもいなかった。家賃も今までよりも安く、のびのび住めている」と語る。また「境町を調べるまで全く知らなかったが、移住前に調べたらどんどんいろんな政策をしていることが分かった。英語教育に力を入れていることや、災害対策、水道代無料、子どもの医療費が20歳まで無料など、この先も楽しそうだと思って移住した」と評価している。
Q. 境町のユニークなスポーツ施設とは?
境町は東京オリンピックで使用されたBMXのコートを買い取り、屋根付きの「オリンピックパーク」として再利用。「日本は365日中、雨が心配なので、BMXやインラインスケートなどは雨が降ったらできない。だから屋根を付けている」と町長。
この施設には世界各国から選手が訪れ、練習場として活用している。さらに、雪のない地域にスノーボードやスキーの練習に適した人工芝のジャンプ台も設置。若者やトップレベル選手を呼び込み、移住促進につなげる戦略だ。
Q. 自動運転バスの導入で何を目指しているの?
境町は自動運転バスの導入でも先進的。フランス製のナビア社「アルマ」とエストニア製の「ミカ」という2台の自動運転バスを運行。企業のスポンサーステッカーを貼って収入も得ている。
「境町でいろんな法律を変えたり、信号協調という信号のデータを取ったりといった実験をして、全国に横展開している。国のモデル事業としていろんなことをここでやっている」と町長は説明する。
町長はこの自動運転バスについて「クソ真面目に考えず、ヨーロッパのゴンドラのようなエンターテイメント感覚で捉えれば、お金も取れるかもしれない」と柔軟な発想を持っている。
Q. 議員から町長になった理由は?
橋本町長は「祖父が議員を長くやっていて、72歳で亡くなった。自分も27歳で議員になったが、議会には力がないと分かった。いろんな提案はするけど、やるのは首長だから」と議員から町長への転身理由を語る。
また、議会と首長の目線の違いについて「気遣いが大事。例えば、新聞やテレビで『知事が今度こんなことやります』と発表される前に、全て議員に説明して、予算や内容を説明してからプレスリリースを行う。そうすれば、住民から聞かれた時に議員が『知らない』ではなく、『そうだよ。この財源はこうでこうなんだ』と説明できる信頼性の違いがある」と説明している。
Q. 町長自身の経営哲学は?
町長の経営哲学は「カオス」という言葉に集約される。かっこいい周期計画を作って実行するのではなく、1つ1つ積み上げながら気づいたらこうなっていたという手法だ。

教育への投資も重視しており「亡くなった時にどうするかで、生活的に苦しい家庭もいっぱいある。どんな家庭の子であってもできるように。それが英語教育であり、教育の根幹なので、そこにはお金をかける」と述べている。
「この地域が良くなるか、この子供たちが良くなるか、今日よりも明日この人たちが良くなるためにやっているだけ」という町長の言葉に、境町の成功の秘訣が隠されているようだ。